高橋文哉、役者としての原動力を明かす「皆さんの存在を、いつだって忘れたことはない」 <少年と犬>

高橋文哉、役者としての原動力を明かす「皆さんの存在を、いつだって忘れたことはない」 <少年と犬>


高橋文哉 / 撮影=梁瀬玉実
小説家・馳星周の直木賞受賞作「少年と犬」に、オリジナル要素を加えて描いた映画『少年と犬』が3月20日(金)に公開される。本作は、飼い主を亡くし岩手県釜石から彷徨ってきた1匹の犬“多聞”が、西の方角を目指して日本を縦断する旅路で出会った、傷つき、悩み、惑う人々との心の交流を描いた物語。今回は、本作で職を失った青年・和正を演じた高橋文哉にインタビュー。作品への印象や、聡明な犬の多聞を演じたさくらとのエピソードを聞く中で、高橋の役者としての原動力を知ることになった。

■和正は、今まで演じた役の中で1番自分に近い

――完成した作品を見ての感想を教えてください。

客観的に見たときに自分が見ていないシーンもたくさんあったので、そういった部分で、自分が想像していたよりも核となる部分がえぐられたような喪失感を覚えました。自分が和正を演じている中でも、心にぽっかり穴が開くような感覚はあったのですが、それ以上に感じました。

あとは、やはり多聞が再起して、砂浜を走っていくシーンは心が高揚するという言葉が似合うような感覚にもなりました。見た後のそういう感覚と、温かさが残る作品かなと感じています。

――高橋さんが演じた中垣和正という役に共感できる部分を教えてください。

犯罪に手を染めたりする役なので言いづらくはあるのですが、僕が今まで演じた役の中で1番自分に近いのではないかなと思っています。人間性というか、自分なりの物差しを持っていて、それを対自分にも、相手にも当てはめながら生きているという部分が理解できるなと。

ただ、和正はそれを自分が理解してやっているというよりは、無意識な気もします。考えるよりも先に手や口や足が出てしまう感じ、体が動いてしまう感じは僕とは違います。人としてちゃんと繋がろうとしている部分は、和正の愛せる部分だと思いました。

■多聞役のさくらとは、撮影の合間に2人で散歩へ

――体力的に、大変なシーンも多かったのではないかと思います。琵琶湖に入るシーンとか…。

琵琶湖に入るシーンに関しては、きっと皆さんが想像されるほど大変ではありませんでした。和正と美和(西野七瀬)がぶつかるシーンではあったので、見ている皆さんもはらはらするのではないかなと思うのですが、水温的には寒いわけでも温かいわけでもなくて。服を着ながら、水の中に入ることってなかなかないので西野(七瀬)さんと「楽しいね」と言っていました。

――そうだったんですね。多聞を演じたさくらとは、どういうコミュニケーションを取りましたか?

撮影が始まるより前にコミュニケーションを取る時間を設けていただいて、まずは横に座るところ、目を合わせるところ、リードを持って一緒に歩くことから始めました。そこから、リードなしで一緒に歩いたり、僕が走ったのについてきてくれたりするようになったんです。

――実際に現場入りしてからは、どのようなやりとりがありましたか?

実際に現場に入ってからも、撮影のスタンバイ中に2人で散歩に行ったりしていました。最初は少し緊張している様子も見えたのですが、徐々に現場にも慣れていったようですし、僕自身、さくらにはすごく救われました。

和正としては多聞に向き合って救われている部分が多かったので、僕として、というよりは、和正を演じる僕としてすごく向き合っていて。どんどん愛おしさが増していくような感覚がありました。

■仕事は自分のためだけじゃない「皆さんの存在を、いつだって忘れたことはない」

――作中で「ひとつだけでいいから、いいことをしたい」っていう言葉があったのが印象的でした。高橋さんは、そのように思った経験ありますか?

たくさんあると思います。仕事においても、自分のためだけではやっていけないと思います。

――お仕事においては、どなたの顔が「ひとつだけでいいから、いいことをしたい」相手として浮かびますか?

月並みではありますが、見てくださる皆さんでしかないと思っています。それは直接皆さんの顔が浮かぶというよりかは、その存在自体が浮かぶんです。いつだって、忘れたことはもちろんないですし、そこに届けるために日々やっているつもりです。

――「別れ」というのも1つのエピソードになっていますが、高橋さんは印象的な別れのエピソードはありますか?

別れという言葉があまり好きじゃないんです。どちらかと言うと、出会いに感謝して生きてきたつもりだというのもあって。それに別れと言われるものの、日常が変わるだけだと思うんです。

例えば、学生時代、卒業することを別れと言われることもあったと思いますが、それは当たり前の時間がなくなって、日常が変わるだけで、その人たちと過ごした時間がなくなるわけではないと思ってきました。当たり前だったことを当たり前じゃないんだなと思えるきっかけになる、いい機会が卒業式だなって。今回の作品を通して、自分の中での価値観が少し明確になった気がします。

――なるほど。最後に作品の見どころを教えてください。

映画を観に行く前は、犬が日本を縦断していくという壮大な物語だと思われるかと思います。話自体がすごく遠く見えるのではないかなと。ただ、僕はこの映画を観た後で、意外と皆さんの身近にあることに置き換えられる作品ではないかなと感じたんです。

物語としては壮大ですが、そこには人と人との繋がりと、それぞれの愛の形の違いと、素直になれない人たちの苦しみが描かれています。皆さんの身近な環境と、この映画の距離が離れていないというのは、ぜひ感じていただきたいなと思っています。ぜひとも自分自身の物語に置き換えて観てみてください。

◆取材・文/於ありさ
撮影/梁瀬玉実
ヘアメイク/大木利保
スタイリスト/Shinya Tokita

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