ドラマストリーム「地獄の果てまで連れていく」より / (C)「地獄の果てまで連れていく」製作委員会
韓国出身の脚本家、イ・ナウォン氏が、1月14日(火)よりスタートするドラマストリーム「地獄の果てまで連れていく」(毎週火曜夜11:56-0:26、TBS系※一部地域を除く)で完全オリジナル脚本に挑戦。同作は、生まれつき悪魔的な性格を持つ花井麗奈(渋谷凪咲)に人生を壊された主人公・橘紗智子(佐々木希)が、壮絶な復讐に身を投じるスリリングなドラマ。
異なる文化で脚本を学び、それぞれのドラマ制作現場を経験してきたナウォン氏。韓国と日本のドラマ制作の違いをどう見ているのか、オリジナル脚本で描きたかった“人間賛歌”とは何か、その答えを、インタビューを通じてひもといていく。
■「韓国では、一度に複数の作品を同時進行することがほとんどない」
――韓国のご出身ですが、日本と韓国のドラマ制作の違いを感じることはありますか?
韓国では、一度に複数の作品を同時進行することがほとんどありません。私がアシスタントを務めていた時期も、脚本家、監督、役者のすべてが一つの作品に専念するスタイルが基本でした。映画やドラマは、それぞれの現場に全力で集中するのが暗黙の了解とされているんです。
韓国の同業の友人に「日本では同じタイミングで複数の作品に参加しているよ」と話すと「どういうこと?」と驚かれることが多いですね。
――制作スタイルの違いは、クオリティーに影響がありますか?
どちらにもメリット・デメリットはあると思います。個人的には、一つの作品に専念するのは、丁寧に脚本作りができる、達成感がすごい、というメリットがありますが、制作期間中に人間関係や制作環境に疲れたとき、逃げ場がないのはつらいかもしれない…と感じます。
日本のように、他に関わっている作品があれば、気分を変えて仕事ができるメリットもあるのかもしれません。それはそれで作品ごとに執筆スタイルを切り替えないといけないので、結構大変なところもあります。
――本作の執筆プロセスを教えてください。
プロデューサーの天宮沙恵子さんからいただいた企画書に「復讐劇」というテーマが記されており、それを基に物語を組み立て始めました。最初は漠然としたアイデアだったものが、モンスターのような人物とその復讐者の対決へと具体化していき、天宮さんと相談しながら第1話と第2話の構想を固めました。
その後、3話以降の脚本は「自由に書いてください」と任され、プロデューサーの皆さんと練った全体プロットをベースに進めていきました。
――脚本の構成では、どのような工夫をされていますか?
本作に限らず、キャラクターシートを作成しています。どの作品でも作る資料で、私は脚本を書く際に必ず作ります。キャラクターシートとは、「この人はこういう人物像」という情報を具体的に伝えるための資料です。
例えば主人公・紗智子の場合、好きな料理や子どもの頃の夢など、彼女の背景や性格を細かく設定していきます。改めて考えてみると、私は人間が好きなんだと思います。登場人物の詳細を掘り下げながら、キャラクター設定を考えていくと「よし、始まった」とドキドキするんです。
――実際に演じる俳優陣のイメージは、執筆に役立てられていますか?
脚本を書き始めて中盤に差し掛かった頃に、本作のキャストが決定しました。それからは、キャラクターイメージを役者さんに重ね合わせています。執筆する前に、その方の写真に話し掛けてみたり、ですね(笑)。
例えば佐々木希さんだったら、いちばん紗智子に近いと感じる写真を探すんです。あくまでも、私の感覚ですが…。その写真からインスピレーションを受けて「この人は紗智子として、どう話すだろう」と想像しながらセリフを考える。
それぞれの特徴や声のトーン一つにも癖があって、動画も参考にしています。やはり、その方に合う言葉を選び抜きたいんです。演じることが難しくなるような話しにくい言葉やフレーズを避けて、キャラクターに合わせた脚本を書きたいし、そんなふうに脚本を作る工程はとても楽しいですね。
ドラマストリーム「地獄の果てまで連れていく」より / (C)「地獄の果てまで連れていく」製作委員会
■「『どうしたら効果的に人を傷つける描写が成立するか』を徹底的に検討」
――復讐劇は初めてとのことですが、苦労された点はありますか?
復讐を計画する紗智子と、モンスターと化した麗奈。その二人の行動原理や感情のラインを描くことは非常に難しい作業でした。単なる復讐劇としての「見せ場」を意識するだけでなく、それぞれの感情が劇中の事件に説得力を持ってリンクしていなければ、物語が成立しないと考えたからです。
キャラクターの感情と事件の展開が矛盾しないよう、何度も調整を重ねました。「事件はこう発生して、こう展開させていきたい」と思っても、人間の感情をどうリンクさせるか、その点で苦労しました。
プロデューサーや犯罪心理の監修者と議論を重ね、「このシーンではどうしたら効果的に人を傷つける描写が成立するか」を徹底的に検討しました。その過程で、自分でも膨大なリサーチを行い、現実の犯罪事例や心理研究からヒントを得て脚本に落とし込みました。
――行動原理や感情のラインには、どのような軸を持たせましたか?
それぞれに軸がありますが、「この人にとって、何が一番大切なのか」を基準として考えていきました。紗智子は自分の大切なものを奪った麗奈への復讐が一番の目的。麗奈は、一見感情のないモンスターのように映りますが、彼女の中にも「大切なもの」があります。物語が進んでいくと、麗奈の内に秘めているものも少しづつ明らかになっていきます。
それぞれの“大切なもの”に対して、どのように行動するのか。その主軸を常に意識しました。連続テレビドラマとしても、1話ではこういった感情が起こり、それが中盤ではどう展開して、さらに後半でどうなっていく…と、回を重ねることによる感情の揺らぎのラインを繊細に表現することを心掛けました。
――凄惨な事件の創作は考えるだけで病んでしまいそうですが…。
感情の振れ幅を緻密に追いかける作業は、想像以上に困難でした。特に異常な心理や行動を持つキャラクターのリサーチでは、「こんな行動は現実にはありえない」と思うたびに、精神的な負担を感じることもありました。
脚本を書く際、デスクトップに資料用のフォルダを作るのですが、今回は特に異様なフォルダ名が並びました。「殺し方1」「殺し方2」など、自分でも苦笑してしまうほどでした。
――脚本執筆時に、大切にされていることはありますか?
脚本を書くことは、人間を理解するための作業なのではないかと考えています。かっこいいセリフを書きたいとか、そういう気持ちはないんです。
世の中には本当に多様な人がいますが、私は「この人はこういう人だ」と決めつけるのではなく、その奥深くにある本質を知りたいと思っています。上辺だけではなく、“もっと知りたい”と思って接すると、もしかしたら初めのイメージと違う人間的な一面に出会えるのかもしれないなと。私は人が好きなんです。
ドラマストリーム「地獄の果てまで連れていく」より / (C)「地獄の果てまで連れていく」製作委員会
■ドラマストリーム「地獄の果てまで連れていく」第1話あらすじ
ベビーシッターの橘紗智子(佐々木希)は、ピアニストでインフルエンサーとしても活躍する花井麗奈(渋谷凪咲)の自宅を訪ねていた。生まれて間もない娘・こころ(芝田凰乃)のためにベビーシッターを探している麗奈との面談で、共通の話題も多く話は盛り上がり、確かな手応えを感じる紗智子。
だが、紗智子の経験年数不足から麗奈はベビーシッターの依頼を断ろうとする。あまりにも必死に食い下がる紗智子に違和感を覚える麗奈。そんな中、紗智子がこころの口回りに湿疹が出ていることに気付く。
麗奈に「初めまして」とあいさつをした紗智子だったが、紗智子の正体は14年前に麗奈と同じ高校に通っていた坂東幸和子(亘理舞)だった。当時、父親に殺人の嫌疑がかけられ「人殺しの娘」とやゆされる日々を送っていたが、父の無実を信じていた幸和子の唯一の味方となってくれたのは、後輩の麗奈だった。
麗奈のことを心から信頼していた幸和子は、ある日、麗奈から音楽室に呼び出される。するとそこには、はさみを持った血まみれの麗奈がいた。
配信: WEBザテレビジョン
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