美魔女はなぜ嫌われる? 嫌悪感の正体とは…

第2回 いつまでも“女”でいることは悪なのか?
40、50代になっても美しく、若々しい“美魔女”。テレビや雑誌でも時折特集が組まれていますが、一方でネットでは「イタい」「気持ち悪い」といったネガティブな声が散見されます。特徴的なのは、異性からだけでなく、同性である女性にも美魔女を嫌悪する人が少なからず存在すること。

男性と比べ、女性が若さを保つことに対しては批判的な意見が多いように感じますが、それはなぜなのか。精神科医・作家の春日武彦先生に聞きました。

●周囲の女性にとって美魔女は“物騒な存在”

もとは、40代向けの女性ファッション誌『美STORY/美ST』(光文社)が、35歳以上の美しい女性を指す言葉として生み出した“美魔女”。今では広く知られるようになりましたが、春日先生いわく、この美魔女に対して“享楽的”なイメージを受ける女性が多いといいます。

「美魔女は美しいだけでなく、経験や知識もあわせもつ堂々とした女性。それでいて、自由で“欲望に忠実”といったニュアンスも加味されています。そんな享楽的なイメージが、同性を不快にさせるのではないでしょうか」(春日先生、以下同)

そんな美魔女の在り方は、時に“物騒な存在”に映ると春日医師はいいます。

「経験や知識とは裏腹に、見た目や振る舞いは年相応ではなく、世間の常識や均衡を崩しかねない。しかも、平然と自己肯定をする。実際はどうなのか、本人の心のうちは分かりませんが、少なくとも他人の目からは常識を破ることへの葛藤がまるでないように見える。それは時に図々しく映り、周囲の女性の神経を逆なでしてしまうのでしょう」

美魔女はなぜ嫌われる? 嫌悪感の正体とは…

●美魔女に見え隠れする性的なものへの嫌悪

さらに、“美魔女”という言葉に性的なものを感じて、嫌悪感を抱く女性もいるようです。

「美魔女と同じように化粧や服にこだわっていても、年相応に見せている女性は叩かれない。これは、“美魔女”という言葉に、性的なもの、つまりセックスの要素が含まれているからだと思います。そもそも性的なものは、誰しもが持っているもの。それを前面に出すことは、ある意味やろうと思えばだれでもできることです。それをあからさまに武器として用いるのは、同性にとって見れば、すごく“ズル”をしているように感じるのかもしれません」

男性にもいつまでも若々しい人はいますが、女性と比べて批判にさらされることは少ないように感じられます。アイドルでも、女性は40・50代になると“元アイドル”となるにもかかわらず、男性はいつまでもアイドルであり続ける…この違いは何なのでしょうか。

「実際はどうかは別として、日本では女性アイドルに対して“処女性”を求める傾向にあるんだと思います。だから、年を取るとどうしてもアイドルとしては見られなくなる。さらに、男性と比べて女性の方が外見に劣等感や嫉妬を持ちやすい。そういう意味でも、男性のほうが批判対象になりにくいのかもしれません」

●美魔女への攻撃は同性の“羨望”の表れ

加えて、“嫉妬”の要素も大きいと春日医師。

「多くの人がひっかかりを 覚えるということは、それだけ美しさのレベルが一定のところに達しているという見方もできます。美魔女と呼ばれる人たちはものすごく努力して美しさを手に入れているけれど、絶対に隙や無様な姿を見せない。そうした計算ずくの完ぺきさはしたたかに映り、より嫉妬心を煽ってしまうのです」

女性からの厳しい攻撃にさらされがちな美魔女ですが、それは同性ならではの“羨望”の裏返しでもあるようです。自分もそうありたいかは別として、自分にはない要素を持ち、キラキラと輝いて見える彼女たち。そこに矛先を向けたくなるのは、無理からぬことなのかもしれません。

(文=周東淑子/やじろべえ)

お話をお聞きした人

春日武彦
医学博士、精神科専門医
1951年京都府出身。日本医科大学卒。産婦人科医として6年間勤務した後、精神科へ移り現在も臨床に携わる。『鬱屈精神科医、お祓いを試みる』(太田出版)、『無意味なものと不気味なもの』(文藝春秋)、『幸福論』(講談社現代新書)、『精神科医は腹の底で何を考えているか』(幻冬舎新書)、『臨床の詩学』(医学書院)等著書多数。
1951年京都府出身。日本医科大学卒。産婦人科医として6年間勤務した後、精神科へ移り現在も臨床に携わる。『鬱屈精神科医、お祓いを試みる』(太田出版)、『無意味なものと不気味なもの』(文藝春秋)、『幸福論』(講談社現代新書)、『精神科医は腹の底で何を考えているか』(幻冬舎新書)、『臨床の詩学』(医学書院)等著書多数。