すべてを見ていくときりがないが、ここでは妊娠中という「期間限定でしかおつきあいのない臓器」である胎盤に注目。代表的な胎盤トラブルについて、日本産科婦人科学会にも籍を置く、浜松医科大学の金山尚裕医師に教えてもらった。
●子宮口が塞がれる「前置胎盤」
まずは、妊娠初期の段階で診断される「前置胎盤」について。
「胎盤が正常よりも低い部分の子宮の壁に付着し、子宮口を覆ってしまうか、その一部が子宮口にかかってしまうことを『前置胎盤』といいます。子宮が大きくなるにつれて胎盤が子宮口からずれていくこともありますが、少量でも出血がある場合は必ず受診するようにしましょう」(金山医師 以下同)
出血があれば基本的には入院に、また前置胎盤は帝王切開手術となる。また、ほかにも胎盤の働きが低下する「胎盤機能不全」というトラブルもある。
「胎盤の機能が低下して胎児の成長によくない影響を及ぼす状態を『胎盤機能不全』と呼び、妊娠高血圧症候群や胎児発育不全のおもな原因と考えられています。胎児の状態を考慮して、速やかに帝王切開分娩を行うケースもあります」
また、原因は不明だが、分娩前に胎盤が子宮壁からはがれてしまう「常位胎盤早期剥離(じょういたいばんそうきはくり)」という重大なトラブルもある。こちらは母子の生命に関わってくる。
「常位胎盤早期剥離のメカニズムも十分には解明されていませんが、妊娠高血圧症候群が原因である割合が最も高く、転倒、事故などの外力によって起こることもありえます。代表的な症状は急激な下腹痛と出血。その前兆として切迫早産と同じような症状、お腹の張りや茶色のおりものなどの症状が出る場合が多く見られます」
一度はがれてしまった胎盤は、多くの場合は元には戻らないという。お腹のはりやおりものの色に変化があったら、常位胎盤早期剥離の可能性もあるので、ためらわずすぐに受診を。
●胎盤がはがれにくくなるトラブルも
また、胎盤の絨毛(じゅうもう)が子宮筋層内に入り込み、子宮壁に強くくっついてはがれづらくなる「癒着胎盤」というトラブルもある。
「癒着胎盤は胎盤の細胞である絨毛が、子宮の壁に食い込んでいる状態です。過去に帝王切開をしたことのある人は、傷口から入り込みやすいと考えられていますね」
妊娠中は胎盤機能そのものを測定することはないため、トラブルの原因がわからない場合も多い。だが、胎盤の異常に関しては、早期に発見すれば、赤ちゃんが無事に外の世界に出てくるまで問題なく済んでしまうこともある。正しい知識を身につけて、いざというときの判断に迷わないようにしよう。
(取材・文:阿部花恵 編集:ノオト)