●ストレスに真っ向から立ち向かう必要はない
そもそもスルースキルとは?
「ストレスは、健康にも精神衛生上にもよくないことはご存じだと思います。ストレスは、人にとっては不快であるため、ストレスを感じるような困難なことが起こったとき、人は全力で立ち向かおうとするものです。でも、いつも真正面から受け止める必要はありません。ときには、理不尽で攻撃的な言葉や態度を無視したり、聞き流した方が、大きな論争を回避して、物事がうまく進むこともありますよね。こうした判断を的確に行い、物事をスムーズに運ぶ能力を“スルースキル=鈍感力”と呼びます」(大坪氏 以下同)
それでは、人間にとってスルースキルは、なぜ必要なのだろうか?
「まずストレスの面から言えば、私たちは状況や出来事からストレスが直接引き起こされると考えがちですがそうではありません。例えば、朝雨が降っているのを見て“嫌いだな~”とストレスを感じますよね。ところが、雨がすべて悪いわけではありません。日照りが続いているときの農家の方は“雨でよかった!”と思うでしょう。ストレスは状況から直接生じているように見えますが、私たちは無意識のうちに脳で考えています。思考することによって感情やストレスが生まれるのです。そもそもスルースキルとは、ストレスを生み出しにくい考え方のことを指します。一般的に、子どもなど、社会経験の少ない人はスルースキルが低く、感情的になってしまうことが多いそうです。ストレス社会で生き抜くには、嫌なこともグッと我慢して、何事もなかったかのようにスルーすることも大切。さらに、このスルースキルが脳の働きにも大きな関係を及ぼすことが、ある研究によって判明しました」
●スルースキルが高いほど、情報を処理しやすくなる
スルースキルとストレスの関係性同様、実は、「IQが高い人ほどスルースキルが高い傾向にある」と語る大坪氏。
「アメリカ・ロチェスター大学の教授、マイケル・メルニック氏らが行った研究で、“IQが高い人は物事への集中力も高い”ということが判明しました。メルニック氏は、“過去の研究からも、IQの高い人ほど、大きな画像の検出が苦手だということが判明している”と語り、その理由について、“背景を抑制する働きは、視覚情報を処理するために必要不可欠である”と提えています。例えば、車を運転する、自転車をこぐ、道を歩くといった日常の場面において重要なのは、背景よりも前景にある小さな物体の動きに注目すること。つまり、IQが高い人は集中力が高く、気が散ること(背景)をうまく処理する能力(=スルースキル)に長けていることが判明したのです」
脳の働きがいい人は、注意をひく目先の情報に惑わされず、大事な情報だけを選択して認識することができるという。
「前でも伝えた通り、IQが高い人はいらない情報をうまく処理する能力に長けている=スルースキルが高いといえます。スルースキルは、IQやストレスに関係するほど重要な力なのです。勉強、そして複雑化する人間関係…子どものストレスをすべて取り除いてあげることはできませんが、親として、幼いうちからスルースキルを身につけさせてあげることこそが、やがては思春期を迎えたわが子のストレス軽減につながるのではないでしょうか。さらに、子どもたちが社会に出た時、仕事の効率面においても、スルースキルは大きな役割をはたすと言えます」
スルースキルが、やがてはわが子の生涯年収にも関係すると言えるのかもしれない。まずは親が、スルースキルについて学ぶことから始めてみよう!
(取材・文/蓮池由美子)
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