全盲ろうの東大教授・福島智氏のエッセイ集が電子化。点字翻訳のためのデータ無償配布

全盲ろうにして初の東大教授となった、福島智氏のエッセイ集『渡辺荘の宇宙人』(素朴社、1995年)が、電子化された。

今回の電子書籍化にあたり、新たに著者による「まえがき」を追加。本編にも加筆し、発刊した。

また、盲ろう者の人にも同書を読んでもらいたいという著者の強い思いから、書籍本編を点字に翻訳して読むために必要なテキストデータを電子書籍版購入者へ無償配布している。

著者・福島智氏について

福島智氏は、3歳で右目、9歳で左目が見えなくなり全盲に。盲学校に通っていた14歳の時に右耳が聞こえなくなり、18歳の時に左耳の聴覚も失い全盲ろうという試練に立たされる。

同氏は、その頃の心境を友人宛の手紙の中で、「俺にもし使命というものが、生きるうえでの使命というものがあるとすれば、それは果たさねばならない。そして、それをなすことが必要ならば、この苦しみのときをくぐらねばならぬだろう」と綴った。

そんな同氏に、一筋の光明をともしたのは、母親が点字タイプライターのキーに見立てて手の指にタッチする方法「指点字」だった。指点字によって、休学していた高校に戻り、教員や学友たちの協力を得ながら学業を復活し、友人たちとの会話や遊びも可能に。やがて、大学教員になるという夢に向かって進むことになる。

1983年、東京都立大学人文学部に合格し、盲ろう者として日本で初めて大学進学を果たしたということで、多くのメディアに取り上げられた。

東京都立大学を卒業後、日本学術振興会の特別研究員や大学の非常勤講師、都立大学人文学部助手、金沢大学教育学部助教授を経て、2001年4月に東京大学先端科学技術研究センター助教授に招かれ、2008年に教授となった。

同氏の驚くべきパーソナリティは、学ぶことへの集中力はもちろん、さまざまな分野への知的好奇心とそれを裏付けるような読書量、友人との議論や遊び、飲んだり食べたりすることへの飽くなき情熱、そして多彩な人たちとの交流におけるウィットやユーモアだという。

青春群像が凝縮した『渡辺荘の宇宙人』

『渡辺荘の宇宙人』は、健常児→全盲児→盲ろう者という三つの世界を体験してきた福島智氏が、一人の「宇宙人」として、現実社会という「地球」で体験してきたことを軽妙な筆致で綴るエッセイ。同氏が東京都立大学を卒業し、日本学術振興会の特別研究員や大学の非常勤講師だった頃までのエッセイを集めて編集されている。

独特の感性とユーモアで盲ろうの世界を「住めば都(みやこ)」などと軽妙に語る同氏と、指点字の通訳などで支えてくれた多くの友人たち。まさに、運命を使命に変えようとする青春群像が凝縮した1冊だ。

ちなみに、同氏の著書には、『盲ろう者とノーマライゼーション—癒しと共生の社会をもとめて』(明石書店、1997年)、『ぼくの命は言葉とともにある』(致知出版社、2015年)、『盲ろう者と障害学』(生活書院、近刊の予定)などもある。

関連記事: