監修医師:
林 良典(医師)
名古屋市立大学卒業。東京医療センター総合内科、西伊豆健育会病院内科、東京高輪病院感染症内科、順天堂大学総合診療科を経て現職。診療科目は総合診療科、老年科、感染症、緩和医療、消化器内科、呼吸器内科、皮膚科、整形外科、眼科、循環器内科、脳神経内科、精神科、膠原病内科。医学博士。公認心理師。日本専門医機構総合診療特任指導医、日本老年医学会老年科専門医、禁煙サポーター。
放射線性腸炎の概要
放射線性腸炎は、放射線治療による副作用として腸に炎症が生じている状態です。
特に骨盤内や腹部に放射線を照射する治療(子宮頸がん、前立腺がん、大腸がんなど)を受けた患者さんに発生することがあり、放射線が腸管の粘膜や組織に影響を与えることで発症します。重症度は治療の強度や一緒に抗がん剤治療をするかどうかでも変わります。この病気には大きく分けて2つのタイプがあります。
急性放射線性腸炎
放射線治療中または治療後数週間以内に発症するもので、一般的に放射線が当たる量が30Gyを超えてくると生じやすくなるとされています。主に腸粘膜の一時的な炎症が原因です。このタイプは比較的軽症で、治療終了後に症状が改善することが多いですが、放射線の量が更に増えたり、抗がん剤を同時に行う場合は1日に何回も下痢をしたり、便の状態が元に戻るまで数ヶ月かかる場合があります。
慢性放射線性腸炎
放射線治療後数ヶ月から数年後に発症する長期的な障害で、腸の粘膜だけでなく深い組織(筋層や血管など)にまで影響を及ぼすことで、腸粘膜の炎症が再燃し、少量の出血をすることがあります。また、腸管の壁が固くなり、便の通りが悪くなって便秘気味になる場合もあります。特に前立腺がんの治療後に直腸に生じることがありますが、近年は放射線治療機器などの技術革新により、かなり稀になっています。ごく稀に症状が持続的で治療が難しい場合もあります。
放射線性腸炎は、適切な診断と治療により症状をコントロールすることが可能です。
放射線性腸炎の原因
放射線性腸炎の主な原因は、放射線による腸管組織への直接的なダメージと、それに続く炎症反応です。以下のメカニズムが関与しています。
腸管粘膜の損傷
放射線が細胞のDNAを傷つけることで、腸粘膜のバリア機能が低下し、炎症が起きやすくなります。これにより腸内細菌や毒素が粘膜を通過しやすくなり、炎症を悪化させます。
血管のダメージ
放射線により微小血管が破壊され、腸への血流が不足するため、腸組織が酸素不足(虚血)になります。
慢性的な線維化
放射線が長期的に腸の組織を硬化させる(線維化)ため、腸管の柔軟性が失われ、機能障害が進行します。
腸内細菌叢の乱れ
腸内の細菌バランスが崩れることで、炎症が促進されることがあります。
これらの要因が組み合わさり、腸の構造や機能に長期的な障害を引き起こします。
配信: Medical DOC