先日、地元の同級生たちと会って来た。
小学生、早くは幼稚園からの付き合いのメンツなので、親父のキンタマにいる段階で飛び級してくるような神童でない限りは全員同い年の40代である。
この年代の女が集まると、どんな話をしていても自分の老化や親の目を見張る老化など話題が涅槃寄りになってくる。
または、配偶者や子供、己の仕事の話になり、一歩間違えばマウントの取り合いになってしまうかもしれない。
しかし、あまりにも付き合いが長く、それが幼少からになってくると、相変わらず主な話題は漫画やアニメなど今ハマっているコンテンツであり、いつの間にか席に座っていた知らないおじさんが「まるで成長していない……」とこぼして去っていくレベルで変化がない。
ただ二次元の話に突然保険の話がカットインしてくるなど、40代女性として正気に戻る瞬間が発作的に起こるだけである。
しかし、中高年以上の最大手トピック「体力の衰え」は決して悲観的な話題というわけではない。
「体力がなくなったおかげでいらんことをしなくなった」という悲観が一周回った末の楽観の場合もあるが、老の「体力がなくなった」という嘆きは「いろいろやりてえことはあるのに体力がもたん」という意味だったりもする。
つまり「俺に……もっと力があれば……!」という少年漫画冒頭みたいな状況であり、俺たちの戦いはまだはじまったばかりなのである。
私にとって友人という存在自体がかなり貴重なのだが、嫉妬の擬人化である私が「こいつの子供が通っているダンススクール倒産しないかな」などの感情を向けずに接せる相手はほぼ皆無に等しく希少である。
しかし、コミュ症が「貴重な友人」と称する相手はこちらをそうは思っておらず、数ある友人の一人、または知り合いの一人としか思ってない場合が大半である。
むしろそういうコミュ強だからこそ、多くの人間が途中脱落するコミュ症の友達ポジションに負け残ることができたといえる。
そんなわけで、ファミレスで3時間、という学生時代から何ら変わりない会合を終えて帰宅したのだが、その話を聞いた夫に「俺も今度高校時代の同級生と集まる予定だが何を話したらいいだろうか」という意外すぎる質問をされた。
話すことがない時点で集まるのをやめた方がいいんじゃないかと思ったが、これこそ友達を作ること自体が困難なのに、せっかくできた友達との縁を乱雑に扱ってすぐに切れさせるコミュ症特有の発想と言える。
地元の幼馴染レベルであれば、数年合わなくても何事もなかったかのように再会したりするが、それ以降に出来た関係は「たまに集まる」などの定期メンテしていかないとすぐ断線するのだ。
高校時代に便宜上作ったコミュ症グループが卒業後即音信不通になるのも、グループの中に「たまには会おうぜ」とメンテ招集をかけるメカニック担当が一人も存在しないせいもある。
確かに、田舎の場合、小中学の9年間ほぼ同じメンツなため、「公民館跡地にシャトレーゼができた」や「先生のこと間違えて『将軍』って呼んじゃったあいつ元気かな」など、内輪ネタである程度盛り上がれるが、高校になると各地集結な上、3年しか一緒にいない場合もあるため、久しぶりに会っても意外と話すことがないような気がする。
そうなるとやはり最大の共通点である「年齢」を話していくしかない。
老が心身の衰えの話ばかりするのは、年を取ると「老化推し」になるからではなく、それが同世代であれば初対面でも通じる共通の話題だからだ。
やはり円滑なコミュニケーションの基本は「共感」である、共感できない話にはストレスがたまるし、話す側もリアクションの冒頭が常に「でもまあ」や「まあでも」で、死んでも素直に共感を示さない奴との会話は疲れるのだ。
その中でも加齢の話はかなり共感ポイントの高い話題なのだ、「俺が42ってことはお前も42だよね?」という話題にさえ「まあでも」で返す奴はなかなかいないし、そこまでくると「でも」の先が気になる。
ただし、これが共感度の高い話題になるのは同世代間だけであり、ダイエットの話をしている若の間に「歯茎の方が痩せてきた話」で切り込んでいっても返り討ちだ。
よって「最近ハゲてきた」みたいな話をすればいいのではないか、と思ったが、ハゲが男にとってどれだけセンシティブな話題かわかっていない女特有の不理解の恐れがあるので言わないでおいた。
そう考えると、オタクは久々に会った時の話題に有利と言えるかもしれない。
「最近何かハマってるものある?」と聞けば、誰かひとりぐらいは新しい沼にハマっているものなのだ。
例えそのコンテンツのことを全く知らなくても、沼から顔だけ出して段々早口になっていくオタクの姿はそれだけでエンタメになっているし滋養強壮がある。
そしてそこから「もっとリアイベとか参加したいけど体力がもたない」という話にシームレス移動することができるのだ。
逆に漫画やアニメ、推しの話を挟まないと、ダイレクトに家族や仕事など格差が生じる話題になっていき、Xのおすすめ欄によく出てくる「ずっと友達だったけど会うのがしんどくなってきた」という文言に繋がるのではないか。
何十年来の友人と言えど、生きていれば様々な差異が生じ、それが亀裂になることもある。
故に一見幼稚に見えるかもしれないが、二次元や画面から出てこない人など、そこにいる誰にも直接関係ないもので盛り上がっている中年は人間関係を壊さない高度な対人スキルを発動しているのだと思って欲しい。
配信: 幻冬舎Plus
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