「お酒を飲むとよく眠れる」と感じている人は少なくないと思います。しかし、寝酒には一時的なリラックス効果がある一方で、実は睡眠の質を低下させていることが多いと専門家は言います。そこで今回は、アルコールが睡眠に与える影響や、睡眠の質を保つための上手なお酒との付き合い方について、時間栄養学の専門家である田原先生と市川先生に詳しく解説していただきました。
著者:
田原 優(広島大学大学院 医系科学研究科公衆衛生学 准教授)
早稲田大学にて博士(理学)取得。その後、UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)留学などを経て現職。「食べるタイミング」を考える時間栄養学をメインに、睡眠や運動など日常行動まで取り入れた時間健康科学研究を進めている。著書に「Q&Aですらすらわかる体内時計応用法(杏林書院,編著,2022)」「体を整えるすごい時間割(大和書房,2019)」などがある。
共著者:
市川 知美(広島女学院大学人間生活学部管理栄養学科 教授)
管理栄養士。大学卒業後、病院の管理栄養士として勤務。県立広島女子大学(現・県立広島大学)大学院修士(生活科学)取得。広島女学院大学 専任講師・准教授を経て2020年より現職。広島大学大学院 博士(口腔健康科学)取得。疾病予防の観点から、生活リズムおよび生活習慣、食事摂取に関する研究をおこなっている。
寝酒にメリットはある?
編集部
よく眠るためにお酒を飲む人がいますが、寝酒は入眠に効果的なのでしょうか?
田原先生
アルコールは鎮静作用があるため、飲んだ直後には脳内のガンマアミノ酪酸(GABA)という神経伝達物質の受容体を活性化させ、リラックス効果をもたらし、入眠しやすくなることがあります。しかし、これは短期的(睡眠の前半部分)な効果で、アルコールが体内で代謝され始めると、睡眠の質(睡眠の後半部分)にはマイナスの影響が出ることが多いのです。
編集部
結論、寝酒はしない方がいいのでしょうか?
田原先生
寝酒は避けるようにしましょう。入眠は促進しますが、その後眠りが浅くなり、起床時の休養感は下がります。これは、アルコールがレム睡眠(夢を見る段階の睡眠)を抑制し、深い睡眠を妨げるからです。また、寝酒を習慣にすると、睡眠サイクルが乱れてしまうことにも繋がり、デメリットが多いと言えます。
編集部
寝酒をすると、眠りが浅くなる仕組みについて具体的に教えてください。
田原先生
アルコールは肝臓で分解されアセトアルデヒドになります。血中に流出したアセトアルデヒドは覚醒作用をもたらすため、睡眠中の中途覚醒が増加します。アルコールの代謝には数時間かかり、その間に体温が上昇し、寝汗や心拍数の上昇も伴うこともあります。これらも睡眠の質を低下させる要因となります。
睡眠の質を下げない飲酒の方法とは?
編集部
寝る前の飲酒はいつまでなら、睡眠に影響が少ないのでしょうか?
市川先生
一般的には、就寝の3〜4時間前までに飲酒を終えることが理想とされていますが、実際にはアルコールの影響は飲酒量やアルコール濃度、体重や性別、個人の代謝能力にも左右されます。そのため、一概にいつまでとは言えません。なるべく、就寝前の飲酒を控えること、過度な飲酒を控えることが推奨されます。
編集部
睡眠への影響が少なくなるような飲酒の方法は、どのような工夫が必要ですか?
市川先生
できるだけ飲む量を少なくし、食事と一緒に飲酒することで、アルコールの吸収速度を遅らせることができます。さらに、アルコールを摂取した後に水分をしっかり摂ることも重要です。自分の体質に合った飲酒の量を知り、適度な飲酒の量を見つけることも重要と言えるでしょう。
編集部
お酒を飲んだ後、水を飲むと睡眠への影響は減りますか?
市川先生
アルコールには利尿作用があり、体内の水分を排出しやすくします。これは脱水症状を引き起こし、睡眠の質を低下させることがあります。水を飲むことで、体の水分バランスを保ち、脱水を防ぐことができます。ただし、水分を摂りすぎると夜中にトイレに行く回数が増える可能性もあるため、適量を守ることが大切です。
配信: Medical DOC