監修医師:
長田 和義(医師)
2012年、長崎大学医学部卒業。消化器内科医として、複数の総合病院で胆膵疾患を中心に診療経験を積む。現在は、排泄障害、肛門疾患の診療にも従事。診療科目は消化器内科、肛門科。医学博士、日本内科学会認定内科医、日本消化器病学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医。
食道憩室の概要
「憩室」とは、消化管の壁の一部が外側に袋状に突出する状態を指します。このような憩室が、口から胃まで食べ物が通過する管である食道にできた場合を、食道憩室と呼びます。
食道憩室は消化管憩室の中でも発生頻度が低い疾患であり、人口の約1%に認められる稀な疾患とされています。しかし、高齢者に多く見られ、無症状で経過する場合も多いため、正確な有病率を把握するのは難しいとされています。
食道憩室は発生する部位や原因によって、以下の3つに分類されます。
咽頭食道憩室(Zenker憩室)
咽頭食道憩室は、食道の入口付近(下咽頭と食道の境界部)に発生します。食道憩室全体の約10%程度とされ、稀です。
この部位は解剖学的にKillian三角と呼ばれる筋肉と筋肉の間の隙間があり、この脆弱な部分に内圧(消化管内の圧力)がかかることで、壁が外側へ押し出されて憩室が形成されると考えられています。
嚥下困難(飲み込みにくさ)や逆流が起こりやすく、高齢者に多く発症します。
中部食道憩室
中部食道憩室は、食道の中間部分に発生する憩室で、食道憩室全体の約70~80%を占めています。
原因としては、周囲の炎症や癒着による牽引(引っ張られること)が多いとされています。例えば、食道近くのリンパ節が結核や炎症性疾患で損傷を受け、それによって食道が牽引されて憩室が形成されることがあります。また、食道と胃の境目の筋肉が異常に収縮して通りにくくなっている食道アカラシアという病気など、食道運動障害が関与している場合にも内圧の上昇が憩室形成の誘因となります。
横隔膜上憩室
横隔膜上憩室は、食道の下部、横隔膜付近に発生する憩室で、全体の約10%程度を占めます。
この部位の憩室は、食道内圧の上昇や運動異常が関与していると考えられています。特に食道アカラシアや胃食道逆流症(GERD)の影響を受けて形成されることが知られています。横隔膜付近の解剖学的特徴が関与している可能性も指摘されています。
食道憩室の原因
食道憩室の原因は、大きく分けて以下の2つです。
内圧性憩室
内圧性憩室は、食道内の圧力が高まることで、壁の弱い部分が外側に押し出されて形成されます。この現象は、嚥下時の協調運動障害や食道運動障害(食道アカラシアなど)により引き起こされます。特に高齢者では食道壁の筋肉が脆弱化するため、内圧性憩室が発生しやすいとされています。
牽引性憩室
牽引性憩室は、食道周囲の炎症や癒着、瘢痕(きずあと)が原因となります。例えば、肺門部リンパ節結核などの炎症が食道周囲組織に及び、それにより食道壁が外側へ引っ張られて憩室が形成されることがあります。また、慢性的な炎症や腫瘍などの病変も牽引性憩室の発生要因となります。
配信: Medical DOC