監修医師:
阿部 一也(医師)
医師、日本産科婦人科学会専門医。東京慈恵会医科大学卒業。都内総合病院産婦人科医長として妊婦健診はもちろん、分娩の対応や新生児の対応、切迫流早産の管理などにも従事。婦人科では子宮筋腫、卵巣嚢腫、内膜症、骨盤内感染症などの良性疾患から、子宮癌や卵巣癌の手術や化学療法(抗癌剤治療)も行っている。PMS(月経前症候群)や更年期障害などのホルモン系の診療なども幅広く診療している。
頸管無力症の概要
頸管無力症(けいかんむりょくしょう:Cervical Insufficiency)とは、妊娠中の女性の子宮頸管(しきゅうけいかん)がうまく機能しなくなる状態です。
子宮頸管とは子宮の入口にある管状の組織です。妊婦の子宮内で胎児が成長している間は強く閉じていて、通常では出産が近づくまで安定した状態が保たれます。しかし、何らかの原因により早期に子宮頸管が弛緩してしまうことがあり、これを頸管無力症と呼びます。頸管無力症を発症すると、流産や早産など、妊娠が維持できなくなるリスクが高まります。
痛みなどの自覚症状に乏しいことが多く、圧迫感や下腹部の違和感を訴えるケースも一部にはあるものの、まったくの無症状である患者さんも多いのが特徴です。こうした理由により、頸管無力症は検査以外での早期発見が難しいとされています。
頸管無力症の原因はさまざまで、子宮頸管の先天的な弱さを原因とするケースも多く、妊娠中の女性であれば誰でも発症リスクがあります。特に発症リスクが高いとされるのは、双子以上の多胎妊娠である場合、過去に流産や早産を経験している場合、または頸管の手術歴がある場合などです。
治療方法としては、安静を保つなど、妊娠の維持を目的とした管理が中心となります。必要に応じて子宮頸管を縛る手術(頸管縫縮術)がおこなわれます。場合によっては、早産を防ぐためにその他の医療的な介入が行われることもあります。治療法や管理方法は、妊娠の進行状況や患者の体調、リスクの程度に応じて個別に決定されます。
頸管無力症の早期診断と適切な治療は、流産や早産のリスクを軽減し、妊娠を継続するために非常に重要です。妊婦の健康状態を守るためにも、定期的に妊婦健診を受け、医師からの適切な指示に従うことが求められます。
頸管無力症の原因
頸管無力症の原因はさまざまで、すべてが明らかになっているわけではありません。もっとも一般的な原因は、子宮頸管の先天的な弱さや形質異常です。
また、過去に子宮頸部の外科的手術を受けたことが原因で、頸管無力症を発症することもあります。たとえば、子宮頸部の円錐切除術(子宮頸部の一部を切除する手術)やレーザー治療などによって、頸管の構造が弱くなるケースが知られています。
妊娠中に子宮頸管に大きな圧力がかかる状況が続くと、頸管は開きやすくなります。よって、多胎妊娠(双子やそれ以上の多胎)の場合も発症リスクが高くなります。過去に早産や流産を経験したことがある女性も、発症のリスクが高いとされています。
その他、ホルモンバランスの異常や、感染症、外的衝撃などが頸管無力症の原因とされる例もあります。
配信: Medical DOC