●誰彼構わず見せてはいけないものがある
医学部と歯学部の学生は、献体によって実習解剖が実現できる。実際に解剖しない看護学部の学生なども見学にやってくる。
そこでは、医療従事者として、献体された遺体への向き合い方も口酸っぱく教わるという。
「献体をしてほしくないと考えるのは、家族です。死んでしまったら痛くも痒くもないとご本人はおっしゃることが少なくありませんが、ご家族は違います。
解剖させていただくご遺体を粗末に扱ってはいけません。献体は尊いとしても、ご家族は肉親の身体が解剖されるのは見たくありませんし、見せてはいけません」
坂井さんによると、国によっても、献体の事情はかなり異なる。
「まず、ご遺体に対する感覚はかなり違います。特に日本人はご遺体を大切にする感覚を強く持っているだろうと思います。
そして、解剖体をどのようにして入手しているかという問題です。アメリカでも献体の制度はありますが、大学のほかにNPO法人も献体を受け入れています。
また、アメリカで献体されたご遺体は、希望がある場合を除き、大学の共通墓地に埋葬するのが基本とされています」
献体を取り巻く事情は海外のほうが「かなりドライ」だと指摘する。今回の美容外科医の振る舞いに対する大きな反発も、また、日本人であれば共感できるものだろう。
●説明をつくし続ける必要がある
「国内の大学では、献体のご遺体に対して誠心誠意の対応がされています。解剖している学生や医療者が真摯に取り組んでいると信じていますが、今回のような情報発信が起こってしまったのは残念です」(坂井さん)
「献体することをやめた」 「献体したくない」
そのような表明がSNS上でなされていることも、坂井さんは深刻に受け止めている。
「献体したくないというお気持ちを持たれて、献体の登録者が大学にやめたいと申し出ることがあるかもしれません。我々も大学も、献体者に納得できる説明を尽くす必要があります」
近年安定していた献体数が、一部地域や大学で足りなくて苦労しているという声が聞こえているそうだ。
配信: 弁護士ドットコム