フェミニズムのおかげで離婚を回避できました【後編】 |アルテイシア

フェミニズムのおかげで離婚を回避できました【後編】 |アルテイシア

スーパーサイヤ人に変身したアキラさんは振り返る。

「その頃の私はアルさんの本やフェミ本を読んで、言葉を手に入れてたんです。だから「あんたは交通事故の被害者に「でも当たり屋もいるよね」って言うのか?」とか言い返して、「男と女、狂っているのはどっち?」の記事をLINEで送りつけたんですよ」

「男と女、狂っているのはどっち?」は拙著『ヘルジャパンを女が自由に楽しく生き延びる方法』に収録されている。

 

韓国小説『僕の狂ったフェミ彼女』を紹介しながら、男女間のジェンダー意識のギャップについて書いたコラムで「これを読んで目が開いた」と男性たちから感想が寄せられた。

アキラさんは「これでわからなかったら即離婚だ」と覚悟を決めて、しばらく夫と口をきかなかったという。

すると夫は『僕の狂ったフェミ彼女』を買ってきて読んだのだとか。

「それから夫はアルさんの本も全部買ってきて読んだんです。それで「この考え方は社会を救うと思う」とか言い出して、職場の男性たちにも布教するようになったんですよ」

夫は自分用と布教用に拙書を二冊買ってくれたんだとか、なんちゅうありがたいお客さんや(合掌)

「夫はもともとあまり本を読まない人だったけど、フェミニズムにハマったんでしょうね。そこからジェンダーや男性学の本を読みまくって、感想文や日々の気づきをLINEで送ってくるようになりました」

変化はまだ終わらんよ。

その後、フェミ男子に変身した夫は清田隆之さん主催のおしゃべり会に参加したり、男性学の勉強会で出会った参加者たちと雑談会を企画したり、同性のフェミ友を増やしていったんだとか。

「もともと人見知りでそういうこと苦手なのに、びっくりしました。いろいろ話せる男友達ができたのも良かったみたいです。なにより、主体的に家事育児をするようになったのが一番の変化でした」

それでも積み重なった恨みは完全には消えなかった。

そんなある日、『99%離婚 モラハラ夫は変わるのか』を読んだ夫が「今までごめん」と泣きながら謝ってきたそうな。

「それでちょっとスッキリしたというか。これまでの過去を反省して謝ったので、一定の評価はできるなと(笑)。一度は本気で離婚を考えたけど、今は気の合うフェミ友みたいな感じで仲良くやってます」

こうして夫婦関係が変わり、その後、家族の形も大きく変わった。

「私の稼ぎが増えて、夫の年収を超えたんです。そこで「全ての家事から手を引いていいなら、大黒柱に俺はなる!」と宣言しまして」

現在は夫が専業主夫となり、料理掃除洗濯など家事全般を担っている。

職場のストレスから解放されたせいか夫は酒も一切飲まなくなり、以前よりずっと明るい表情になったんだとか。

夫さん、専業主夫に向いてたのかもね? と聞くと「そうですね。私も安心して目いっぱい働けるし、今が一番いい関係だと思います。なにより、夫と子どもたちの仲がすごく良くなったんですよ」

以前は両親の不仲を察知して、子どもたちは父親の顔色をうかがう様子があったという。

でも今は中学生の娘さんも父親とよく話すようになり、小学生の息子さんも積極的に家事を手伝うようになったんだとか。

フェミニズムのおかげで家族みんながハッピーに、と言うと奇跡の青汁体験みたいだけど、世の中には変われない男性もいるだろう。アキラさんの夫はなぜ変われたんだと思う?

「うーん、もともと男らしさがしんどかったタイプなので、素地はあったんでしょうね」

同じ塾に通っていた高校時代、塾で成績トップだったアキラさんに対して、夫は「すごいね~」と素直に言っていたし、彼より上のランクの大学に合格した時も喜んでくれたそう。

つまり根っから男尊女卑のマッチョではなく、フェミ男子になる素質はあったのだろう。

夫の家庭環境はどうだったの? と聞いてみると

「夫のお姉さんが優秀で気が強いタイプなので、そういう女性に慣れてたのかも。義両親はTHE家父長制だけど、義父が単身赴任していて父親不在の家だったんです。たまに帰ってきて偉そうにする父親に反発が大きかったらしく、そのおかげで父親のコピーにならずにすんだのかもしれません」

私も母みたいな女になりたくないと思っていた。子が親を反面教師にするパターンは少なくない。

そういう家庭環境の影響もあるだろうけど、やっぱりアキラさんが本気で怒ってぶつかったから、夫は変われたんじゃないだろうか。

「たしかに、私がマジギレしたことで「ヤバい、離婚される」と本気でびびったんでしょうね。ただ、私に経済力がなければぶつかれなかったと思います」とアキラさん。

たしかに妻に経済力があることは大きいだろう。

とはいえ、経済力があっても「ケンカするほうが面倒くさい」「自分が我慢すればいいんだ」と衝突を避ける女性は多いと思う。

それどころか「私の言い方が悪いのかも」「夫への感謝が足りないのかも」と自分を責める女性もよく見かける。

インポスター症候群という言葉があるように、女性は自信を奪われ、自責思考を刷り込まれている。

いや問題があるのは夫だよ? 変わるべきは夫なんだから、怒った方がいいんじゃないの? 怒らないから夫はあぐらをかいていられるんだよ。

と言いたくなるけど、怒れない気持ちもわかる。怒るのはパワーがいるし、逆切れされるのも怖い。逆切れされて殴られたら、体格的に男にはかなわない。

それに「女の子はいつも笑顔で愛想よく」と育てられて、怒ることに慣れていない女性も多い。

それでも怒るべき時に怒らないと状況は変わらないし、嫌いポイントは貯まっていく一方だ。

ほんそれ! と膝パーカッションするフレンズに、小野美由紀さんの傑作エッセイ『わっしょい!妊婦』をおすすめしたい。

本書には小野さん夫婦がカップルカウンセリングを受ける話が出てくる。

夫婦二人の問題を他人に話すことに抵抗がないわけではなかった。しかし、受けてみて思ったのは、むしろ「怒りに目が曇った当事者同士が、第三者の介入なしに問題を解決することなど、ほぼ不可能」ということだった。なぜもっとはやく相談しなかったのだろう。

不安に目が曇るあまり、我々はお互いの姿をよく見ていなかった。数年の時を過ごし、相手のことをすべてわかったつもりでいたが、実際は氷山の一角を見ていただけに過ぎなかった。氷山の海面より下の部分には、今まで知らなかった彼の来歴、今の彼を形づくった豊かなあらましと、それゆえの弱さとが同時に隠れていた。

互いのことをよく知らない同士がユニットを組み、頼りない命を生み出そうとしているのだから、衝突するのは当たり前である。

「あなたたちだけでなく、ほぼすべての夫婦に言えることですが」と、カウンセラーは言った。

「人がいちど愛した相手を憎むのは、相手を愛せなくなりそうな時、そして、本当は愛し続けたいと思う時なのです」

カウンセリングを受けた後、小野さんと夫は今まで以上に会話を増やしたそうだ。

私はなぜ彼と結婚することにしたのかを思い出した。自分が一人では生きてゆけない未熟な人間だと痛感したから結婚したのだ。完璧な人間同士ならむしろ、一緒にいる必要などない。不完全な人間同士が、寄り添って生きるためにつがいになったのだ。

「母になる」「父になる」前に、私たちはまず、互いのパートナーにならなければいけなかったのである。他ならぬ、自分たちのために

私もかつては夫とよくケンカしていた。それは夫を嫌いになりたくなかったから、「諦めたらそこで試合終了ですよ」と思ったからだ。

私もアキラさんも諦めが悪い女なのだろう。かつ、怒りや違和感に目をつぶれない女なのだろう。

「そうですね。子どもの時から「嫌なものは嫌!」という喜怒哀楽の激しいタイプでした。それでも育児中は「母親なんだから」と我慢していたので、もっと早くキレときゃよかった(笑)」

私もすぐに沸騰するティファール系の子どもだった。

両親の若き日の写真を見ると、父はバンカラで母はスケバンだったらしく、武闘派の血筋なのかもしれない。アキラさんの親はどうだったの?

「うちは母が過干渉の束縛系でした。おやつは手作りしかダメ、テレビは日本昔話と世界名作劇場しかダメとか、厳しいルールが嫌でたまらなくて。小学三年生の時に「嫌だ!!」と親にバチギレたんですよ」

不良になってやる! と決意した少女は親の財布から小銭をくすねて、ビックリマンチョコを買い食いしたんだとか。

ビックリマン事件に親も衝撃を受けて、理不尽なルールが改善されたという。その頃から闘って権利を勝ちとるプロテスター魂があったのだ。

「厳しい母に反発してきたけど、今では彼女の苦しさもわかるんです。うちの両親は学生結婚して、先に就職した母が働いて家計の主だったんです。子どもが3人生まれて専業主婦になったけど、エネルギーを持て余してたんじゃないですかね」

若き日のお母さんは上野千鶴子さんの本をよく読んでいたそうだ。

経済力を奪われ家に閉じ込められた女の行き場のないエネルギーが「完璧な母親」を目指させたのかもしれない。

「母は自分が家に縛られてたから、子どもを縛るようになったのかもしれません。子育てが一段落した後は熱心にボランティアとかやって楽しそうだったので、それがせめてもの救いですね」

そうそう、世界名作劇場と言えば……とアキラさんが懐かしそうに話してくれた。

「小学生のとき『愛の若草物語』のジョーが大好きだったんですよ。私もお嫁さんやドレスに憧れない子どもだったので「女の子らしくなくてもいいんだ、自分は自分でいいんだ」とすごく励まされたことを覚えてます」

今は自分らしく生きられてると思う?

「そうですね。大黒柱のプレッシャーはきつくない? と聞かれるけど、まあ何とかなるやろと思ってます。私が一番きつかったのは、母親なんだから頑張らなきゃという呪いでした。その息苦しさから解放されたのもフェミニズムのおかげですね」

アキラさんと対話しながら、映画『キャプテン・マーベル』を思い出した。

主人公のキャロルは力を制御するチップを体内に埋められていたが、それをみずから壊して本来のパワーを取り戻す。

家父長制の呪いというチップを埋められて、本来の才能や個性や能力を発揮できない。そんな大勢のキャロルたちに向けて、チップをぶっ壊した女たちのストーリーを紹介していきたい。

次回は「フェミニズムのおかげで非婚宣言できました」をお届けします!

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