「胸膜中皮腫」の初期症状をご存じですか? 早期発見のポイントを併せて医師が解説

「胸膜中皮腫」の初期症状をご存じですか? 早期発見のポイントを併せて医師が解説

監修医師:
高宮 新之介(医師)

昭和大学卒業。大学病院で初期研修を終えた後、外科専攻医として勤務。静岡赤十字病院で消化器・一般外科手術を経験し、外科専門医を取得。昭和大学大学院生理学講座生体機能調節学部門を専攻し、脳MRIとQOL研究に従事し学位を取得。昭和大学横浜市北部病院の呼吸器センターで勤務しつつ、週1回地域のクリニックで訪問診療や一般内科診療を行っている。診療科目は一般外科、呼吸器外科、胸部外科、腫瘍外科、緩和ケア科、総合内科、呼吸器内科。日本外科学会専門医。医学博士。がん診療に携わる医師に対する緩和ケア研修会修了。JATEC(Japan Advanced Trauma Evaluation and Care)修了。ACLS(Advanced Cardiovascular Life Support)。BLS(Basic Life Support)。

胸膜中皮腫の概要

胸膜中皮腫(きょうまくちゅうひしゅ)とは、胸腔内にある肺や心臓を覆っている「胸膜」に由来する中皮細胞(内臓を覆う薄い細胞層)が腫瘍化して生じる病気の総称です。
一般に「中皮腫」と呼ばれる場合は悪性のものを指すことが多いですが、実際には胸膜中皮腫には良性のものと悪性のものが含まれます。悪性の胸膜中皮腫(以下、悪性胸膜中皮腫)は、主にアスベスト(石綿:建築資材などに使われていた繊維状の鉱物)曝露との関連が深く、進行が速い・予後が厳しいという特徴を持つがんです。一方で、限局性に発生してゆっくりと増殖するタイプや、腫瘍学的には良性に分類されるタイプ(アデノマトイド腫瘍や高分化型乳頭状中皮腫など)もあり、これらは一般に進行が遅く、切除により良好な経過が期待できるケースがあります。

胸膜は「臓側胸膜(肺などの臓器表面を覆う膜)」と「壁側胸膜(胸壁の内側を覆う膜)」の2枚に分かれており、いずれもとても薄い膜です。この膜は潤滑液を分泌することで肺と胸壁の摩擦を減らす働きをしています。この胸膜表面を覆う中皮細胞が腫瘍化したものが「胸膜中皮腫」です。
胸膜中皮腫全体のうち、臨床的に深刻な問題となるのは悪性腫瘍(悪性胸膜中皮腫)で、胸膜に広範囲に浸潤し、胸水の貯留や肺機能障害などを引き起こします。さらに、潜伏期間が長く(一般に数十年)、発症した時点ですでに進行している場合も少なくありません。

胸膜中皮腫は、びまん性悪性中皮腫(膜全体に広がりやすいタイプ)、限局性中皮腫(一定の範囲にとどまるタイプ)、高分化型乳頭状中皮腫、アデノマトイド腫瘍など複数の種類に分類されます。そのうちびまん性悪性中皮腫がいわゆる「悪性胸膜中皮腫」にあたり、進行が速く治療選択が難しい疾患として知られています。

胸膜中皮腫の原因

1. アスベスト(石綿)曝露

胸膜中皮腫、とくに悪性胸膜中皮腫の主要な原因は、過去に建築資材や工業製品で広く使用されてきたアスベスト(石綿)を吸い込んだこと(曝露)です。アスベストは細く鋭い繊維状の鉱物で、空気中に舞いやすく、肺や胸膜に沈着し、長期間にわたって細胞を傷害し続けます。通常、初めて吸い込んでから数十年(多くは20~40年ほど)かけてゆっくりと病気が進行し、悪性胸膜中皮腫が発症すると考えられています。

アスベストは耐火性や断熱性が高く、ビル・工場・船舶などさまざまな場所で重宝されてきました。しかし、その危険性が明らかになり、現在は日本を含む多くの国で製造・使用が禁止されています。ただし、古い建物の解体や補修工事などでアスベスト粉じんが再び舞うリスクが残っているほか、1960~1990年代頃にアスベストを扱っていた労働者や、その家族(作業服などについた繊維を家に持ち帰り、家族が吸い込む)なども注意が必要とされています。

なお、悪性胸膜中皮腫以外にも、アスベスト曝露は肺がんや石綿肺(じん肺の一種で肺が硬くなる病気)などの原因にもなることが知られています。胸膜プラーク(胸膜が肥厚または石灰化している状態)が見られる場合は、アスベスト曝露の痕跡と考えられます。

2. 良性胸膜中皮腫の原因

一方、良性とされる胸膜中皮腫(アデノマトイド腫瘍、高分化型乳頭状中皮腫、限局性中皮腫の一部など)では、アスベストとの直接的な因果関係が明確ではない場合が多いです。何らかの局所刺激や遺伝的な素因で発生すると考えられていますが、解明されていない点も少なくありません。

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