あなたは持っていますか?性に関する「自己決定権」

あなたは持っていますか?性に関する「自己決定権」

第2回 夫婦ホンネの保健体育
性に関してあなたは、自分で決めるという意識を持っていますか? 例えば、それは避妊の有無。性交渉を行う際に、男性側がコンドームを持ってくるもの・着けるものだと思い、相手任せにしてしまっていませんか? 自分はあまり乗り気ではないのに、夫から求められ断るとなんとなく可哀想だからセックスしてしまう。そんな経験はありませんか?

思い当たるという人は、ひょっとすると、性の自己決定権が希薄なのかもしれません。

性の自己決定権=セックスに関する選択の自由だけではない

「性の自己決定権とは、性に関して自身の意思をもって行動できる権利のこと。WHOも定めており、健康の定義に照らし合わせて、性別、思想、信条、宗教、年齢、婚姻状態に関わらず、個人やカップルのものだと定義されています。男性にあって女性にないはずはなく、LGBTも同様です」

そう話すのは、産婦人科医で一般社団法人性と健康を考える女性専門家の会・会長の早乙女智子さん。性の自己決定権の中身は性交にかかわることだけではなく、誰を好きになるか(異性、同性など)、どういう自分でいるか(性自認との一致、不一致)、いつどのように子どもを持つかもたないかなど、性差と生き方に関する選択の自由について、改めて広く明文化されています。

日本の女性は性の自己決定権が希薄であり、また、社会全体も軽視しているとも早乙女さん。それは、出産や分娩、避妊にも大きく影響を及ぼしていると指摘します。

「女性の性の自由さという観点でみれば、日本という国はまだ堕胎罪が残っており、母体保護法で免責さえされているものの、扱いとしては女性と堕胎をした医師のみが罰せられ、関わった男性は不問です。中絶方法も制限されており、手動の真空吸引法が認可はされましたが、古いやり方の手術が残っておりリスクがあります。世界では60カ国以上で中絶ピルが使用されており、その使用は年々増加しています」

よりリスクの少ない中絶方法や手術法が世界では行われているにもかかわらず、日本ではこうした方法が容認されないこと。また、導入に関しての議論や行動が遅いこと。もし、女性の性の自己決定感や生き方に対して考え、十分に議論されてきたならば、母胎への健康被害も減らすことができるのです。

「避妊法も、世界ではLARC(long acting reversible contraception:長期間作用型可逆的避妊法)としてIUS(intra uterine systems:子宮内避妊システム)やインプラントが第一選択ですが、日本ではインプラントはなく、第二選択とされる注射法、膣内リング、パッチ法などもなく、第三選択のピルかコンドームが主流となっています。コンドームよりも第一選択、第二選択の避妊法の方が避妊の失敗率は低いのですが、これらについて議論することも、産婦人科内部でさえ少数派。医療界でもマイナーという実状です。世間一般に知られていないのは、女性の性の人権がないことに他なりません」

性の自己決定権が薄い理由は古い価値観に原因も

女性の性の自己決定権の薄さが、社会全体にあり、その影響が命が生まれる産婦人科にも大きく影響を及ぼしていることはよくわかりました。

しかし、どうして女性の性の自己決定権が薄くなってしまったのでしょうか。

「避妊・中絶の領域の観点では、戦後諸外国より早く人工妊娠中絶が合法化されたために、その時代の方法が長く根付いたという点もひとつの要因として挙げられますが、風土もあるのでしょう。日本が先進国だと思っている人もまだ多いようですが、かなりの情報交換が日本語だけで行われており閉鎖的。例えば、ピルの認可は世界で最後の11カ国に残った1999年でしたが、その時でさえ日本の女性団体はピルは要らないと言っていました。今でも総論賛成・各論反対で自分はピルは嫌という医療職、教育関係者もたくさんいます。そういう人は、コンドームでは避妊が不十分であることや、世界はもっと先を行っていること、それは技術だけではなく、概念と共に進んでいることを理解していないと思われます」

前述の避妊法IUSは、コンドームよりも避妊失敗率が低く、女性が使用できる点も見逃せません。女性ができる避妊法の選択肢が増えれば、性の自己決定権の強化につながるはずです。

「生き方という観点では、平成も終わろとしているなか、働かなくても『専業主婦』で優雅に暮らせた“昭和ノスタルジア”な価値観を抱き続けている女性も多いように見えます。これからの時代、男性だって明日どうなるかわからないのです。結婚・出産は、女性のキャリアの終着地ではありません。自分の人生をどうしたいのか。きちんとキャリアを考えること。そうすると、避妊に関しても自分の意見を持てるはずです」

よりよい技術や手法を模索すること。枠にあてはめず、自分の人生と向き合うこと。いずれも共通するのは、古い価値観からの脱却。性の自己決定権を身につけるには、今のままでよいのかと、疑問を抱く姿勢がまず大切なのかもしれません。
(文・団子坂ゆみ/考務店)