久坂部羊『絵馬と脅迫状』/越尾圭『ぼくが生きるということは、きみが死ぬということ』- タイトルの意味がいやに気になる小説2作|アルパカ内田,コグマ部長

久坂部羊『絵馬と脅迫状』/越尾圭『ぼくが生きるということは、きみが死ぬということ』- タイトルの意味がいやに気になる小説2作|アルパカ内田,コグマ部長

一日一冊読んでいるという“本読み”​​​​​​のアルパカ内田さんが、幻冬舎の刊行作品の中から「今売りたい本」を選び、そして“POP職人”としての腕を振るって、手描きPOPも作ります。

そして、アルパカ内田さんへの「オススメ返し」として、幻冬舎営業部の人気者・コグマ部長からも、一冊ご紹介。

*   *   *

元カリスマ書店員でPOP職人のブックジャーナリストが売りたい本

第42回 久坂部羊『絵馬と脅迫状』

学生時代に自殺した親友と瓜二つの男が、新

人医師として自分の勤務する病院で働きだし

た。やがて不可解な事件が院内で続発する。

彼は一体、誰か?(「爪の伸びた遺体」)

信心は皆無、医学のみを信奉する内科医が、

病院そばの神社で同僚外科医が「手術が無事

に終わりますように」と書いた絵馬を誤って割り、

以来、降りかかる悲劇(「絵馬」)─。

全6篇の傑作短編集。


皆さん、こんにちは。脅迫よりも漂泊好きなアルパカ内田です。

ここに収められた6つの物語は、上質なミステリーもあれば、ホラーやサスペンス、ブラックユーモアまである。短くとも奥深い内容とバラエティ豊かなアイディアに言葉を失った。舞台に共通するのは、誰もが生まれてから死ぬまで大きな関わりを持つ「医」の現場であること。現役医師である著者の真骨頂を存分に味わえる贅沢な作品だ。

たとえば冒頭の「爪の伸びた遺体」は、自死した親友の遺体の奇妙な違和感から始まる。10日前に会った時に深く切り揃えられていた爪がなぜ死の直後には伸びていたのか。そして7年後、勤務する病院の研修医として現れたのは、その親友とそっくりな人物だった。タダならぬ導入から畳みかける展開、そして仰天の結末に打ち震えてもらいたい。

血腥い事件、正義を貫けない研究者の葛藤、理不尽な病院の実態。「医」の現場とは、まさに善と悪、光と闇が渦巻く場所でもある。人の命を預かる医者、それを委ねる患者とその家族。知の最高峰ともいうべき「医」の最先端は、神の領域に踏み込んでいる。間近に迫った死と対峙したとき、人は何を信じればいいのであろうか。タイトルに込められた意味もまた刺激的だ。

圧倒的なリアルで暴かれるのは、欲望によって歪んでしまった人間たちの生々しい素顔だ。とりわけ切れ味鋭い文章は、研ぎ澄まされたメスのよう。それぞれのラストに背筋が凍りつく。一度目にしたら脳裏に焼きついて離れない。出合ったことのない恐怖を体感できるトラウマ必至の一冊である。


アルパカ内田さんの手描きPOP。ご自由に使っていただけます。その際、こちらにご連絡いただけると幸いです

 

幻冬舎営業部 コグマ部長からオススメ返し

越尾圭『ぼくが生きるということは、きみが死ぬということ』

「死にたい」航平と「生きたい」美羽。桜の下で

2人は入れ替わってしまう。願いを叶えた2

人だったが、次第に本当の気持ちに気づき、

お互いを思いやっていく。果たして「死ぬ」の

はどちらなのか。ラストにあなたは涙する。


さて、こちらは衝撃的なタイトルが目を引く作品。

3月末のある日、東京・多摩川沿いの満開の桜の下に偶然引き寄せられた2人の男女。社会人4年目の航平は、ブラック企業で心身ともに疲弊、もう生きる意味がないと絶望していた。一方の美羽は28歳の若さで末期がんの宣告を受けた。夫とまだ小さな娘のためにどうしても死ぬわけにはいかない。生と死。命のベクトルが真逆に向いている2人が、満開の桜の下で突然入れ替わってしまった。意識や記憶は自分のままで、外見だけが互いの体に替わったのだ……。

さて、このような「入れ替わりもの」は古今東西にある定番ネタだが、本作の読みどころは、生を願う末期がん患者と死にたいと願う若い男がそれぞれの「体」ですごしていくうちに、互いの人生にも深く関わっていくところにある。

やがて美羽の体は徐々に病魔に侵されていく。その内面は、かつて死にたがっていた航平だ。どちらかが「死ぬ」とき、もう片方はどうなるのか? 無情にも迫るタイムリミット。新たな体を得た2人の錯綜する思い……。

読者は最後の1行まで目が離せない。いやぁ、実に面白い作品が堂々文庫書き下ろしで誕生とは! 活況と聞く春の文庫ラインナップのど真ん中に据えていただきたい傑作だ!

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