高齢者が入れ歯を入れないとどうなるのか
ここまで噛むことの効用や、入れ歯がどのようなことに役立つのかを紹介しました。
それでは、入れ歯を入れなかった際に起こりうるリスクは何でしょうか。以下で解説します。
認知症のリスクが高まる
歯を失ったまま入れ歯を使わないと、認知症の発症リスクが約1.9倍に増加するといわれてます。噛む動作は脳を活性化させる重要な役割を持ち、噛む力が弱まると脳への刺激が減り、結果的に認知機能の衰えにつながりやすくなるからです。
また、うまく噛めなくなると食事が偏って栄養バランスが崩れ、身体全体の健康状態が悪化することも認知症リスクの一因となるとされています。
入れ歯を使用すると、たとえ歯がほとんどない方でも認知症の発症リスクを約4割抑える可能性があるとされています。
技術の進化により、現在では見た目や機能が自身の歯に近い入れ歯も増えています。高齢者の方だけでなく、40代前後で入れ歯に抵抗がある方も、歯を失っている場合は早めに入れ歯を検討し、噛める状態を維持することが大切です。
残っている歯の寿命が縮む
高齢者の方が入れ歯を使わずに歯を失った状態を放置すると、残っている歯も失ってしまうリスクが高まります。
歯を失った際、その部分の負担をほかの歯がカバーすることになるため、周囲の歯には大きな力がかかります。過剰な負担によって残存する歯が傷みやすくなり、結果として寿命が短くなってしまうのです。
全体の噛み合わせが乱れることで、咬合圧が一定の歯に集中し、健康だったはずの歯にまでダメージを与え、結果的にその寿命を縮めてしまいます。入れ歯の使用はこのような問題を防ぎ、残りの歯を長く健康に保つことにつながります。
歯並びが悪くなる
歯はそれぞれが均等に力を分散して機能し、互いに支え合って位置を保っています。歯を失ったまま放置すると、その力のバランスが崩れ、隣接する歯が空いたスペースに傾いたり、反対側の歯が伸びてきたりすることがあります。
バランスが崩れた状態が続くと噛み合わせのズレを引き起こし、歯並びを悪化させる要因となります。そして、歯並びが乱れると食べかすなどが挟まりやすくなり、むし歯や歯周病のリスクも増加します。
顔が変わる
歯を失った状態を続けると顔の形が変わり、老けた印象を与える原因にもつながります。歯は顔の輪郭を支える重要な役割を果たしており、なかでも前歯を失った場合、口元がくぼんでしわが増え、全体的にハリを失った顔立ちになりがちです。
また、奥歯を失うと頬や顎のラインが内側に寄り、顔の輪郭そのものが変形してしまう可能性があります。さらに、噛む力が弱くなることで顔の筋力も低下し、しわやたるみが増えやすくなり、実年齢以上に老けた印象を与えてしまうでしょう。
入れ歯を使うと、顔全体にハリを取り戻した顔立ちにつながります。入れ歯を入れない期間が長くなると歯茎が痩せ、さらに入れ歯が合わなくなりやすいため、早めに歯科医院で適切なケアを受けることが大切です。
身体のバランスが崩れる
噛む力は体全体のバランスを保つうえで重要な役割を果たしていますが、歯がなくなると咀嚼能力が低下し、なかでも奥歯の噛む力が不足すると、下顎が不安定になり体のバランスを取りにくくなります。その結果、入れ歯を使用しない高齢者の方は転倒するリスクが約2.5倍に増加するとされています。
また、歯並びの乱れや噛み合わせのズレが原因で顎関節症を引き起こし、さらには頭痛や肩こり、腰痛など全身の不調にもつながる場合があります。
以上のような影響を防ぐためにも、入れ歯を使用して噛み合わせを維持し、身体のバランスを保つことが大切です。入れ歯は全身の健康を守るためにも欠かせない存在です。
入れ歯に慣れるためには
歯を失ったまま放置すると、さまざまなリスクが生じる可能性をみてきました。入れ歯は失った歯を補う選択肢となりますが、初めて使用する際は、慣れるまでに時間を要するでしょう。
以下では入れ歯に慣れるために行えることをご紹介します。
咀嚼と嚥下の練習をする
入れ歯に慣れるためには、咀嚼(噛むこと)と嚥下(飲み込むこと)の練習をすることが重要です。最初から本物の歯と同じ感覚で噛もうとすると違和感を感じやすく、ギャップに悩む場合も少なくありません。そのため、ゆっくりと練習を重ねることが必要です。
まずは、水を飲む練習から始めましょう。最初のうちはむせてしまうこともありますが、徐々に慣れていきます。
次に、やわらかい食べ物から噛む練習を始め、少しずつ硬めの食べ物に移行していくことで効果が期待できます。無理に硬いものを噛もうとすると顎を痛めてしまう可能性があるため、焦らず少しずつ進めることが大切です。
以上のような練習を通して、入れ歯に適応しやすくなり、日常生活へのスムーズな復帰へとつながるでしょう。
発音の練習をする
入れ歯を装着した際には、発音に違和感を覚える場合がありますが、これは異物に対する身体の自然な反応です。まずは、入れ歯をお口に馴染ませることが重要です。鏡の前で自身に向かって挨拶をしてみたり、発音しづらい言葉を繰り返し音読したりすることで、お口の動かし方を調整していきましょう。
なかでもサ行やタ行は発音が難しい場合が多いため、これらの音の練習を重点的に行うと、スムーズな会話につながります。
また、自身の声を録音して聞きながらトレーニングすると、発音の改善点を確認しやすくなります。こうした練習を続けることで、徐々に入れ歯への違和感が減り、自然な発音ができるようになるでしょう。
手入れをしっかりと行う
入れ歯に慣れるためには、毎日の手入れをしっかりと行うことも大切です。入れ歯も歯と同じように食べカスや歯垢が付着しやすいため、お手入れを怠ると細菌が繁殖し、口内トラブルの原因となります。
以下のポイントを押さえて、入れ歯を清潔に保ちましょう。
食後の洗浄:食事後には入れ歯を取り外し、水でよくすすいで歯垢や食べカスを除去しましょう。熱すぎるお湯は変形の原因となるため避けてください。
入れ歯の磨き方:入れ歯全体を歯間ブラシや専用ブラシで優しく磨き、細かな隙間まできれいにしましょう。洗浄液を使う場合も、洗浄後に水でしっかりすすいでから装着してください。
保管方法:入れ歯を外した後は、入れ歯ケースに水を入れて保管しましょう。こうすることで変形を防ぎ、乾燥によるひび割れを防ぐことができます。
これらのお手入れを習慣化することで、入れ歯の寿命が延びるだけでなく、口内衛生を保てるようになり、快適な入れ歯生活につながります。
慣れるまで継続して使い続ける
継続して入れ歯を使い続けることは、入れ歯に慣れるための基本的なコツのひとつです。
最初の1週間程度は特に違和感を覚えるケースが多いとされていますが、1ヶ月程度経てばほとんど気にならなくなるといわれています。最初の段階で焦らず、入れ歯に対する感覚に慣れる時間を持ってみましょう。
まずは短時間から始めて、徐々に装着時間を延ばしていくと無理のない適応につながります。慣れないうちは無理をせず、食事や会話以外の時間に少しずつつけることで、違和感を減らしていくことにつながります。
また、入れ歯の付け外しを繰り返し行い、お口のなかでの存在感に慣れるよう心がけましょう。しかし、無理な力を加えると入れ歯が変形する恐れがありますので、慎重に行いましょう
ただし、痛みを無理に我慢して使い続けると、歯茎や粘膜を傷つける可能性があります。そうすると口内環境を悪化させるだけではなく、入れ歯に対してネガティブな印象を抱く原因にもなります。その結果、入れ歯を使うこと自体が嫌になってしまう場合もあるので、注意が必要です。
痛みを感じた場合は無理をせず、医師への相談を行い、歯茎の傷が治ってから再度装着するようにしましょう。時間をかけて入れ歯を使い続けることで、自然と生活に馴染んでいきます。
配信: Medical DOC