「べらぼう」より大文字屋を演じる伊藤淳史 / (C)NHK
横浜流星が主演を務める大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」(毎週日曜夜8:00-8:45ほか、NHK総合ほか)。森下佳子が脚本を務める本作は、18世紀半ば、町民文化が花開き大都市へと発展した江戸を舞台に、“江戸のメディア王”として時代の人気者になった“蔦重”こと蔦屋重三郎の波乱と“エンタメ”に満ちた人生を描く“痛快”エンターテインメントドラマ。
「べらぼう」の物語も第11回の放送を終え、蔦重(横浜流星)や忘八たちの物語も動いていく。WEBザテレビジョンでは、ドケチな“忘八”・大文字屋市兵衛を演じる伊藤淳史にインタビューを実施。第12回(3/23放送)でメインとなる俄(にわか)祭りについて撮影秘話を語ってもらった。
■撮影まで一カ月、とにかく踊りの練習を重ねました
――大文字屋市兵衛という人物をどのように捉えて演じていらっしゃいますか?
大文字屋は一代で現在の位置まで上り詰めていっているので、そこには強い思いがあると思っています。大文字屋については第1回(1/5放送)で「女郎にはカボチャ食わせときゃいいんだ」と言いながら、自分たちはカボチャの皮をお皿にしてそれを食べやしない。そしてそのカボチャを蔦重に向かって投げるというシーンがまさに大文字屋を象徴しているシーンだと思っていて。あの世界で忘八たちと肩を並べるためには、人並みのことをやっていたら成功しないんですよね。なので強い思いを持って成り上がってきているんだと。いろんなことに対しても、とにかく最初に突っ込んでいく。怒りを静かに表すとかではなく、全て怒鳴って叫んで(笑)。忘八のシーンを連続で撮影すると声が枯れるくらいに、とにかく声を張り上げるということが大文字屋としての正解だと思って演じています。めちゃくちゃケチで、お金が大好きで、声がでかい人ですね(笑)。
――第12回で描かれる俄祭りでは、本宮泰風さん演じる若木屋と雀踊りの対決があります。踊りはいかがでしたか?
元々踊りはすごく苦手で。初めに雀踊りの振り付けの動画を先生から送っていただいて、パッと見て、無理だと思いましたね(笑)。練習で先生から教えていただき、少しずつできるようになったんですが、経験したことのない動きばかりで本当に大変でした。まず自分の踊りができるようになり、それから一緒に踊る皆さんと息を合わせる練習をして。先頭で踊るので緊張感がありました。
個人練習、全体練習を含め、とにかくたくさん練習しました。家でも音楽を流して踊りの練習をしたんですが、リビングで踊っていたので子供たちが邪魔してきて(笑)。僕はひたすら大文字屋と向き合って踊っているんですが、やればやるほど子供たちは爆笑していて(笑)。撮影まで一カ月ほど、とにかく稽古をして臨みました。
――練習を重ねて臨んだ撮影当日はいかがでしたか?
エキストラの方も本当にたくさん参加していただき、若木屋VS大文字屋という中で、一番前で踊るという…総勢100人を優に超える規模で作り上げた場にいられたことがうれしかったです。もちろん緊張感も不安もありましたが、踊りの先生が「もう気持ちでいけば、多少リズムが崩れたとしても味になるから大丈夫」と言ってくださって。
暑い時期の大規模な撮影だったんですが、水分補給をしながら何十回踊ったか分かりません。朝から晩までずっと踊っていました。シーンとしては俄祭りでの戦いでしたけど、みんなで一つのものを作り上げるチームとして、助け合いながらできたのですごく楽しかったです。
――合戦ではなく、芸能での戦いは、大河ドラマの中でも珍しいですね。
そうですね。今回の雀踊りでの戦いのようなものはなかなかないのかなと思います。蔦屋重三郎という誰もが知っている人物ではないところに光を当てた作品という中で、吉原での、お祭りでの戦いが新たな盛り上がりの一つになるんじゃないかなと思います。
■大文字屋と若木屋の関係性は忘八の中でもある意味特別です
――若木屋を演じる本宮さんの踊りをご覧になった感想はいかがでしたか?
勝ったなと(笑)。それは調子に乗りましたが(笑)。本宮さんはとても気さくで仲良くさせていただいていますが、黙っていたら雰囲気も怖いですし、体格も大きくて。若木屋さんの踊りは振り付けの違いもあると思うんですが、余裕を感じるような踊りだったんですね。激しさの中にも美しさが垣間見えるような。それに対して僕も、絶対負けないぞという気持ちで向かっていきました。それでも途中から疲れてくるとお互い「大丈夫?頑張ろうね」って声を掛け合いながら力を合わせてやっていきました。撮影当日、全て終わった時はみんなでいいものを作れたね、というすごくいい空気が満ちたのを覚えています。
――伊藤さんから見て、若木屋はどんな人物だと思われますか?
若木屋さんは元々忘八の中でも距離があるような立ち位置だったんですよね。今回ぶつかり合うということで、忘八の中では年齢も若めですし、大文字屋が唯一声を上げてけんかができる相手なんだと思うんです。挑発し合ったりと、お互いに熱く強いものを持ってぶつかり合える存在なのかなと。忘八の中ではある意味特別な存在なんだと思います。今後の二人の関係性にも注目していただければと思っています。
――ほかの忘八の皆さんとはまた違った存在なんですね。
駿河屋(高橋克実)さんとか扇屋(山路和弘)さんとか怖いですしね(笑)。でも皆さん本当に優しくてすてきな方ばかりです。撮影の合間の時間はみんなでずっと回転寿司の話をしていましたね(笑)。撮影が終わったら回転寿司行ってビール飲もうか、なんて話しながら日々の撮影を乗り越えていました。
「べらぼう」より / (C)NHK
■全力で楽しんでいただけたらうれしいです
――蔦重を演じる横浜流星さんの印象はいかがでしょうか?
撮影の初めの頃から、気さくでフランクに接してくれますし、軽やかな雰囲気で現場にいてくれて。蔦重と大文字屋の関係性についてもよく話し合ったりして、すごくいい関係が築けているかなと思っています。
――踊りの対決には中村蒼さん演じる次郎兵衛も参加していると伺いました。
次郎兵衛は戦いの中において、中性的なんですよね。“戦う感”を持ってはおらず、“何となくいる”という。大文字屋側の踊りだけれど、若木屋とのやり取りに対して引いてしまう場面があったり。「こんなことになるなんて聞いてないけど…!」という役も担っていて。大文字屋と若木屋のバチバチを中和してくれるような感じがありますね。そういったやり取りによって戦いの中で奥行きも出ますし、蒼くんの人柄と次郎兵衛の役柄がすごくうまく表現されていると思っています。
蒼くんは本当に平和で穏やかな空気で、話していてもいつも笑顔で。いてくれるだけで現場が穏やかな空気に包まれるような人ですね。俄祭りでは次郎兵衛目線でも楽しめると思います。
「べらぼう」より / (C)NHK
――最後に視聴者に、先頭に立って踊っている伊藤さんのここを見てほしいというところを教えてください。
全ては“吉原に人を呼ぶ”ということだと思うんです。自分が上に立ちたいというだけではなく、吉原の繁栄のために、人と人が熱い思いをもってぶつかり合う。その思いがすごくすてきなところだなと。演じていても“忘八”じゃないんじゃないかと思うこともあるんですよ。結局誰かのために、がありますし、それを自然と考えられているのが大文字屋なのかなと。
吉原の世界は手放しで最高だねと思える世界ではないですよね。女郎の現実はとてもつらく、苦しいものがあります。その中で、時に本気で人と人がぶつかり合うというところには、いろんな思いがあるけれど、手放しで気持ちがいいねというふうに思ってもらえる瞬間があってもいいのではと。そして第12回はそういうものが描かれていると思っているんです。視聴者の皆さんにも全力で楽しんでいただけたらうれしいです。
配信: WEBザテレビジョン
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