認知症は、正常だった記憶力や判断能力が加齢とともに低下し、日常生活に支障が出るまで認知能力が下がる病気です。
将来、3人に1人が発症するといわれており、誰にでも起こりうる身近な病気といえるでしょう。
認知症と思われる症状があらわれた場合、ご本人の治療とともに家族や周りの方の負担が大きくならないようにするのが大切です。
認知症にもさまざまな症状がありますが、今回は認知症の症状の1つである物盗られ妄想についてご紹介します。
原因や対処法も解説するので、気になる方はぜひ参考にしてみてください。
認知症で起こる物盗られ妄想とは?
認知症の種類を教えてください。
認知症には、さまざまな種類の症状があります。日本人に多いといわれているのが、物忘れが主な症状のアルツハイマー型認知症・見えるはずのないものが見える症状が特徴のレビー小体型認知症・問題のある言動・行動の症状が目立つ前頭側頭葉変性症などです。症状の種類は大きく2つにわけられます。物忘れや言葉がうまく出てこないなど認知症の中心となる症状である中核症状と、認知症の進行とともに起こる認知機能障害以外の日常生活に支障をきたす周辺症状です。周辺症状は、すべての認知症患者さんにみられるわけではなく、一人ひとりあらわれる症状が違います。
認知症の中核症状と周辺症状を教えてください。
中核症状とは、主に認知機能が低下して起こる症状です。最近の出来事を忘れ、過去に起きた重要な出来事は覚えている傾向が多いです。進行すると人の名前や顔がわからなくなってくるでしょう。その他、居場所や日付などがわからなくなる見当識障害・物事を段取りよく進めることができない遂行機能障害・買い物のとき、お会計を忘れて店を出てしまったり、交通違反が多くなったりする判断力の低下・失語・失認・失行などが挙げられます。周辺症状とは、認知症に伴う心理症状や行動です。幻覚や幻聴・妄想・徘徊・睡眠障害などのほかにも、周りの人に攻撃的になったり、食後に食事を求めたり、食べ物ではないものをお口に入れる食行動の異常などが挙げられます。
認知症で起こりうる物盗られ妄想とはどのような症状ですか?
物盗られ妄想とは、自分が物をなくしてしまった記憶が抜け落ちてしまい、文字どおりお金や時計など本人にとって大切なものを人に盗られたと妄想してしまう症状です。認知症の初期にみられるケースが多く、「大事なものを盗られた!返して!」とヘルパーさんや周りの人に興奮して訴え、ときには暴力を振るってしまうこともあります。患者さん本人だけでなく周りの人たちにとっても大きな苦痛になり、信頼関係を失いかねません。適切な対処法を知っておく必要があるでしょう。
物盗られ妄想の発症頻度はどのくらいですか?
物盗られ妄想の発症頻度は人によって違いますが、だいたい発症から3年〜4年がピークだといわれています。見えるはずのない同居人が見える・ドラマで見たことを実際にあった出来事のように話すなどの妄想を誤認妄想といいます。この誤認妄想は、認知症の症状が重度になる程発症頻度は高くなる傾向にあるようです。しかし、物盗られ妄想を含む被害妄想は軽度から重度まで変わらない一定頻度で発症しているというデータがあります。
物盗られ妄想の原因や対処法
物盗られ妄想の原因を教えてください。
物盗られ妄想の原因はさまざまですが、物を置いた場所を忘れる、または勘違いをする記憶障害のケースが多いです。過去の置き場所と記憶が混在したり、無意識のうちに存在しない物語を勝手に頭のなかで作りあげて思い込んだり、自分が思う場所になかったら盗まれたと感じてしまいます。その他の原因は次のとおりです。
・怒りや不安などの感情の変化
・環境的変化
・身体の不調
・薬の副作用
・社会的孤立
どの原因も物盗られ妄想の引き金になりうるものです。すべて取り除くのは難しいですが、周りの人たちにできることがあれば協力するようにしましょう。
物を盗ったと疑われた場合の対処法を教えてください。
物を盗んだ犯人扱いされるのは不快に思いがちですが、疑われた場合は否定的な言葉をかけるのではなく、まず落ち着いた態度で話を聞いてあげてください。このときの患者さんは興奮状態の場合が多いので否定的な言葉は逆効果です。患者さんの心に寄り添い「大変だったね」と同情と共感を寄せる言葉をかけ、一緒に探してあげることが重要です。そうすることでこの人は犯人ではないと認識でき、困ったときに助けてくれる人がいると安心感を与えられます。それでもまだ疑われる場合は適切な距離をとり、患者さんの気持ちを落ち着かせるのも有効です。
対処に困った場合に相談できる窓口はありますか?
対処に困ったときに相談できる窓口は以下のとおりです。
・電話相談(公益社団法人 認知症の人と家族の会)
・地域包括支援センター
・認知症疾患医療センター
・かかりつけ医
・医療機関の物忘れ外来
地域包括支援センターはすべての市町村に設置されているので、近くの支援センターの場所を確認しておくとよいでしょう。相談できる場所はたくさんあり、助けてくれる人もたくさんいます。1人で悩まず、困ったら相談するのが大切です。
配信: Medical DOC