誰かを待つ時間、その人が来たときの第一声を考えたり、そのあとの時間に思いを馳せたり、あるいはメールチェック、SNS、携帯ゲームなど、過ごし方はさまざま。
そんな「待つ時間」にそっと寄り添う音楽をモチーフに、DJ、作詞、音楽演出など幅広い活動をしているカワムラユキさんに言葉を綴っていただきます。
枕を濡らした意図せぬ悲しみも、拭いされない喪失感も、小さな心の片隅に蓄積されて
忍耐力や傲慢さで押し潰そうとしても、心頭滅却すれば火もまた涼しとは、うまくいかない時もある
柔らかさや物腰の低さは弱さと言われて、制圧と紙一重の強さが世界を牛耳ってしまう
目に映る景色のひとつひとつの悪化が、勘の鋭い君には耐え難いことなのは深く理解できるけれど
フラストレーションはあらゆるものに形を変えて、紡いでゆく生活の水辺に大きな波紋をもたらしてゆく
溶けてゆく街の個性と彩り、合理性からは程遠い無駄なものを排除して得た輝きは、眩しくて目が潰れてしまいそう
週末の道玄坂の人混みを潜り抜けて、終電を逃して始発まで喧嘩を繰り返しながら徘徊して
ふと腰を下ろす場所もない闇の中を、あの人もきっとその人も寂しさを抱えながら歩いている
限界になる前に導かれていた旅の予定は、ここじゃない何処かに抜け出すことで、新しい風を招き入れるときと
運命は苦悩の果てにピリオドを打つことなく、痛みだけを代謝して、鮮やかな気の巡りを促すのだから
そして遠く離れたところに一人づつ、それぞれの時間を生きて、生活に距離を置いて
誘拐するみたいに心と体を連れ去って、旅をすることは心の洗濯と
生活に埋もれてしまった想いあう心、小さな喜びに感謝できる感受性
適当な刺激に翻弄されて、大切なものを失わないために
いまここにある愛のために、運命のために必要な旅を
君を想うほどに
小沢健二『LIFE』(1994年、Universal Music)収録
配信: 幻冬舎Plus
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