「巨大結腸症」の原因・症状をご存じですか? なりやすい人の特徴を併せて医師が解説

「巨大結腸症」の原因・症状をご存じですか? なりやすい人の特徴を併せて医師が解説

監修医師:
大越 香江(医師)

京都大学医学部卒業。大学病院での勤務を経て、一般病院にて大腸がん手術を中心とした消化器外科および一般外科の診療に従事。また、院内感染対策やワクチン関連業務にも取り組み、医療の安全と公衆衛生の向上に寄与してきた。女性消化器外科医の先駆者として、診療や研究に尽力している。消化器疾患の診療に関する研究に加え、医師の働き方や女性医師の職場環境の改善に向けた研究も行い、多数の論文を執筆している。日本外科学会専門医・指導医、日本消化器外科学会専門医・指導医。

巨大結腸症の概要

巨大結腸症とは、悪性腫瘍や捻転・絞拒などの機械的な閉塞がないにもかかわらず、大腸が病的に拡張している状態を指します。明確な診断基準はありませんが、一般に盲腸で12cm以上、上行結腸で8cm以上、直腸・S状結腸で6.5cm以上の拡張を認める場合を巨大結腸としています。

一時的なものから慢性的なものまで幅広く、原因や病態に応じて急性巨大結腸症と慢性巨大結腸症に分類されます。結腸の拡張は通常、腹部の不快感、便秘、腹痛、膨満感といった症状を伴い、治療が行われない場合には結腸穿孔、腹膜炎、敗血症などの重篤な合併症を引き起こす可能性があります。

巨大結腸症はその病態や原因が多岐にわたり、患者さんごとに症状や進行が異なるため、適切な診断と治療の選択が不可欠です。

巨大結腸症の原因

急性巨大結腸症は、結腸の拡張が一時的なもので、多くは後天的な原因によって引き起こされます。この中でも中毒性巨大結腸症は、重症の腸炎による炎症が関与しており、横行結腸に認められることが多く、頻脈や発熱、低蛋白血症、電解質異常を伴うのが特徴です。潰瘍性大腸炎やクローン病、感染性腸炎などに続発し、穿孔を来した場合には死亡率が高くなります。
腸炎の起因菌には、クロストリジオイデス・ディフィシル、サルモネラ菌、赤痢菌、カンピロバクターなどの細菌感染や、トリパノソーマ・クルジ(シャーガス病)や赤痢アメーバといった寄生虫感染が含まれます。
一方、非炎症性巨大結腸症(Ogilvie症候群)は、自律神経系の異常により結腸が急性に拡張するもので、炎症を伴わない点が特徴です。術後の状態や重篤な疾患、電解質異常、薬剤の影響が原因となることがあります。

慢性巨大結腸症は、結腸の拡張が長期的に持続し、先天性または後天性の原因が関与します。
先天性巨大結腸症の代表例はヒルシュスプルング病で、腸管の神経節細胞が欠如するために腸管の一部が正常に収縮できなくなります。
後天性の場合は、背景として慢性便秘や神経疾患(例:パーキンソン病や糖尿病性神経障害)、全身性疾患(例:筋ジストロフィーや強皮症、全身性エリテマトーデス)があります。さらに、稀ではありますが薬剤が副作用として巨大結腸症を引き起こすこともあります。リスペリドン、クロザピン、ロペラミドなどの薬剤はリスクを高める可能性が指摘されています。

その他の原因としては、電解質異常(例:低カリウム血症)や甲状腺機能低下症も考えられます。
慢性巨大結腸症のうち、原因となる基礎疾患や薬剤がないものを特発性慢性巨大結腸症といいます。S状結腸軸捻転を繰り返すことも少なくありません。また直腸の弛緩機能低下、感覚障害をきたし、多くの場合排便障害を合併します。

巨大結腸症の発症メカニズムは明確には解明されていませんが、最終的には腸の運動機能が著しく低下し、便、ガス、腸液が結腸内に蓄積することで拡張が生じます。具体的なメカニズムとして、急性非中毒性巨大結腸症では自律神経系の損傷が関与し、慢性巨大結腸症では腸の神経または平滑筋の機能不全が原因とされています。また、中毒性巨大結腸症では炎症により平滑筋活動が低下し、一酸化窒素の合成増加が関連している可能性が示唆されています。これらの要因が複雑に絡み合い、巨大結腸症が引き起こされると考えられます。
いくつかの研究により、急性巨大結腸症の患者さんにおける腸の構造的および神経的な異常が報告されています。間質細胞(カハールの介在細胞)の減少、さらに神経節や腸神経密度の減少、腸管平滑筋の肥大について、複数の研究で確認されています。一方で、腸管の神経組織や筋層厚が正常であるとする研究結果も存在しており、これらの異常がすべての患者さんに当てはまるわけではないようです。

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