今市事件・無期懲役囚の“弟”はなぜ冤罪を訴えるのか? 突然の兄逮捕から11年、紆余曲折の日々を語る

今市事件・無期懲役囚の“弟”はなぜ冤罪を訴えるのか? 突然の兄逮捕から11年、紆余曲折の日々を語る

●当初は兄の無実を信じることができなかったが…

兄が突然、今市事件の容疑者になってから11年。現在は兄のことを冤罪だと確信している高瀬さんは、名前も顔も公開したうえ、自ら開設した『えん罪今市事件』というホームページや、XなどのSNSで事件に関する情報を発信したり、メディアの取材を受けたりして兄の無実を訴えている。現地調査に行ったりするなど、再審請求の準備にも関わっているという。

だが、当初は兄の無実を信じることができなかったそうだ。

「刑事から兄について色々聞かれた中、刑事は兄が今市事件の犯人だという前提で話をするので、私も兄はクロなのだと思ってしまいました。当時の私は警察や検察を疑っていなかったからです。

今振り返ると、2006年(事件の翌年)に話した際に兄は『今日、警察が来て、今市事件のことを聞かれたよ』とニコニコしながら言っていて、本当に犯人ならあんな感じにならないと思います。当時はそのように思い至る余裕がありませんでした」

一方、母のイミコさんは当初から勝又受刑者の無実を信じ、人権団体の人たちや有名冤罪被害者たちと交流したりして、息子の無実を訴えてきた。高瀬さんはそんな母の活動に関わることもなかったという。

●無期懲役判決が確定後、「あれ、おかしいぞ」

勝又受刑者が2016年4月に一審・宇都宮地裁の裁判員裁判で無期懲役判決を受けてしばらくした頃、当時勾留されていた宇都宮拘置支所で一度面会したが、その時も兄はシロだという心証は持てなかったそうだ。

「兄は当時、睡眠薬を飲んでいて、メンタルもやられていて、面会中はずっと暗い感じでした。面会時間も15分くらいしかなく、深い話はできなかったのです」

兄に対する高瀬さんの見方が変わったのは、2020年に裁判で無期懲役判決が確定してからしばらく経った頃という。

「どこかの大学の先生が取調べの可視化について書いた論文を母に見せられたのがきっかけです。その論文で兄のことを書いてあるのを読み、『あれ、おかしいぞ』と思うようになったんです」

勝又受刑者は、取調べの録音録画映像で検事に自白している様子が一審・宇都宮地裁の裁判員裁判で有罪の根拠にされた。だが、その自白をする前に別の検事から自白を強要されるような取調べを受けるなどしていたため、自白の任意性に疑問が投げかけられていた。

さらに高瀬さんが自分でも事件のことを調べてみると、被害者の女の子がナイフで身体を多数回刺されているのに、遺体遺棄現場で血がほとんど見当たらないなど、自白内容にも色々と疑問があることもわかった。

被害者の女の子の遺体から勝又受刑者のDNA型が一切検出されていないのに、身元不明の第三者のDNA型が検出されていることを知り、不可解に感じたりもしたという。

高瀬さんはそうこうするうち、兄は冤罪なのだと思うように。そしてホームページやSNSで情報発信するようになったという。

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