●カウンセリングの手法を活かしている
家族相談士、産業カウンセラー、ゲシュタルト療法セラピスト。小竹さんの名刺にはこうした肩書が並んでいるが、弁護士の業務においても、カウンセリングの知識や手法を応用している。
「そもそも私の弁護士像は、法的な権利・義務でバシバシ争うものではなく、『対人援助職』として相談に乗る、というイメージだったので、カウンセラーとの連続性はありましたね」
カウンセリングを学んだのは、父親のトラウマによる男性不信があったからだという。
「父はなぜこういう人間になったのか。それはずっと、私の根底にある疑問でした。男性に対しても、相手に問題があるわけではないのに、父を投影して不信感を抱いてしまう。そんな自分の悩みと向き合おうと、出産後にカウンセリングを受けたんです」
自分の中にある未解決の問題、トラウマにきちんと向き合わないと人生をマネジメントできないのではないか。そんな気持ちで受けたカウンセリングに効果を感じた。
「私自身、家族の問題に起因してトラウマを抱えていましたが、人間の悩みの多くは家族をはじめ、対人関係から生じるものです。カウンセリングに効果を感じたこともあり、産業カウンセラーや家族相談士の養成講座も受けました」
家族の問題に目が向くのは家庭環境に加えて、お子さん、そして、自身がADHDの当事者であることも影響しているかもしれない。
「発達障害の人は、いわゆる”普通”から外れた行動をとるので、今の日本の社会ではどうしても理解されにくかったりします。親にとっても育てにくく、それゆえ養育者から虐待されて、居場所を失い、不登校になるなど、いろいろな問題が派生しやすいんです」
発達障害者は、動作性IQと言語性IQの開きが大きい傾向があり、できること・できないことのギャップが大きいと言われる。
小竹さん自身もその差が「30」以上あり、好きなことは集中力を発揮して成し遂げるものの、幼少期からみんなと同じことができず、先生から問題児扱いされていたという。
「必要なことは、周囲がその人の特性や適性を把握し、手助けすることです。本人は理由がわからずに苦しんでいるので、自分でも自分の特性を知り、周知するなどの調整ができれば、本人も心地よく生活できるのではないかと思います」
●「日本の警察署や刑務所は、身体拘束に対するハードルが低い」
弁護士になって以降、多くの刑事事件も担当している。刑事事件に関わる中で、警察や刑務所など、国家権力による収容者への暴行問題にも目を向けている。その一つが「新宿留置場事件」だ。
2022年夏、警視庁・新宿署に留置されていた男性が、戒具(ベルト手錠と足用捕縄)で手首と腰、足首を拘束されて、パンツ一丁で保護房に入れられた。男性は、手首と腰にケガを負っただけでなく、用便をすることも認められず、垂れ流すことを余儀なくされた。
法を逸脱する処遇によって、自分に身体的・精神的苦痛を与えられたとして、東京都(警視庁・新宿署)を訴えた男性の弁護人・代理人をつとめる小竹さんは、事件直後、男性と同じ房の複数人に接見して聞き取りをおこなったという。
「人の記憶は時間とともに薄れるので、話を聴いてすぐに同房だった人にも接見しました。すでに勾留を解かれていた人も含めた同じ房の人だけでなく、保護房に入れられて、同じ目に遭った人の話を聞き、傷跡を目にできたことで、裏づけを取れたと思います」
精神障害がある43歳の男性を、新宿警察署と同じように戒具で拘束したまま、食べ物も水も与えず脱水で死なせてしまった岡崎警察署。刑務官が受刑者に暴行を繰り返していた名古屋刑務所。障害のある男性を虐待していた長野刑務所。こうした事件が相次いでいるように、収容者に対する暴行は、日本全国で起きている。
他者の目の入らない密室で人権侵害を繰り返す国家権力の態度について、小竹さんは「野蛮」という言葉で表現する。
「日本の警察署や刑務所は、身体拘束に対するハードルが低く、本当に野蛮です。原則と例外が逆転し、勾留が長期化する中で、戒具を用いた身体拘束、不必要な保護房への収容がおこなわれています。これは日本社会全体にもいえることで、精神病院をはじめ、人を閉じ込めることがいたるところで起きています」
配信: 弁護士ドットコム