●頭の回転に関わる「脳機能」の発達を促す方法とは?
「脳」はその働きを一言でまとめられないほど、複雑かつ場所によって異なる役割を担っています。なかでも、頭の回転の良さに関わってくるのは、「おりこうさん脳」と呼ばれる「大脳皮質」。とりわけ前半分の「前頭葉」がポイントになってくるとのこと。
「前頭葉というのは、思考や創造性といった『高次脳機能』を司っています。そのため、前頭葉がうまく働けば、比例して頭の回転が速いということになります。また、インプットされた情報の処理速度という意味では、脳内の神経細胞の中をどれだけ素早く刺激が伝達されるかということが関連します。この能力の獲得は、前頭葉の発達が完成期を迎える9歳~11歳頃までに、『シナプス』が五感からの刺激によってどれだけ増えたかによって左右されます」(成田先生、以下同)
いわゆる処理速度は、脳の発達から考えると成長の最終段階で仕上がるそう。この働きも十分大事ですが、成田先生によると、それ以前の「育脳」も頭の回転に大きく影響を及ぼすとのこと。
「前頭葉を含め大脳皮質は1歳を過ぎた辺りから育ってくるのですが、遊んだり言葉を交わしたり、手先をいっぱい動かしたり、色々な場所に連れて行ったりという、普段の生活環境からの刺激を与えることが重要です。良い経験だけをさせたいという親御さんが多いのですが、失敗もすごく大切。失敗も含めた知識や経験が情報として十分に脳にインプットされてこそ、処理速度の速さも獲得されるのです」
●頭の回転の速さには「知識・経験・記憶」が不可欠
スピード感のある情報処理のためには、たっぷりと蓄えられた知識や経験、記憶が不可欠。それがないと、そもそも情報がつながらず、素早く頭の中の整理ができないといいます。
「同じ計算を何回も繰り返し行うタイプの学習は、反復することで反射的な処理スピードは上がります。ただ、応用問題を解けるかというと、それだけでは厳しいと思います。普段の生活から定着した多様な知識・経験・記憶を効率よく結び付けられない限りは、頭の回転の速さにはつながらないのです。」
また、頭の回転が速い人には、「脳の省エネ」とも言うべき、特徴的な傾向がみられるとのこと。
「脳の神経ネットワークを普通の人より効率よく使える人は、左脳の論理的思考力、右脳の空間認知力などを状況に応じてバランスよく使います。また、機能的MRIで測定してみると、同じ課題を遂行するのに、機能が高い人ほど脳のわずかな部分しか使っていないことが分かります。逆に、思考スピードが遅い人は、脳のあちらこちらを使っているにも関わらず、最終的に答えが出ないことがしばしば見受けられます」
つまり必要なときに必要な部分のみを活性化させて、必要ではないときはダウンさせ、効率良く脳を使っているのだといいます。頭の回転スピードをあげるためには、幼児期からの知識や経験、記憶の積み重ねが欠かせないようです。
(取材・文=末吉陽子/やじろべえ)