増加する「心不全」の初期症状と見逃されやすいサインとは? 治療法も医師が解説

増加する「心不全」の初期症状と見逃されやすいサインとは? 治療法も医師が解説

高齢化に伴い、現在日本では心不全の患者数が増加しています。心不全で大切なのは、初期に適切な治療を行い、悪化させないように気を付けること。心不全の初期症状やサインにはどのようなものがあるのか、ハートメディカルクリニックGeN横浜綱島の源河先生に詳しく聞きました。

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監修医師:
源河 朝広(ハートメディカルクリニックGeN横浜綱島)

東海大学医学部在籍6年次にニューヨーク医科大学へ公式留学。東海大学医学部卒業。沖縄県立中部病院ハワイ大学臨床研修プログラム修了。沖縄県立宮古病院内科勤務、東海大学大学院医学研究科修了、医学博士号取得、東海大学医学部循環器内科講師(本院、大磯病院、東京病院、八王子病院の各付属病院に勤務)、恵寿総合病院心臓血管センターセンター長、済生会川口総合病院循環器内科部長、横浜旭中央総合病院循環器内科部長などを経て現職。医学博士、日本内科学会認定医 、日本循環器学会専門医。

心不全とはなにか?

編集部

心不全の患者さんは本当に多いのですか?

源河先生

ここ数年、心不全は世界的に患者が急増しており、日本循環器学会や欧州心不全学会(ESC)などでは、「心不全パンデミック」と呼ばれる深刻な問題とされています。日本でも高齢化や生活習慣病の影響で、推定100万人以上が心不全を抱えていると報告があります。

編集部

そんなに多いのですね。

源河先生

はい。日本における死因別死亡率を見てみると、年々、心疾患による死亡率が増加しており、2022年には14.8%と、がん(24.6%)に次いで多くなっています。心疾患の中でも心不全は5年生存率が50%と予後が不良な疾患であることが知られています。

編集部

心不全とは、どんな状態のことをいうのですか?

源河先生

心不全とは、心臓が全身に十分な血液を送り出す力が弱くなった状態です。これにより、息切れやむくみなどが起こりやすくなります。たとえば、歩くだけでドキドキしたり、横になったときに呼吸が苦しくなったりすることもあります。日本循環器学会の定義では、こうした症状が慢性的に続き、生活に支障が出るものを指しています。収縮の弱さだけでなく、心臓がうまく拡張できない場合にも起こることがあり、原因やタイプによって治療法も異なります。

編集部

心不全の原因はなんですか?

源河先生

心不全は、高血圧や糖尿病などの生活習慣病、狭心症・心筋梗塞などの動脈硬化性疾患、心臓の弁の異常、心筋症、不整脈などが原因で起こります。特に、高血圧や糖尿病などの生活習慣病による血管への負担が大きな要因とされています。これらの病気が長期間続くと、心臓が血液を送り出す力を徐々に失い、結果として心不全の症状が出てきます。大切なのは、心臓が弱る前に、こうした原因に対処すること。まずは高血圧や糖尿病の管理を徹底することが、心不全を防ぐ大きなカギとなります。

心不全の初期症状とは?

編集部

心不全になると、どんな初期症状が出るのですか?

源河先生

代表的な症状は、運動時や階段昇降時に息切れする、足がむくむ、疲れやすいなどです。横になると息苦しくなる「起坐呼吸」(横になると息苦しく感じ、上半身を起こすと症状が弱まる状態)が見られる場合もあります。早期発見のためには、日々の体調変化に注意することが必要です。特に高齢者は息切れを「歳のせい」と思いがちですが、少しでも「おかしいな」と思ったら受診することが大切です。

編集部

心不全はどうやって見つけるのですか?

源河先生

検査では心エコー(超音波検査)や血液検査(BNPやpro-BNP)を用いて、心臓の動きや負担の程度を評価します。症状はなくても健診やほかの病気の治療中に行った検査などで異常が見つかることも珍しくありません。

編集部

どうやって心不全と診断されるのですか?

源河先生

症状や身体所見をもとに、心エコーや胸部X線、血液検査、心電図などを組み合わせて総合的に診断します。日本循環器学会のガイドラインでも、こうした複数の検査を合わせて心臓の働きを評価することが推奨されています。特に心エコーは体への負担がほとんどなく簡便にできる検査で、心臓のポンプ機能や弁の状態を詳細にチェックし、血液検査の値と照らし合わせて病態を把握します。これにより、原因や重症度を特定し、患者さんに適した治療方針を立てることが可能になります。

編集部

無症状でも治療の必要があるのですか?

源河先生

心不全は症状がなくても、心臓が弱り始めている段階で早期治療を行うことが推奨されています。たとえば、収縮機能が低下しているものの、症状が出ていない患者さんに、ACE阻害薬(血圧を下げる薬)やβ遮断薬(高血圧、狭心症、頻脈性不整脈などを改善する薬)を投与すると心臓の悪化を防ぎ、将来の入院や突然死を減らすということが、世界的な大規模研究で示されています。

編集部

症状が出ていないうちに治療を始めることが大事なのですね。

源河先生

はい。世界の主要ガイドラインでも、心臓内で心不全と関係する変化が見られるようになったら無症状でも治療を開始し、心臓のリモデリング(変形)を抑えることが重要とされています。こうした早期介入によって、将来的な症状の出現や重症化を大きく遅らせ、無症状のまま日常生活を送れる可能性が高まるのです。

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