「いいお母さん」じゃなくて「ハッピーなお母さん」。有賀さんと話して考えた「料理と個性」の話

有賀さんの「耳で楽しむおいしいスープレシピ」の撮影後、有賀さんが淹れてくれたおいしいコーヒーをいただきながら雑談をしていたときのこと。料理家さんの服装について話が及びました。

有賀さんは撮影の時、明るい洋服を選ぶことが多いそうです。これは他の料理家さんからも聞くそうで、料理家さんと明るい洋服で並ぶことも多いのだとか。

有賀さんと山口祐加さんとの撮影の日は、お二人とも鮮やかなオレンジのお洋服でした!

確かにお洋服が明るいと現場も明るくなるし、お料理もおいしく見えそうです。有賀さんと山口さんの撮影はアウトドアだったので、明るいお洋服が自然に映えてとっても楽しかったことを覚えています。

一方で有賀さんは言います。「『明るくてやさしいお母さん』とか『料理上手で笑顔の女性』みたいな像が、長く料理家のイメージとして求められてきた歴史があるのだと思う。でも、それはもうそうじゃなくていいよね、と思うことも多くて」と。「だから私金髪にしようかなって一時期本気で考えたこともあるのよね」と、有賀さんはいつもの笑顔で教えてくれました。

「金髪の有賀さん、めっちゃいい!!!」と、私が大賛成していると、有賀さんは「まあ私の場合は髪が痛むからって美容師さんに止められちゃったんだけど(笑)、でも金髪の料理家でも、モノクロの服を着た料理家でもいいよね。それも一つのジェンダーレスというか」と続けました。その話がとてもおもしろくて盛り上がったので、それ以来私は色々とこのことについて考えています。

有賀薫さん、しらいのりこさん、山口祐加さんとの「おうち中華を楽しむ会」には、お子さんも含めてたくさんのお客さんが「食」を楽しみにきてくださいました!

アイスムが食のメディアとしてリニューアルした時はすでに、リュウジさんやコウケンテツさんは大活躍だったし、私は料理初心者の頃からケンタロウさんのレシピを参考にしたりしていました。だから私の中ではすでに「料理研究家=女性」だったり、「料理研究家=家庭的」といったイメージはありませんでした。

だけどもっと前まではたしかに、「料理研究家」といえば圧倒的に女性のイメージが強い時代が長かったのだと思います。お母様もお祖母様も料理研究家というおうちで育ったきじまりゅうたさんは、「幼い頃は男子台所に入らず、という環境だった」と教えてくれました。でも言うまでもなくきじまさんは今、大人気の料理研究家として第一線で活躍されています。

アイスムの懇親会で、息子はきじまりゅうたさんに唐揚げを教えていただきました。この時の唐揚げを息子は家でも時々作ってくれます。

ではそもそも、料理や食に男女の違いってあるのでしょうか。

私は車の運転をしないので、夫と二人で外食する時は私だけがお酒を頼むことも多いのですが(ごめん夫、ありがとう夫)、夫側にお酒が置かれることが結構多くあります。お酒=男性、といったイメージがなんとなくあるのかもしれません。反対にこれがデザートだと、女性の前に置かれるというパターンも多いようです。(うちは二人ともデザートまで食べるので、片方だけ頼むことはほぼないですが…!)

前になかやまきんに君さんがご自身のYouTubeで言っていましたが(アイスムのきんに君さんのインタビューもすばらしいのでぜひ!)、例えばスイーツが好きな男性がいれば、トンカツが好きな女性だっています。平均的に女性よりも体格の大きな男性がカロリー面で女性よりも多くのものを必要とするといったことはもちろんありますが、人それぞれ、一日に必要なカロリーや栄養素は違うし、それを十把一絡げにして「女性向け」「男性向け」とすることはできません。料理って、そういう意味ではそもそも、ジェンダーレスなものだと思うのです。

アイスムは女性、男性に関わらず、いろんな方に登場してもらっています。そこで「女性らしさ」や「男性らしさ」を求めることはありません。料理家さんにレシピをお願いするときも、「女性ならでは」とか、「男性が作る!」といった依頼をすることはありません。

料理家さんとそのレシピにはそれぞれ、個性があります。野菜の味を生かしたシンプルなレシピが魅力の料理家さんもいれば、簡単な手順でお店のような味のレシピを教えてくれる料理家さんもいます。私たちはそれぞれの料理家さんのそういう部分に共感したり魅力を感じて、読者の生活に寄り添い、応えてくれる方を選んでお願いしています。

「リュウジのレシピトレード」には、たくさんのゲストが登場します。前回のゲストは山本ゆりさん!

だからレシピに、ましてや料理家さんの服装に、女性らしさや男性らしさを求めることはまずありません。(なので料理家のみなさんはアイスムの撮影には好きな服を着てきてください!)当たり前のことだけれど、考えてみればそれはなんというか、「料理」というものが持つ、すごく良いところかもしれないな、と思います。

ただ、料理そのものに男女の差はなくても、料理というものをとりまく環境の差はあります。日本ではまだまだ主におうちごはんを担うのが女性のことが多いという現状もあります。

例えば働きながら家族の食を準備することの大変さは、それを担ったことがない人にはなかなか想像がつきません。毎日会社へ行き、そのあと保育園に子どもを迎えに行き、ソファに座る間もなく料理の準備をする、その大変さはやっぱり相当のものです。私は今はフリーランスとして仕事をしているので比較的時間を自由に使えるけれど、子どもがまだ小さくて、フルタイムでサラリーマンをしていた時は、料理がしんどいと思う場面がもっとありました。(もちろん、子どもが大きくなればそれはそれで、フリーランスであればそれはそれで、悩みはまた別のものに変化していくわけですが。)

先日の忘年会で白央篤さんが作ってくださった「イカのガパオ」!白央さんのアジア料理、絶品です。

さらに、まだまだ、例えば「女性なのに」「母親なのに」料理が苦手であるということへの罪悪感みたいなものを持つことも多い気もします。ただでさえ物理的な大変さを抱える中で、さらに「女性だから」「母親だから」料理をがんばらなきゃいけないなんてプレッシャーを抱えようものならもう大変です。かつての自分もそうだったように。

だけど「女性だから」「母親だから」料理をがんばらなきゃいけない、上手に作らなきゃいけないなんてこと、そもそも全くないはずなのです。だって料理そのものが、女性らしさや男性らしさを超えたところにあるのだから。料理家さんのレシピは、性別や性自認の区別なくそれぞれにおいしいのだから。

京都でのコウケンテツさんのイベントでは、男性からの質問もたくさんいただきました!

金髪の料理家さんがいてももちろんいいし、料理の苦手なお母さんがいたっていい。「いいお母さん」は、料理が上手な人というわけじゃない。そもそも「いいお母さん」なんて、他人の物差しで測れるものじゃない。誰かが考える「いいお母さん」じゃなくて、自分が「なんだかハッピー」と思えるお母さんでいられたらそれが一番いいのかな、と、そんな気がしています。

そのためにアイスムでは、料理をもっともっと自由に、おおらかに捉えていきたい、そしてそういう企画をたくさんお届けしていきたい、と思っています。

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がんばる日も、がんばらない日も、あなたらしく。「食」を楽しみ、笑顔を届けるメディア、アイスムです。 食を準備する人の気持ちが少しでも軽く、楽しくなるように。 おうちごはんのレシピや食にまつわるコラム、インタビューなどを通じて新しい食シーンを提案します。
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