監修医師:
大越 香江(医師)
京都大学医学部卒業。大学病院での勤務を経て、一般病院にて大腸がん手術を中心とした消化器外科および一般外科の診療に従事。また、院内感染対策やワクチン関連業務にも取り組み、医療の安全と公衆衛生の向上に寄与してきた。女性消化器外科医の先駆者として、診療や研究に尽力している。消化器疾患の診療に関する研究に加え、医師の働き方や女性医師の職場環境の改善に向けた研究も行い、多数の論文を執筆している。日本外科学会専門医・指導医、日本消化器外科学会専門医・指導医。
肛門狭窄の概要
肛門狭窄は、肛門が異常に狭くなることで便の排出が困難になる疾患です。この状態は、排便時の痛みや、便が細くなる、便秘、などの症状を引き起こし、軽度から重度までさまざまな程度があります。いずれの場合も共通の問題として排便困難が挙げられ、患者さんの生活の質に大きな影響を及ぼします。
この疾患は、小児では先天性の鎖肛(直腸や肛門の形成異常)の一部として現れる場合があります。一方、成人では裂肛(切れ痔)の慢性化や痔の手術後の瘢痕形成、炎症性腸疾患が主な原因として挙げられます。これらの要因が肛門部の組織を硬化させ、狭窄を引き起こすことが知られています。
症状が軽度の場合、食事内容の改善や薬物療法による対症療法で症状を緩和することが可能です。しかし、重度の狭窄では、外科的治療が必要となることがあり、肛門形成術や瘢痕組織の切除が行われることがあります。
肛門狭窄の原因
成人における肛門狭窄の主な原因は、裂肛の慢性化、外傷、または痔核手術後に形成される瘢痕組織です。瘢痕組織は肛門やその周辺に硬く伸縮性のない線維の層を作り、肛門を狭くしてしまいます。この状態は、内括約筋(不随意筋)の硬化を引き起こし、排便をさらに困難にします。
その他の原因として、性感染症や直腸感染症が挙げられます。性感染症にはクラミジア、性器ヘルペス、ヒトパピローマウイルス、梅毒、淋病、A型・B型肝炎、HIVなどが含まれます。
また、炎症性腸疾患や下剤の過剰使用、肛門がん治療で行われる放射線療法も瘢痕組織の形成を引き起こし、肛門狭窄の原因となる可能性があります。
これらの要因は直接的に肛門狭窄を引き起こすわけではありませんが、肛門管に瘢痕組織が蓄積することで狭窄が進行します。瘢痕組織は健康な筋肉組織のような柔軟性を持たないため、時間とともに蓄積すると肛門管をさらに狭くし、排便を困難にします。
このような病態のメカニズムを理解することは、肛門狭窄の予防と適切な治療において重要です。
一方、小児における肛門狭窄は、先天性の肛門直腸奇形である鎖肛として現れることがあります。鎖肛は肛門挙筋群(直腸を取り巻く筋肉群)との位置関係から高位、中間位、低位の3型に分類されます。高位や中間位の鎖肛では肛門が形成されておらず、腸閉塞症状を伴うため、新生児期に診断されることが一般的です。しかし、低位鎖肛で完全に閉鎖されていない場合には少量の便が排出されるため、最初は見過ごされることがあります。この場合、乳児期以降に難治性の便秘、排便時出血、漏便、肛門周囲の皮膚トラブルなどが原因で診断されるケースが見られます。
配信: Medical DOC