有名人を使ったトクリュウを考えたのは台湾マフィア。|花田庚彦

有名人を使ったトクリュウを考えたのは台湾マフィア。|花田庚彦

トクリュウこと、匿名・流動型犯罪グループ。最近、ミャンマーやカンボジアでその拠点が発覚したが、実は台湾にもその大きな拠点がある。ジャーナリスト・花田庚彦が、台湾の「街頭」が仕切るトクリュウの現場に潜入取材し、誰も知らない闇バイトの恐るべき実態を暴いた『ルポ・台湾黒社会とトクリュウ』より、“スクープ”の一部をお届けします。今回は「第1章 台湾の黒社会」より台湾黒社会のある大物への赤裸々なインタビューを。

街頭の大物が語る台湾発のトクリュウ

事前にある程度の条件のすり合わせを行い、「取材をもとに日本で本を出版する」「顔写真を出すことはOKだが、組織名は言わない」という条件にまとまっていたが、王氏は再びこの条件について確認してきたため、こちらもそれは全て了承した。さらにこちらからは、心苦しくも取材謝礼は払えない、という旨を追加して通訳に伝えると、王氏は笑いながら握手を求めてきてくれて、見事交渉は成功と相なったのである。一方、「聞いているとは思いますけど、私たちの口から三社会のことは話せない。勝手に取材されているなら別ですけど、そこはお察しください」と、向こうからも条件を出された。どの世界でも当たり前かも知れないが、上を語ることがタブーなのは黒社会でも変わらないようだ。合意が取れた後、王氏は聞きたいことは何でも質問してください、と言ってきたので、こちらも遠慮なく質問を始めた。

――台中マフィアとは台湾の中でどんな存在なのですか?

「台湾は台北、台中、台南の3つに分かれています。台北は談合や建設が行われて、三大黒社会の人間が活躍する地域。台中は意外と思われるかも知れませんが、三大黒社会より我々街頭が裏の経済を回している経済の街。台南や高雄は密輸や覚醒剤製造の街です」

――台中が経済を回している街、というのはどういう意味でしょうか?

「あまり知られていませんし、大っぴらに知られても困ってしまいますが、台湾という国はトクリュウの発祥となる地域の一つです。私たちが中国大陸から名簿を手に入れてトクリュウをやり始めた。これにより、中国から何兆円という金が私たちに流れている状況です」

トクリュウの発祥の地の一つが台湾であり、中国本土から台湾に詐欺によって資金が兆単位で流出している――。筆者はその事実に思わず驚愕してしまったものの、言われてみれば、トクリュウは日本だけで行われている犯罪ではないのは自明の理である。主に中国本土で使用される簡体と、台湾や香港、マカオなどで使用される繁体という使用漢字の違いや、方言などのイントネーションの違いなどはあるものの、両国間で使われているのは同じ中国語。台湾から中国にかけて行われる犯罪としては、至極当然とも言えるものの一つであろう。この事実に気付いた際、頭をよぎったのは、同じように言語を一つとする北朝鮮・韓国間でも同じようにトクリュウが行われているのではないかということだ。ただ、中国も韓国も国の威信やメンツの問題で発表していないのかも知れない。

「私たちのIT技術を試してみますか? 奥にはハッキングなどに使うパソコンなどの機器が揃っています。ここにあなたの使っているiPhoneを5分置きっぱなしにしてみてください。Face IDだろうと、指紋認証であろうと、5分もあればセキュリティを突破できますし、10分後には銀行口座からクレジットカードの残高まで全て他の口座に移すことができますよ」

続いて、王氏が放ったのは、自身の組織の技術を恐ろしい実例とともに説明する言葉だった。前述の通り、半導体大国である台湾は高度なIT技術を有している。その威光はもはや日本にも及んでおり、熊本県には、台湾にある世界最大の半導体ファウンドリである台湾積体電路製造股份有限公司(TSMC)が所有する半導体の工場が建設され、台湾からの直行便が飛んでいる状況だ。もちろん、これは表の企業であるが、これを足掛かりとして、黒社会がより日本への影響を強める部分があるのではないか。そう考えた筆者は、この点についても王氏に質問してみた。

――日本の熊本県と、そこに台湾から進出した半導体工場があるのは知っていますか?

「TSMCが進出したところですよね。もう見に行きました。少なくとも我々は、あの地域で何かをやろうとは、まだ考えてはいません。政治家を介してTSMCから招待をされたので、視察に行っただけです」

――政治家を介した招待。台中のマフィアはやはり、政府筋とも関係が深いのですか?「主要な政治家はもちろん、所轄や中央の警察、行政、町の顔役みたいな人間には、毎月それなりの賄賂を渡しています。私たちは街頭ですからね、もちろん悪いことはたくさんしますよ。それを揉み消してもらうには、ある程度の出費は必要です」

――ちなみに王さんが所属する街頭と、マフィア、黒社会というのはどういう違いがあるのでしょうか?

「マフィアは黒社会も街頭も含めた総称ですね。黒社会は、日本の組織で近いものを挙げるとしたら、ヤクザでいいと思います。大きな組織は3つですが、それ以外にも100以上は存在しているのではないでしょうか。私は黒社会ではなく街頭だから付き合いこそあるものの、その実情についてはそこまで詳しくはありません。街頭は1000以上のグループが各地域にあります。人数は20~30人のグループもあれば、私のグループみたいに200人以上在籍している組織もあり、その規模には幅があります」

離合集散を繰り返すような小程度のグループもあれば、王氏のように多くの人間を抱える大規模な街頭もある、ということか。こうした規模の差があるグループが多く乱立することが、当局がその正確な数を把握したり、取り締まりを行ったりすることへの障壁となっていることは想像に難くない。

――トクリュウを主に行っているのは街頭なのでしょうか?

「そうですね。台湾の理工系の学生やプログラマーを高額で雇い、街頭が行っています。黒社会の人間はそのようなことをしなくても、談合や覚醒剤などで毎月金が入るシステムになっていますから、手を出すところは少ないでしょう」

――トクリュウで儲けた金で賄賂を贈っているんですか?

「もちろん。彼らは何の金かも知っているし、ある程度は目を瞑(つむ)ると言っています。実際に台湾でトクリュウの容疑で検挙されている事案を見たことがありますか?」

この取材後、実際に知り合いの全国紙社会部記者を通じて警察庁に問い合わせたところ、この原稿を書いている時点で、トクリュウを理由とした台湾人の検挙者は皆無であった。

「日本の警察は優秀です。当然外務省や航空会社にも言って、入管の情報や搭乗者名簿、座席表などを持っているでしょう。だけど、まだ逮捕されていない、これが現状です」

そう不敵に告げる王氏に、核心を突く質問を行った。

――なるほど、賄賂などを払ってもなお黒字になるということは、かなり儲かっているということでしょうか?

「正直笑いが止まりませんね。特に、昨年(2023年)の春から始めた有名人を使ったトクリュウはすごい反響です」

――えっ、有名人を使ったトクリュウですか? あれを考えたのも台湾マフィアということでしょうか?

「あれは、うちと兄弟分のグループで考えて始めたんです。流行った頃には台湾だけで100グループ以上やっていたと思います。それに台湾以外の海外からやっていたグループを考えると相当数の金額と人員が動いていましたよ」

関連記事:

幻冬舎plus
幻冬舎plus
自分サイズが見つかる進化系ライフマガジン。作家・著名人が執筆するコラム連載、インタビュー、対談を毎日無料公開中! さまざまな生き方、価値観を少しでも多く伝えることで、それぞれの“自分サイズ”を考え、見つける助けになることを目指しています。併設のストアでは幻冬舎の電子書籍がすぐに立ち読み・購入できます。ここでしか買えないサイン本やグッズ、イベントチケットも。
自分サイズが見つかる進化系ライフマガジン。作家・著名人が執筆するコラム連載、インタビュー、対談を毎日無料公開中! さまざまな生き方、価値観を少しでも多く伝えることで、それぞれの“自分サイズ”を考え、見つける助けになることを目指しています。併設のストアでは幻冬舎の電子書籍がすぐに立ち読み・購入できます。ここでしか買えないサイン本やグッズ、イベントチケットも。