日本では、1月に餅をノドに詰まらせる事故が急増します。もしかしたら、あなたの目の前で、誰かが餅をノドに詰まらせるかもしません。
その時、どのように対処すればいいのでしょうか。
救急救命医の経験を持つ『MYメディカルクリニック』の医師である、笹倉渉先生にうかがいました。
餅をノドに詰まらせたら…
笹倉先生によると、「餅をノドに詰まらせたら、5~10分が勝負の緊急事態」だといいます。
誤って何か異物を気道に飲み込み、異物が気道をふさいで呼吸困難になることを『気道異物(による窒息)』といいます。
日本では気道異物による窒息で亡くなる人が一番多いのが1月。餅をノドに詰まらせる人が多いわけです。
私は救急救命医の経験があるので、実際に餅をノドに詰まらせた患者さんも対応したことがありますが、医師としての一番早く確実な処置は、『直視下でマギール鉗子(かんし)という器具を使って取り除くこと』です。
最近の病院では、カメラ機能がついているビデオ喉頭鏡(こうとうきょう)が普及してきています。これを備えた施設では、直視下ではなくてビデオ喉頭鏡を使うことも多いでしょう。
気道をふさがれると呼吸ができず、5~8分で低酸素状態に陥り、脳に酸素がいかなくなると、たとえ心臓が動いていても脳死状態になります。
餅をノドに詰まらせるというのは、まさに5~10分が勝負の『現場ですぐに対処すべき事故』です。
脳死に至る前に気道を確保しなければならないため、すぐに餅を取り除く必要があります。
時間内に救急車が到着すれば、気管挿管(※)などの処置で事なきを得ますが、10分以内に救急車が着くのを期待できない場合は、その場にいる人が対応しなければなりません。
※ノドに管を通して呼吸できるよう空気の通り道を確保すること。
※写真はイメージ
すぐに救急車を呼ぶ!
では、実際に餅をノドに詰まらせたらどうすればいいのでしょうか。
実際に目の前で餅をノドに詰まらせた人がいたら、すぐに119番に電話してください。
電話では、救命士がそばにいて、通報者から症状を聞き、対処法を指示してくれます。スピーカーフォンにして、その指示を聞きながら救命活動を行います。この間に救急車が現場に向かいます。
もし救命士の指示が得られなかったら、救急車が到着するまでに以下の順番で、餅を取り除くよう試みてください。
1.指でかき出す
口を大きく開けさせ、気道に詰まった餅を指でかき出せないか試みます。実際、私もマギール鉗子がない時には指で餅をノドからかき出した経験があります。
私の場合、幸いにして指が長かったため、うまく救命することができました。緊急事態なのでノドを傷付けることを気にするよりも、いち早く餅を取り除くことを考え、恐れずに行ってください。
2.背中をたたいて吐かせる
餅を詰まらせた人に下を向かせ、背中(左右の肩甲骨の間あたり)を力強く叩いて吐かせます。
3.ハイムリック法
『ハイムリック法』(腹部突き上げ法)は以下の手順で行います。
1.餅をノドに詰まらせた人の後ろに回る。
2.その人の脇の下から両手を前へ回し、後ろから抱きかかえるようなポジションを取る。
3.片手で拳を作り、その人の腹部に当てる。
4.もう片方の手で『3』の拳を握り、その人の腹部へ拳を押し込みながら身体を素早く引き上げる。
5.異物が吐き出されるまで、素早く引き上げる動作を繰り返す。
気を付けたいのは、下から上へ身体を引き上げる(突き上げる)動作を1回ずつ確実に行うこと。
ただし、高齢者が対象の場合、素人が『ハイムリック法』を行うと臓器を傷付けてしまうことがあります。
『ハイムリック法』は訓練しないと難しいため、『1』『2』の方法で餅を取り除くのがベターです。
4.掃除機などで吸い取る
掃除機で吸い取るのを試みてください。掃除機を使うのは効果的だというエビデンスもあります。
最近では掃除機に付ける『餅を取るための独自のノズル』も市販されています。万が一のために、そのようなアイテムを購入しておくのもよいでしょう。
最近では赤ちゃん用の鼻水を吸う機器がドラッグストアなどで販売しています。家庭にこのような機器があったら、それを使ってみるのも1つの方法です。
最後に、笹倉先生からは以下のアドバイスがありました。
餅をノドに詰まらせて『チョークサイン』という自分のノドを絞めるような動作をする人がいたら、まず119番に電話をしてください。
そして、すぐに救命作業を行います。『5~10分が勝負の現場でなんとかしないといけない事態』であることを覚悟してください。
餅をノドに詰まらせて、呼吸困難のサインをする人がいたら、周囲にいる人はすぐに対処する必要があります。
笹倉先生の説明にあるとおり、すぐに119に電話し、迅速に対処を始めることを忘れないでください。
【笹倉渉 Profile】
医師。株式会社海医代表取締役。2024年現在、複数の企業の産業医、医療法人顧問を務める。
2006年藤田保健衛生大学医学部卒業。公立昭和病院で初期臨床研修修了後、東京慈恵会医科大学附属病院で麻酔・救急医療に従事。
「健康を支える手立ては第一次医療である健康管理にあるのではないか」と考え、2016年に開院した渋谷MYメディカルクリニック院長に就任。
大手町、横浜みなとみらい、田町三田、新宿、せんげん台と働く人が多い街に医院を展開。現在は経営から退き、再び現場で医療現場と一般社会の常識の齟齬をなくす活動に従事している。
[文/高橋モータース@dcp・構成/grape編集部]
配信: grape [グレイプ]
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