山形県酒田市の港で2月2日、男性が海に落ちる事故が起きた。男性を発見した加藤栄弁護士(68歳)は、通報して呼んだレスキュー隊が駆けつけるまで男性を支え続けた。
酒田小型船舶安全協会の顧問をつとめる加藤弁護士は、いざという時のため海難救助の訓練を20年以上続けてきた。「人の命を助けたのはこれが初めてではない」と話す。
無事に退院した男性からお礼を言われたという。咄嗟の判断はどのようにされたのか。加藤弁護士が振り返った。
●「船に乗ると人の声が聞こえてきた」
酒田市消防本部によると、2月2日午前8時19分、男性が酒田港の海に転落していると119番通報を受け、駆けつけた消防が60代男性を救助して病院に搬送した。男性はライフジャケットを着用しており、水面に浮かんだ状態で寒さをうったえていたという。
男性を発見して通報したのが、船釣りに出発しようとしていた加藤弁護士だった。
「この日は沖に出てカサゴやキジハタなどの根魚を釣るために自分の船に来ました」
午前8時5分、加藤弁護士が船に乗ると、どこからか人の声が聞こえてきた。
「あたりを見回すと、近くの海面に男性が浮いていました。自動膨張救命胴衣(ライフジャケット)が膨らんでいたことから、岸壁か船からの落水と判断しました。話はできる状況でした」
●男性は下半身が冷えすぎて足が上がらなくなっていた
加藤弁護士は20年以上にわたって水難救助訓練に取り組んできた。その経験を踏まえて自分まで海に落下する「二重遭難」に気をつけながら、状況把握と救助に速やかに着手した。
男性は吊されたタイヤを使って岸壁によじ登ろうとしていた。
「私まで海中に引き込まれないように注意しながら男性と手をつなぎ、上体を可能な限り引き上げ、男性がタイヤに足をかけやすくしたのですが、男性はすでに下半身が冷えすぎてほぼ麻痺状態で、足がまったく上がりませんでした」
海の寒さが男性から体力を奪っていたのだ。
「単独での救助は無理と判断し、訓練の経験から最低でも4人は必要と考え、酒田小型船舶安全協会の事務所に電話し、当日出番の男性職員に来てもらいました」
港からはすでに全船が出港していたため、周囲には他に誰もいない。119番通報して救急車とレスキュー隊が来るのを待つ間、男性職員と2人でできる限りのことをしたという。
「男性の体温低下による心停止が危惧されたので、私と男性職員で男性をタイヤにつかまっている場所から私の船の後部に誘導しようとしました」
加藤弁護士の船の後部には海中投下できる救命ハシゴと海面に近い高さにリアハッチがあり、ハシゴを上れないとしても、リアハッチから甲板に引き上げることも可能だった。
ただ、海面を引っ張って連れて行く提案を受けた男性は、水深が深くなることを怖がって動けなかったという。
「無理強いはできないので、私たちは、男性を先ほどのタイヤにつかまらせ、救助用に船に積んでいる道具(木の棒の先に大きな金属の輪を取り付けたもの)で体を支え、レスキュー隊の到着を待ちました」
しばらくして接近してきたレスキュー車を走って落水地点まで誘導し、男性の引き上げに成功した。
消防本部によると、レスキュー隊が救助を開始したのは8時30分頃だったという。
配信: 弁護士ドットコム