心理カウンセラー白目みさえ先生のもとに訪れたのは夫からDVを受け、シェルターに避難した親子。現在は、実家に戻って暮らしているが、娘は学校で話さず緘黙の状態(=かんもく。学校や職場など特定の場所や状況で話せなくなってしまう)が続いているという。今回は、DV被害の親子を描く白目みさえさんの「白目むきながら心理カウンセラーやってます 親子カウンセリング編」を紹介するとともに話を聞いた。※この記事はセンシティブな内容を含みます。ご了承のうえ、お読みください。
■母親は幼少期から父親のDVにあっていた。そのせいで「私のせい」という自責の念が強かった
依頼人の四谷まことさんは子どものころ、100点の答案を父親に見せようとした。すると、「お前が洗濯しなかったから、着ていくものがない!」と、突然父親にぶたれた。「褒められる」と思って帰った瞬間の出来事で、何のことだかわからず、しばらくたって「洗濯しなかったこと」を責められていると気づく。そんな幼少期を過ごしてきたまことさんは周囲の顔色を伺いながら、うまく立ち回るクセがついていた。
結婚後、疲れている夫に「何か忘れてた?ごめんなさい」「何か気に触った?」と話しかけると、「なんでもかんでも察してんじゃねよ!」と激怒。そこからは、怯えるまことさんに夫がイラつき、暴力をふるうという悪循環に陥った。結果、娘さんが学校で話さなくなったのは「私のせい」と思っているようだった。今回は、子どもが話さなくなったのは「私のせい」と落ち込んでいる母親と緘黙の状態で話をしない娘の親子カウンセリングを描く。
■「どこが解決すれば、この方は進み始めることができるのか?」という姿勢を大事に
――白目さんがカウンセラーを始めたきっかけを教えてください。
中学生のころに読んだ小説の中に「臨床心理士」という職業の人が登場し、どうやら「心理検査などを使って人の心が理解できる職業」が存在するらしいというのを知ったのがきっかけでした。当時はどちらかというと魔法使いのような印象で、想像力や第六感のようなものを頼りにした職業だと思っていたのですが、実際に現場でやってみると、統計的データとの比較や試行錯誤の繰り返しで、むしろ理系的な考え方が必要な職業で驚きました。
元々偏屈な祖母のもとで育ったこともあり、カウンセラーに求められる「人の気持ちや考えを想像し続ける」ということを当たり前のようにやっていたので、無理なく続けられているのではないかと思います。
――白目さんがカウンセラーとして漫画を描く際にこだわっているところ、気を付けているところなどがあれば教えてください。
ひとつは、必ず「フィクションである」という点です。きっかけとなったエピソード、印象的な言葉、流れなどから着想を経て作品を描いていることには間違いないのですが、カウンセリングは守られた空間であり、個人の秘密が外に流れ出る場所であってはいけません。そのため個人の特定にならないように、モデルとなった方が「これは私のことだ」と思われないように、フェイクを入れたり複数の方のケースを織り交ぜたりして、あくまでも「この物語の主人公のお話」という作品になるように気をつけています。
ふたつめは、できるだけ「特殊なお話」にならないようにすることです。個人の秘密が外に漏れることは避けなければいけませんが、それと同時に相談内容や治療イメージが完全に隠されてしまっては「カウンセリングがなんなのか?」ということが、今悩んでいる方たちに理解されません。そのため、「誰にでも少しはありそうなこと」「何かが少しずれていたら自分もそうなっていたかもしれないこと」「自分も今まさにその最中にいること」という、皆さんの共感を得られるような作品になるように気をつけています。
秘密を守りつつ、カウンセリング現場の実情を伝えていく、という一見矛盾するようなふたつを両立できるように意識しています。
――今回は旦那さんのDVを受けて子どもが緘黙になるパターンでしたが、子どもが黙ってしまう場面は多々あると思います。どうやって場面緘黙と認識すればいいのでしょうか?(たとえば、学校で質問されても全く答えない子どもなど)
場面緘黙は、特定の状況や場所で話すことが極端に難しくなる状態です。以下の点が見分けるポイントとなります。
【1. 特定の環境で話せない】
家では話せるが、学校や公共の場所では全く話さないなど
【2 伝えようとしている】
話せない状況でもジェスチャーで伝えようとする努力はあるなど
【3. 症状が続く】
一時的な緊張や恥ずかしさではなく1カ月以上、特定の場面で話せない状態が続く
【4. 適応の問題ではない】
話せない理由が、以前失敗をしたことがあるなどの特定のトラウマに直結していない
【5. 身体的な問題が原因でない】
言語障害や聴覚障害、発語障害などがない
全体的に口数が少ないけれど「どんな場面でも少しは話せる」「話さないし伝えようともしない」「初めてだと緊張する」「学校の発表で失敗したことをからかわれてから話せなくなった」などの場合は「場面緘黙」ではないかもしれませんが、発達障害やトラウマなど別の診断名になる可能性はあります。
ただし「病名」というのは、白黒はっきりつけられるものではなく、症状もグラデーションで強弱があります。原因によって対処法も変わってきますので、迷った場合は病院でご相談いただければと思います。
――本作では、母親が「自分のせい」と思い込んでいることも原因のようでした。カウンセリングをするうえで心がけていることを教えてください。
「すべてをどうにかしようとしないこと」を心がけています。
多くの方は精神科に来られるまでに、たくさんの悩みや問題が絡みに絡み合って、こんがらがって大きな塊になった状態で来られます。それを一緒に眺めて治療していくことになるのですが、大きな問題に見えていても、実際に紐解いていくと、この塊ができた原因は小さな結び目だったりします。
また、一見すべてが絡まっているように見えていても、よく見ると外側の部分はまとわりついているだけ。「大きな塊」と捉えると「どうしようもない」という結論に至りがちですが、どの部分を触ればこの塊が解けていくのか、ということに注目します。場合によっては、まとわりついているものを剥がすだけで済むこともありますし、少し奥の方にある結び目に直接アプローチした方がいいこともあります。
つまり、「全部をどうにかしよう」とか「根本から改善しよう」という姿勢で取り組むのではなく、どこが解決すればこの方は進み始めることができるのか、という姿勢を大事にしています。
今回の相談の場合、実は「場面緘黙」にも「DVのトラウマ」にも直接的なアプローチはしていません。そもそもお互いがお互いを想い合うがあまり、少しズレてしまったケースですから、そのズレさえ解消できれば、自然と塊は解けていきました。大切なのはこの母娘が自分たちの力だけで進んでいくためのきっかけを見つけること。それが「自分のせいにしがち」という母親の考え方のクセに気づくことだったと考えています。
――白目さんはそのほかにどのような漫画を描いていますか?
子育てカルタ「日々白目むいています」や育児漫画「子育てしたら白目になりました」、偏屈な祖母とのエッセイ「私の家には魔女がいた」、絵本「いいことかんがえた。」などの書籍があります。
皆さんが日々の生活の中で、「気づいているけど意識していないこと」にアプローチできるような作品をこれからも作り続けていきたいと思っております。
取材協力:白目みさえ(misae_mon)
配信: Walkerplus
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