監修医師:
林 良典(医師)
名古屋市立大学卒業。東京医療センター総合内科、西伊豆健育会病院内科、東京高輪病院感染症内科、順天堂大学総合診療科を経て現職。診療科目は総合診療科、老年科、感染症、緩和医療、消化器内科、呼吸器内科、皮膚科、整形外科、眼科、循環器内科、脳神経内科、精神科、膠原病内科。医学博士。公認心理師。日本専門医機構総合診療特任指導医、日本老年医学会老年科専門医、禁煙サポーター。
一過性脳虚血性発作の概要
一過性脳虚血発作(Transient Ischemic Attack, TIA)は、脳や網膜への血流が一時的に遮断されることで、神経症状が短時間出現する疾患です。
発作は通常、数分から1時間程度で消失し、後遺症を残さないのが特徴ですが、これは単なる一時的な不調ではなく、脳卒中の重大な警告信号と捉える必要があります。発症後数日から数週間以内に脳卒中を発症するリスクが高まるため、発作を認識し、迅速に対応することが極めて重要です。
TIAの病態は、主に動脈硬化や血栓による血管閉塞が関与しています。これにより脳組織が一時的に酸素供給を失い、その結果、可逆的な神経機能障害が生じます。日本では年間約30万人が発症すると推定され、高齢者や男性に多いことが知られています。一方、女性においても閉経後にはリスクが増加することが報告されています。これにはエストロゲン減少が関与していると考えられます。また、発症率は都市部に住む人々の間で高い傾向が見られるという地域的な特徴も挙げられます。
一過性脳虚血性発作の原因
TIAの主な原因は、脳への血流が一時的に遮断されることにあります。この血流障害の背後にはいくつかの要因が複雑に絡み合っています。特に多くのケースで動脈硬化性病変が原因として挙げられます。高血圧や糖尿病、脂質異常症といった生活習慣病が血管内皮にダメージを与え、血管内にプラークと呼ばれる脂質沈着物を形成します。このプラークが破裂することで血栓が形成され、脳血流を一時的に遮断することがあります。
また、心房細動や心筋梗塞などの心臓疾患が原因で心原性塞栓が生じることも少なくありません。心房細動(心房内の不規則な電気的興奮が起こる不整脈)では、血液が心房内で停滞しやすくなり、血栓が形成される原因となります。この血栓が血流に乗って脳血管に到達すると、一時的な閉塞を引き起こします。さらに、血管攣縮(血管が一時的に強く収縮する状態)や解離性動脈瘤(動脈壁の内膜が剥離する病変)が原因となる場合もあります。特に片頭痛を持つ患者さんは血管攣縮のリスクが高いとされています。
近年では、血液の凝固能が過剰に高まる過凝固状態もTIAの原因の一つとして注目されています。この状態は、悪性腫瘍や膠原病に伴うことが多いです。また、メタボリックシンドロームやストレスなど、現代社会特有の要因が背景にある場合もあります。これらのリスク因子は、それぞれが単独で作用する場合もあれば、複合的に影響を及ぼして発症リスクを高めることがあります。
配信: Medical DOC