「難病をもって生まれた長男が喜んでくれる絵本を作りたい」未経験から絵本作家になった母の思い【体験談】

「難病をもって生まれた長男が喜んでくれる絵本を作りたい」未経験から絵本作家になった母の思い【体験談】

自分の子どもが障害を持って生まれてきた意味。絵本をとおして障害への理解を広めたい!

当初、絵本を出版したことは家族以外だれにも言っていなかった庄司さんですが、その後インクルーシブ絵本作家として「絵本屋だっこ」を立ち上げることに。

「あるとき、隼人のリハビリで毎週家に来ていたST(言語聴覚士)さんにすこしだけ絵本を見てもらったことがあって。そのときに『これいいよ、これはちゃんと発信したほうがいいよ』と言ってくださったんです。後日、家にあらためて取材に来てくれて、絵本をその事業者さんのホームページに載せてくれました。そういったことがいろいろと重なって、思った以上の反響をいただくことに。正直、驚きました。

これまで障害児の親として『子どもが障害を持って生まれてきたのには何か意味がある。自分には何かできるんじゃないか』というモヤモヤが心の中にずっとありました。その思いもあいまって、『絵本から障害への理解を広めるような活動をしたい』と思うようになったんです」(庄司さん)

その時期から、本格的に絵本作家として活動を始めた庄司さん。より絵本の目的がわかりやすい肩書がいいと、ご自身を“インクルーシブ絵本作家”と名乗るように。
その後、多くの人に重心児のことを知ってもらう活動として2023年にクラウドファンディング(以下クラファン)を実施。集まった資金で、庄司さんが出版した絵本を全国の重心児支援施設に無料配布する取り組みを始めました。

「クラファン経験者の先輩方からは『個人の“絵本を配りたい”という思いだけで終わらせないように。この活動が社会や未来にどうつながっていくかを、応援してくださったみなさんに見せていこう』とアドバイスをいただきました。

それをきっかけに、“自分1人だけではできないことを実現し、発信できる場所”をつくりたいと『絵本屋だっこ』の立ち上げを決意。“絵本で障害への理解を広める”という私の目標も、ただ作品をつくっただけではなかなか実現できないので、『絵本屋だっこ』をとおして継続的に絵本配布や周知活動をすることが必要だと思いました。

おかげさまで、このプロジェクトは多くの方に支援していただき、これまで全国の約400施設に自作の絵本を無料で届けることができました」(庄司さん)

絵本が“抱っこ”のような親子のコミュニケーションツールになれば

そうして庄司さんが立ち上げた「絵本屋だっこ」。障害者や家族の支援を目的とした、オンライン上のインクルーシブ絵本を集めた本屋さんです。

「長男は重度の障害を持っているので、親としてできることがほとんどない。それでも、ただ“抱っこ”してあげられるだけでいいんだとつねづね思っていました。

そんな思いもあって、『 “抱っこ”で親子がコミュニケーションを取るように、絵本も親子のコミュニケーションツールになればいいな』、『意思疎通ができなくても、絵本があったらそれでいいな』と『絵本屋だっこ』というネーミングにしたんです。

活動を始めてから、絵本を実際に読んだ方から手紙をいただいたり、子どもに読み聞かせている動画を見せてもらったりすることがあり、親子のふれあいやコミュニケーションのきっかけをつくることができていると実感します。

中には『クラファンで無料配布してもらった絵本を歌にしてもいいですか?』という事業者さんもいて。昨年開催したインクルーシブイベントの際に、その歌の動画を流させてもらいました。絵本がきっかけでこのような広がりが生まれたり、子どもたちの楽しそうな姿を見られたりするのは本当にうれしいです」(庄司さん)

さらなる活動の広がりをめざして、「絵本屋だっこ」は2024年にNPO法人化しました。これまでどおりの絵本配布活動に加え、絵本ボランティアの制度、障害児をもつ家族のための相談室の設置や、ワンコイン勉強会の取り組みも実施しています。

「NPO法人化しても、“絵本から障害への理解を広める”という目標は変わりません。私自身は息子たちの育児もあるので、全国を飛び回るのはなかなかむずかしいのですが、サポートしてくれる方々やボランティアさんの力を借りながら、読み聞かせコンサートや、子ども参加型の絵本をつくるイベントなどを定期的に開催できるようにしていきたい。これからもインクルーシブ絵本を知ってもらう機会を増やすために、地道に活動を続けていきたいです。

また、絵本作家としては、今までのような子ども向けの絵本だけではなく、これまでの経験や出会いから学んだことを生かして、社会に必要とされるような絵本をつくっていけたらと思っています」(庄司さん)

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