米OpenAIの対話型AIサービス「ChatGPT」の画像生成機能をアップデートしたことを受けて、スタジオジブリやドラえもんなどの作風に似たイラスト画像を生成するブームが起きている。
ChatGPTでは、AIとの対話を通じて、さまざまなシーンに活かせそうな文章や画像を生成できる。報道によると、今回のアップデートによって、さらに実用的な画像がつくれるようになったという。
一方、ユーザーたちの間で、自分の撮った写真を元に「スタジオジブリ風にしてください」などと指示して画像を作り、それをSNSにシェアすることが流行している。
OpenAI社CEOのサム・アルトマン氏も、自身のXアカウントのプロフィール画像を「スタジオジブリ風」なものに差し替えた。
また、起業家の前澤友作氏も、「ジブリ風」「ドラえもん風」「北斗の拳風」など、人気アニメに似た画像をChatGPTで描いて、Xに投稿している。
一方で、こうした「◯◯風」の画像について法的な懸念を示す声もある。たとえば読売新聞オンライン(3月27日付)は「著作権侵害につながる恐れもある」と記事で指摘している。
この問題をどう考えればいいのだろうか。著作権にくわしい福井健策弁護士に聞いた。
●「スタイルの模倣」にとどまるならば著作権侵害ではない
――著作権侵害にならないでしょうか?
たとえばスタジオジブリの特定作品の「特定の画像」と似ているわけではなく、色合いやタッチ、モチーフなどについて、人々が「ジブリ作品風だな」と感じる程度である場合、ここでは「スタイル(作風)の模倣」と呼ぶことにします。いわば着想の模倣であり、アイデアの類似ですね。
この場合、人の手によるか、AIによるかを問わず、著作権侵害ではないというのが、現在の世界的な通説です。
なぜならば、人類は作品のスタイルなど、先人の優れたアイデアを真似ることで文化を発展させてきたからです。
一方、「スタイルの模倣」を超えて、特定の画像と構図や色彩、描線などが類似してくると、これはアイデアではなく「表現の類似」となります。人の創作的な表現を無断で模倣すると、原則として著作権侵害となります。
つまり、アイデアは模倣自由であり、それを超えた特徴的表現の模倣は自由ではない、これが現在の世界の著作権の基本ルールです。
ただ、生成AIの登場でこの原則がゆらいでいます。といっても誤解がないように言っておけば、生成された個別の画像については、おそらく世界の多くの国で著作権の基本は変わっていません。つまり、スタイル(作風)の模倣は、著作権侵害ではない。
ただ、そうした生成AIのために、たとえば特定の個人・団体の作品を複製して学習することがどこまで自由かといえば、これは国によって考え方にバラつきがあり、米国などでは現在も裁判が続いています。
なぜなら、個人がコツコツと先人のスタイルを学ぶケースとは異なり、生成AIはほぼ瞬時に他人のスタイルを学び、同じ作風の作品を大量に生み出すことができるからです。
その結果、無断学習されたクリエイターや会社が、同じ作風の作品を市場に大量に投入され、大きなダメージを受ける可能性があります。
●ユーザーが画像生成する際の注意点
――ユーザーはどういうことに気をつければいいですか?
学習をめぐる論争を除けば、ユーザーが画像を生成させる場合の注意点はいくつか考えられます。
まずは問題のある生成AIサービスは、そもそも選ばないことでしょう。
そのAIでは、みなさんが入力した情報を更にAI学習に使うのか、出力された生成物についてAI事業者側に利用権があるか、侵害生成物を防止するためにNGワードなどのフィルタリングの技術を使っているか、端的に侵害について悪い評判がないか。
こうした点をチェックしながら、使おうとしているのが、はたして安心度の高いAIかを、まず検討しましょう。
そのうえで、昨年政府が発表した「AIと著作権に関するチェックリスト&ガイダンス」は参考になります(P19~27など)。 https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/pdf/94097701_01.pdf
とはいえ、少々記載が入り組んでいますので、これを参考に対策例をいくつか挙げれば、
・特に対外的に使う画像の生成のために、他人の著作物を入力しない。まだ著作権の保護が続いている作品名・キャラクター名を入力しない
・出力された生成物が、既存の作品に似ていないかチェックするため、画像検索などを活用する
・意図的な著作権侵害だったと疑われた場合の説明のために、利用したプロンプトや生成途中のキャプチャー画像などを残しておく
などは、考えられるでしょう。
また、著作権とは関係がありませんが、
・個人情報や秘密情報を入力しない
ということも重要ですね。
【取材協力弁護士】
福井 健策(ふくい・けんさく)弁護士
骨董通り法律事務所 代表 弁護士・ニューヨーク州弁護士。日本大学芸術学部・神戸大学大学院・iU ほか 客員教授。専門はエンタテインメント法。内閣府知財本部・文化審議会ほか委員。「18歳の著作権入門」(ちくま新書)、「エンタテインメント法実務」(編著・弘文堂)、「インターネットビジネスの著作権とルール(第2版)」(編著・CRIC)など知的財産権・コンテンツビジネスに関する著書多数。X:@fukuikensaku
事務所名:骨董通り法律事務所
事務所URL:http://www.kottolaw.com
配信: 弁護士ドットコム