免疫性血小板減少症の治療
ITPの治療は、患者さんの出血の重症度や病状、生活の質(QOL)を考慮して個別に決定されます。治療の目的は、血小板数を正常化することではなく、命に関わる重篤な出血を防ぎながら、患者さんが日常生活を送れるようにすることです。
重篤な出血を予防しうる血小板数(3万/μl以上)に維持し、治療薬の長期投与によるQOLの低下がないように治療が行われます。
治療の基本方針
緊急対応
著明な出血や手術を控えている場合、緊急治療が必要です。
自然寛解を目指す
小児では、自然に回復する可能性があるため、治療介入は慎重に行われます。
患者の生活を考慮
治療によって生活の質(QOL)が損なわれないよう配慮します。
1. 緊急時の治療
緊急の場合や外科的処置が必要な場合、以下の治療が行われます:
血小板輸血
ITPは輸血をしても抗体で血小板が壊されてしまうため、通常は血小板輸血の対象とはなりません。しかし、出血が止まらない場合や、脳出血や消化管出血など重篤な症状が懸念される場合に行われます。
免疫グロブリン大量療法
免疫の異常を抑えるため、免疫抑制の効果がある免疫グロブリン大量療法を行います。ステロイド療法より血小板数を早く増やすことができることが特徴です。免疫グロブリン製剤を数日間投与して治療を行います。
ステロイドパルス療法
免疫グロブリン大量療法と同様に免疫の異常を抑えるため、高用量のステロイドを短期間使用します。感染症などの副作用に注意が必要です。
2. ピロリ菌除菌療法
日本人のITP患者さんでは、ヘリコバクター・ピロリ菌感染が関連している場合があります。
除菌療法を行うことで、一部の患者さんで血小板数が増加するとされています。
3. ファーストライン治療(第一選択の治療)
副腎皮質ステロイド(CS)療法
副腎皮質ステロイドであるプレドニゾロンを数週間投与し、徐々に減量します。
効果は数日以内に現れることが多いですが、長期間の使用はステロイドによる感染症、糖尿病などの副作用のリスクが上昇するため。
免疫グロブリン大量静注療法(IVIG)
血小板数を早く増やす目的で使用します。
特に重篤な出血の際に効果的です。
4. セカンドライン治療(第二選択の治療)
トロンボポエチン(TPO)受容体作動薬
巨核球の成熟を促進し、血小板産生を増やす薬です。エルトロンボパグやロミプロスチムがTPO作動薬にあたります。ステロイドが効果がなかった場合に使用されます。
治療開始後1週間以内に効果が現れます。
リツキシマブ療法
抗血小板抗体を産生するB細胞を傷害することで抗血小板抗体量を減らし、血小板を増加させる治療法です。
脾臓摘出術
血小板を破壊する臓器である脾臓を摘出する治療です。永続的な効果が期待できますが、脾臓は免疫系において重要な役割を果たしているため感染症のリスクが上がります。特にインフルエンザ菌b型、髄膜炎菌などの重症感染症にかかりやすくなるため、適応は慎重に判断されます。
最近では、他の治療法が発展したため選択される頻度は減少しています。
5. 無治療経過観察
軽度の出血症状や血小板数が一定レベルを保っている場合、治療を行わず経過観察を選択することがあります。
出血が悪化した場合に備え、24時間対応可能な医療機関との連絡体制が必要です。
免疫性血小板減少症になりやすい人・予防の方法
ITPは自己免疫疾患であり、発症メカニズムは完全には解明されていません。現時点では特異的な予防法は確立されていませんが、次の点に注意することでリスクを減らせる可能性があります。
感染症の予防
手洗いや消毒を徹底し、ウイルス感染を防ぎます。
適切なワクチン接種を受けることも有効です。
生活習慣の改善
規則正しい生活や十分な睡眠で体調管理を保つことが重要です。
関連する病気全身性エリテマトーデス関節リウマチ
抗リン脂質抗体症候群
参考文献
石黒 精,森 麻希子,宮川義隆・他:2022年小児免疫性血小板減少症診療ガイドライン.日本小児血液・がん学会雑誌
小児慢性特定疾病情報センター:免疫性血小板減少性紫斑病診断の手引き.
配信: Medical DOC
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