インプラント治療後に起こるトラブルの一つに、インプラントの脱落があります。
インプラントが急に抜けたら焦ってしまうでしょう。しかし、インプラントが抜けたときにどのような対処をするかによって再治療の難易度が変わるため、抜けた直後の対処が非常に重要です。
今回は、インプラントが抜けたときにまずどうすればいいのかを説明すると共に、インプラントが抜ける原因・応急処置・対処法について紹介します。
万が一インプラントが抜けてしまったときにも正しく行動できるように、最後までお読みいただけると幸いです。
インプラントが抜けたらどうする?
インプラントが抜けてしまったら、まずは抜けたパーツを確認しましょう。
せっかく治療したインプラントが急に抜けたら慌ててしまうことでしょう。しかし、まずは落ち着いて、どのパーツが抜けたのか確認してください。
そのうえでインプラント治療を受けた歯科医院に速やかに連絡をしましょう。
以下でインプラントが抜けたときにすべきことを説明します。
速やかに歯科医院に連絡
抜けたインプラントのパーツを確認したら、速やかに歯科医院に連絡しましょう。
そして、患者さんのわかる範囲でいいので、「どのような部品が抜けたのか?」「部品は破損しているか?」などの情報を伝えてください。
すぐに処置が必要と判断された場合には、すぐに歯科医院を受診するよう促されるでしょう。
歯科医院の指示に従って対処してください。
抜けたパーツをしっかり保管しておく
抜けたパーツは歯科医院へ持っていくまでしっかりと丁寧に保管しておきましょう。
パーツに破損などがなければ、再利用することが可能です。
保管する際には、蓋の閉まるプラスチック容器などに保管すると良いでしょう。
ティッシュなどの柔らかい物で包んで保管してしまうと、落としたりぶつけたりした際に破損する恐れがあります。
また、ゴミと間違えて捨ててしまう場合も少なくありません。
破損や紛失の恐れがないように、しっかりとした容器に入れて保管してください。
インプラントが抜けてしまう原因
インプラントが抜けてしまう代表的な原因として、歯ぎしり・食いしばり・インプラント周囲炎が挙げられます。
歯ぎしりや食いしばりなどの癖がある人は、インプラントの抜けや破損につながるため注意しましょう。
インプラント周囲炎が原因の場合には、インプラント体ごと抜けてしまう場合があります。
このほかにもインプラントが抜ける原因はいくつかありますので、以下で詳しく説明します。
ネジの緩み
人工歯(上部構造)を固定するのにネジを使用した場合、なんらかの原因でネジが緩んで抜けてしまう場合があります。
人工歯をインプラント体に固定する方法には、「セメント固定」と「スクリュー固定」の2種類があります。
このうち、スクリュー固定は人工歯をネジで止めるため、取り外しが簡単でメンテナンスしやすいのが特徴です。
しかし、強い力で繰り返し噛み締めてしまうと、徐々にネジが緩んで抜けてしまう場合があります。
ネジが緩むと人工歯がグラつくなどして不安定になります。
そのまま放置すると人工歯が抜けてしまうため、異常に気づいたら早めに歯科医院でメンテナンスしてもらいましょう。
手術時のダメージの影響
適切な手術が行われず、顎の骨にダメージが及んだ影響でインプラントが抜ける場合があります。
顎の骨にダメージが残るような不適切な手術となってしまう原因として、以下が挙げられます。
手術前の検査不足
歯科医師の知識・経験不足
手術時の骨へのダメージ
画像検査などの手術前の精密検査を十分に行わなかった場合、顎の骨の質や厚さが十分に把握できません。
顎の骨が柔らかい患者さんに通常のインプラント治療を行ってしまうと、インプラント体と顎の骨の結合不足を引き起こし、抜けてしまう場合があります。
顎の骨の厚みによっては、インプラント体が顎の骨を突き抜ける危険性もあります。
このようなトラブルを防ぐためにも、手術前の精密検査は非常に重要です。
また、歯科医師のインプラント治療への知識・経験が不足していると、患者さんの状態に合わせた適切な治療計画や手術が行えない可能性があるでしょう。
このほか、手術時の骨へのダメージが原因となり、インプラントが抜ける場合があります。
骨にドリルで穴を開ける際、骨質を考慮した適切なドリリングを行わなければ、骨にダメージを与える恐れがあります。
このようなダメージを受けた骨はインプラント体とうまく結合できない場合があるため、インプラントが抜ける原因となるでしょう。
適切なインプラント手術が受けられるかどうかは、歯科医師の知識と経験にかかっています。
そのため、インプラント手術の経験が豊富な歯科医師が在籍する歯科医院で手術を受けたほうが、術後にインプラントが抜けるリスクが低くなります。
インプラント周囲炎
インプラントが、土台のインプラント体ごと抜けてしまう原因の一つが、「インプラント周囲炎」です。
インプラント周囲炎はインプラント周りの歯周組織に発生する歯周病です。通常の歯に発生する歯周病と同じく、主に歯周病菌が原因で発症します。
インプラント周囲炎が発症する大きな原因は「メンテナンス不足」です。
インプラントは金属やセラミックで作られているので、例え歯磨きを怠ったとしてもむし歯にはなりません。しかし、汚れは付着・蓄積します。
インプラント周りに汚れが付着・蓄積したまま放置すると、歯周病菌が増殖してしまいます。
増殖した歯周病菌が出す毒素によって、インプラント周りの歯肉が炎症を起こした状態がインプラント周囲炎です。
インプラント周囲炎の初期症状は、歯茎が腫れる・歯磨きしたときに血が出るなどです。痛みなどがあまりないので、そのまま放置してしまうことも少なくありません。
インプラント周囲炎をそのまま放置してしまうと、インプラントと歯茎の間から歯周病菌が深く侵入し、インプラントを支える顎の骨にまで炎症が及びます。
歯周病菌によって顎の骨に炎症が起こると顎の骨が溶け出してしまい、インプラントがグラつきます。最悪の場合、インプラント体ごと抜け落ちてしまうでしょう。
インプラント周囲炎を予防するには、日頃の歯磨きと歯科医院での定期的なメンテナンスが欠かせません。
インプラント治療前に受ける歯磨き指導の通りに、丁寧に歯磨きを行いましょう。また、数ヶ月に一度、歯科医院でのメンテナンスも忘れずに受けてください。
普段どんなに丁寧に歯磨きしていても、落としきれない汚れはあります。歯科医院の専門の器具で汚れを落とし、インプラントの状態をチェックしてもらいましょう。
歯ぎしり・食いしばり
歯ぎしりや歯の食いしばりが原因で、インプラントが抜けてしまう場合があります。
例えばスクリュー固定のインプラントの場合、歯ぎしりや食いしばりによって強い力が加わり続けると、ネジが緩んでしまいます。
ネジが緩むと人工歯の固定が不安定になり、抜け落ちてしまうでしょう。
また、インプラントは天然の歯とは違い、歯ぎしりや食いしばりのダメージがダイレクトに顎の骨に伝わってしまう点にも注意が必要です。
天然の歯の場合、歯根(歯の根っこ)と顎の骨の間に「歯根膜」という膜があります。
歯根膜はクッションの役割をしており、歯にかかった強い力を分散し、顎の骨に伝わる衝撃を軽減してくれます。
インプラントの場合、歯根の代わりとなるインプラント体と顎の骨が直接結合しており、その間に歯根膜はありません。
そのため、歯ぎしりや食いしばりによって歯に強い力が加わると、その衝撃が顎の骨にまでダイレクトに伝わってしまいます。
この強すぎる衝撃がインプラントの破損やインプラント周囲炎の引き金となるため、歯ぎしりや食いしばりによってインプラントが抜けてしまうのです。
寝ている間や起きているときに歯ぎしりをしている人は、10〜30%程度と報告されています。
歯ぎしりや食いしばりが強い方の場合、歯並びや噛み合わせを矯正したり、インプラントを保護したりといった対処方法があります。
歯ぎしりや食いしばりが気になるという方は、インプラント治療前に歯科医師に相談すると良いでしょう。
ケアやメンテナンスの不足
インプラント治療後にインプラントが抜けてしまう大きな原因として、「ケアやメンテナンスの不足」が挙げられます。
インプラント治療後に発生するトラブルの多くが、ケアやメンテナンスの不足に起因するものといっても過言ではありません。
それほど日頃のケアと、定期的なメンテナンスが非常に重要です。
インプラントの10年生存率は90%以上とされていますが、正しくケア・メンテナンスを行っていけば20年・30年と、半永久的に使用できます。
せっかく治療したインプラントを長持ちさせるためにも、日頃から丁寧な歯磨きを行い、歯科医院での定期的なメンテナンスを忘れず受けましょう。
配信: Medical DOC