年をとると誰もが忘れっぽくなります。起こっている物忘れの原因は何によるものなのか、その判断は難しいものです。
特に加齢による物忘れと認知症によるものは、その後の進行を予防するためにも判断しなければなりません。しかし、どのようなことを基準に違いを見分ければよいのでしょうか。
また認知症と診断された場合、対応には何に気をつけるべきで、進行予防にはどのようなことをすればよいのでしょうか。
今回は、認知症の種類と初期症状・加齢によるものとの物忘れ症状の違い・進行の予防方法・相談先を解説します。
主要な認知症のタイプとその初期症状や相談先について紹介しているので、自身や身近な方が認知症かもしれないと悩んでいる方は参考にしてみてください。
「新しいことが覚えられない…」認知機能低下リスクをチェック!
認知症の主な種類と初期症状
認知症の原因はさまざまです。認知症はその原因に合わせて名称が定められており、なかでも発生頻度の高い4つを大認知症と呼びます。
これらはいずれかの原因、またはいくつかを併せ持って認知症症状を引き起こします。そしてこの重複を起こしやすくする要因の1つは、加齢です。
ここでは、発生頻度の高い4大認知症とその初期症状を紹介します。
アルツハイマー型認知症
いくつかある認知症の種類のうち、その過半数を占めるのがアルツハイマー型認知症です。その原因は、脳内にアミロイドβというたんぱく質が蓄積することといわれています。
このたんぱく質は、タウたんぱく質というほかの正常なたんぱく質を介して、神経細胞の活動を低下・死滅させる働きがあります。
このように脳内の神経細胞が死滅してしまった結果、物忘れ症状が起こるのです。脳内に蓄積したアミロイドβたんぱく質は、脳で固まって老人斑というシミ状になります。
このように発生するアルツハイマー型認知症では、初期症状で以下のような物忘れがみられます。
同じ話を何回も話す
同じことを繰り返し聞く
物を置いた場所を忘れてしまう
アルツハイマー型認知症では、このような物忘れから認知症症状へと年単位で徐々に進行していくのが特徴です。
血管性認知症
認知症のなかでアルツハイマー型認知症に次いでよくみられるのが、血管性認知症です。このタイプは、その名のとおり脳血管に発生した障害が認知症症状の原因です。
この認知症の原因となる脳血管障害を引き起こす病気には、脳梗塞・脳出血・くも膜下出血などの脳卒中と呼ばれる急性期疾患があげられます。
このほかに慢性的に脳の血流障害が起こることも、認知症の原因です。慢性的に血流障害が続くと、脳の深部にある大脳が白質という状態に変化します。
さらにこの大脳白質は、小さな脳梗塞や微小出血の原因となる可能性があります。また、血管性認知症で起こる症状の一例は以下のとおりです。
物忘れ
見当識障害
歩行障害
構音障害
嚥下障害
遂行機能障害
血管性認知症では、脳血管障害が発生した部位によって現れる症状が異なります。
また、血管性認知症の方に、さらなる脳血管障害が起こると認知症症状が階段状に急激に進行することもみられます。
一方で、脳血管障害の起こっていない部位の機能は正常に保たれるため、ときに発見が遅くなることがあるのも血管性認知症の特徴です。
失行・失認・失語といった症状は、血管性認知症の早期発見のサインとなるため、見逃さないように注意が必要です。
レビー小体型認知症
複数ある認知症のうち、3番目によくみられるのがレビー小体型認知症です。
この認知症は、レビー小体というたんぱく質が脳に蓄積するのが原因です。レビー小体は、神経細胞を傷つけて破壊するため、蓄積すると神経細胞が減少します。
パーキンソン病でも同様にレビー小体が脳内に蓄積しますが、蓄積する部位がレビー小体型認知症とは異なります。
レビー小体型認知症では大脳新皮質の広範囲に蓄積する一方、パーキンソン病は脳幹部へと蓄積が限定されているのが発生部位の違いです。
レビー小体型認知症は、認知症全体のうち10〜15%程にみられるタイプの認知症で、ほかのタイプとは異なる以下のような特徴を持っています。
リアルな幻視
パーキンソン症状
覚醒度や認知機能の変動
レム睡眠行動異常症
物忘れの症状のほかにこれら4つのうち、2つ以上の症状がみられた場合には、レビー小体型認知症の診断を受けます。
しかしこれらの症状の発現が1つのみの場合には、以下のいずれかの検査を行い、その結果により診断を行うのが一般的です。
MIBG心筋シンチグラフィー
ドパミン・トランスポーター機能検査(ダットスキャン)
睡眠時脳波検査
これらの検査で陽性の診断結果が出た場合は、特有の症状が1つしかみられていない場合であっても、レビー小体型認知症と診断されます。
レビー小体型認知症の初期症状では、物忘れの症状よりも記憶障害の方がわかりやすく現れることがよくみられます。
また安定剤や睡眠導入剤の服用で夜間せん妄が増悪するような薬剤過敏性も、このタイプの認知症で初期からみられる特徴の1つです。
前頭側頭型認知症
大脳皮質には、前頭葉・頭頂葉・側頭葉という3つの部位が含まれています。
前頭側頭型変性症は、このうちの前頭葉と側頭葉を中心に萎縮がみられる病気です。
この病気の確定診断まで、便宜上使用される病名が前頭側頭型認知症であり、これは前頭葉や側頭葉の萎縮と異常たんぱく質の蓄積がみられる進行性認知症の総称です。
65歳未満の初老期の発症がよくみられ、この病気で異常たんぱくが蓄積する原因はいまだわかっていません。
萎縮が起こる部位によって出現する症状は異なり、症状別に以下の3つの病型に分けられます。
行動障害型前頭側頭型認知症(bvFTD)
意味性認知症
進行性非流暢性失語
前頭側頭葉変性症の物忘れはそれほど目立って現れる症状ではありません。しかし初期から意欲や自発性の低下がみられ、これが早期発見のためのきっかけになることもあります。
認知症の初期症状の物忘れと加齢による物忘れの違い
認知症では、先程解説した初期症状とともに物忘れがよくみられます。しかし認知症でなくとも、加齢とともに物忘れは起こりやすくなるものです。
ここでは、認知症の初期症状の物忘れと加齢による物忘れの違いについて解説します。
物忘れの自覚がない
加齢による物忘れの場合、本人は物忘れをしているという自覚を持っています。
具体的には、自身の記憶力が低下していることを理解していたり、指摘されたときに忘れてしまっていたことを思い出せたりします。
しかし認知症の場合には、思い出すべき要件や過去の出来事そのものを忘れてしまうため、指摘されても物忘れを自覚できません。
体験したことを忘れている
加齢による物忘れの場合には、詳細についてはよく思い出せなくても、思い出すべき要件・出来事・体験自体は覚えているのが特徴です。しかし、認知症による物忘れでは詳細はもちろん、出来事や体験そのものを忘れてしまいます。
生活に支障が出る
加齢による物忘れは、日常生活のなかで行う行動は忘れにくく、それによって大きく支障が出ることはありません。一方で認知症による物忘れは、日々習慣として行っていた行動であっても忘れてしまうことがあり、日常生活に支障をきたすのが特徴です。
症状が進行していく
加齢による認知症の物忘れはゆっくりと進行するのが特徴ですが、訓練を行うことでその進行をある程度抑えることが可能です。しかし認知症による物忘れは、進行を抑えることが困難で認知症の原因が悪化することで、同時に症状も進行していきます。
配信: Medical DOC