一見、仲の良い普通の家族に見えるが、他所とはちょっとだけ事情の違う家族がいる。父親のアブドゥルさん(47)がインド国籍、母親のイメルダさんがフィリピン国籍、子どものハルちゃんは日本国籍だ。
現在、ハルちゃんが通う中学校では、先生に「在留カードを持ってきて」と言われて「私は日本人ですよ」と答えても信じてもらえず、アブドゥルさんが先生に説明してやっとわかってもらえるほどなので、日常の中で若干の不便さがうかがわれる。事情はこうだった。(ライター・織田朝日)
●血のつながりのある親子としか思えない
アブドゥルさんはかつて偽造パスポートで入国したことがあるが、インドに帰国している。もう一度、日本で働きたいと考えたアブドゥルさんは1年後の2005年、今度は正規の観光ビザで来日。ビザは更新されず、オーバーステイになってしまった。
2013年、イメルダさんと出会って2015年に結婚した。
イメルダさんには連れ子の娘ハルちゃんがいた。前夫が日本人だったので、ハルちゃんは日本国籍。ハルちゃんはアブドゥルさんのことを本当の父親のように懐いた。自分は本当の父親ではないことを告げてもハルちゃんはお父さんには変わりないのだと気にしない様子だった。
二人は顔もよく似ているので、事情を知らない他人から見れば、血のつながりのある親子としか思えない。
●突然「国に帰るように」と宣告された
イメルダさんは定住ビザがあり、ハルちゃんは日本国籍。しかし、アブドゥルさんは在留資格のない状態にある。まだハルちゃんが小さいうちに三人でインドに戻って暮らしていくことを決意した。
2017年11月、このときハルちゃんは幼稚園児だった。アブドゥルさんは帰国の手続きをとるため、東京入管の違反審査部門へ足を運んだ。
ところが思いもよらぬ反応が返ってきた。入管職員が「あなたのケースなら在留資格が出るから、帰国しないでも大丈夫だよ」と言うのだ。日本で暮らすように促されたアブドゥルさんは職員のアドバイスにしたがい、足繁く市役所や法務局に通った。
ところが状況は一変した。2019年8月、東京入管に呼び出され、いつものように三人で出向いた。いつもと別の職員が出てきて、突然「国に帰るように」と宣告されたのだ。
普段優しいアブドゥルさんでもさすがに「みんな入管の言う通りにしてきたんじゃないか!」と怒り出し口論になった。最初に在留資格が出ると言っていた職員は姿を現すことはなかった。
配信: 弁護士ドットコム