Twitterのフォロワー62万人越えの人気料理研究家・リュウジさん。「簡単・うまい・はやい」の三拍子が揃ったキャッチーなレシピを日々Twitter上で発信し、“バズる”こともしばしば。最近では「じゃがりこ」に「さけるチーズ」を加えて作る「じゃがアリゴ」が爆発的ヒットに。テレビを始め各種メディアで取り上げられ、目にした人も多いのではないでしょうか? アリシーでも多くのレシピを紹介しています。
今回はそんなリュウジさんと、レシピサイト「Nadia(ナディア)」を運営する株式会社OCEAN’Sの代表・葛城嘉紀さんとの対談を実現。「Nadia」は、「写真がきれい・つくりやすい・おいしい」をテーマに、600人ほどの「Nadia Artist」と呼ばれるプロの料理研究家による数々のレシピを紹介し、月間850万人のユーザーが訪れています。
料理研究家とレシピサイト運営、かたちは違えど料理をテーマに活動する2人の対談は、どんな化学反応が起きるのでしょうか?
■リュウジさんの「バズレシピ」はこうして生まれる
▲左からリュウジさん、葛城さん。
――今日がお互いに初対面のお二人。まずは葛城さんから、自己紹介をお願いします。普段どんな仕事をしているんですか?
葛城嘉紀さん(以下、葛城):「Nadia」は、一般ユーザーが投稿するレシピサイトとは違い、すべて「Nadia Artist」と呼ばれるプロの料理研究家によるレシピが掲載されていることが大きな特徴です。僕は「Nadia」全体の企画や運営、「Nadia Artist」のマネジメントを行っています。
リュウジさんの活躍はTwitterでいつも拝見しています! 現在の活躍に至るまでにはどのような経緯があったんですか?
リュウジさん(以下、リュウジ):もともと料理が趣味だったので、作った料理のことやレシピについて有名になる以前からTwitterで発信していました。そのうち、Twitterで人気の料理アカウントの人達へリプライを送ってやりとりするうちに、僕自身も料理アカウントとして認知され、だんだん広がっていった。最初にバズったのは、「大根の唐揚げ」のレシピだったかな。フォロワーが1万人になった頃、本を出しませんか、という話がきて今に至ります。現在、著作は5冊で、今年はあと3冊発刊予定です。
葛城:リュウジさんがTwitterで発信するレシピはRTやいいねが1万を超えることもめずらしくないですよね。その秘訣は?
リュウジ:僕、「世界一うまい」とか、「この組み合わせは勝利が約束されている」とか、「悲鳴が出るくらいおいしい」とか……煽る言い方をしちゃうんです(笑)。でも、これは僕の中で本気でそう思っているからこういう言い方をするんです。自信を持ってオススメすることが大切。「そんなに言うならやってやろう」と思われることですね。
■驚きやエンタメ性のあるレシピで、誰かの“料理のきっかけ”になりたい
――リュウジさんにとって、バズることは目的ですか? 手段ですか? 料理を通じて最終的に目指すところは何でしょうか?
リュウジ:僕の最終的な野望は「全人類に自炊させること」。僕の発信がバズることで、今まで料理をしなかった人が「やってみようかな」という気持ちになれば嬉しい。
僕は料理研究家にしてはインスタント食品やお菓子をよく使います。カップラーメンに納豆を入れて「レシピです」と紹介もしますし、最近だと、「じゃがアリゴ」が話題になりました。チーズを加えたマッシュポテトである「アリゴ」というフランスの伝統料理を、「じゃがりこ」と「さけるチーズ」で再現したもの。チーズによってびよーんと伸びる様子が好評をいただきました。
「じゃがアリゴ」については「邪道だ」「お菓子で遊ぶな!」という人もいました。でも、僕は遊んでもいいと思うんです。料理は楽しいし、盛り上がるもの。身近なものを使ってエンターテイメントになったからこそ、「じゃがアリゴ」はバズったんだと思います。今、SNSでは驚きや楽しさが求められている。そういった面から料理を広めていきたいと思います。
葛城:興味持ってもらうこと、大事ですよね! 「Nadia」の調査では、20代後半からユーザーが増える。これはすなわち、子どもが生まれたら料理しているという背景が浮かび上がるんです。一方で、50代にもなると子どもが一人立ちして料理をする必要がなくなるので、ユーザーが減る。つまり、料理とは「誰かのため」にやるものなんだな、としみじみ思います。
「誰かのため」の料理を、義務感で作るのはつまらない。「楽しい」や「驚き」が大切。それこそ、「じゃがアリゴ」みたいな興味を惹かれるところから入っていくのがいいと思います。
実は「Nadia」でも、たまに「簡単すぎてこんなのレシピじゃない」という意見をいただくこともあります。でも、料理とは手間ひまかけたものがすべてではありません。 自分の技術に合った、自分の生活スタイルに合った料理をすることが大切だと思います。まずは初心者の方には料理に興味持ってもらいたいというのが僕の願いです。
リュウジ:僕と同じですね。
葛城:「Nadia」は人にフォーカスしたレシピサイトです。「Nadia Artist」の個性も様々で、超時短レシピが得意な人もいるし、凝ったものや本格的なレシピが得意な人もいる。初心者から上級者まで、ユーザーは自身のステージに合わせてレシピを楽しむことができるようになっています。
あとはカロリー表記を望む声が多いんですけど、それもやらないようにしています。だって、例えばすごくおいしそうなステーキの横にカロリーが書いてあったら一気に食べづらくなるでしょ?(笑) とにかく、料理とは、おいしくて、作った人の想いがあって、そこに人が集まってくるのが大事だと思っています。料理は人と人をつなぐコミュニケーションツール。一緒に食べたら仲良くなれる。会話が広がる。そういうものなんです。
■料理研究家と音楽アーティストの意外な共通点を発見
葛城:ところで、リュウジさんは料理以外に好きなものはありますか?
リュウジ:料理以外だと……音楽が好きですね。
葛城:そうなんですね! 僕、昔レコード会社でアーティストのマネジメントをしていました。実はアーティストにも料理好きが多くて、曲作りと料理、近いものがあるんじゃないかと思うんです。
リュウジ:確かに、似ていると思う! 僕自身、新しいものを創るという点では、料理研究家というよりも、アーティストの側面が近いと思う。だからイラストレーターや漫画家の方と話が合うことが多いんです。
葛城:ミュージシャンは、ギターのリフ(曲中に繰り返し出てくる印象的なフレーズ)ひとつを考えるだけでもすごくこだわる。「このリフを書けばCDが100万枚売れる!」とか、そういうことは考えていなくて、すべて感覚。でも、売れなかったら批判にさらされる。ですので、僕らは彼らが曲作りに専念できるよう環境を整え、パフォーマンスを最大限発揮するためのケアをしていました。
それが今は、アーティストから料理研究家に変わっただけです。料理研究家の方も、大きな仕事をするとき1人ですべてをこなすのは無理。そんな人たちのサポートがしたいと会社を始めました。
■リュウジさんがホテルマン経験で培ったサービス精神
―今後の展望は?
リュウジ:最近は料理以外の仕事も増えてきました。ですが、どんな仕事でも根底には“料理”がある。僕がリュウジというキャラクター性を持って活躍することが、誰かにとって料理をするきっかけになれば嬉しい。
葛城:「職業リュウジ」ですね!
リュウジ:実は僕、ホテルでサービスマンとして4年ほど働いていた時期がありました。そこで気づいたのは、僕の出し方ひとつで料理の感じ方が変わる、ということ。料理をただ提供するのではなく、「どこの肉?」「どんなソース?」ということを口で説明するだけで、お客様から「おいしい」と言われる。何よりやっていて僕も楽しい。人に喜んでもらいたいというサービス気質なんです。だからTwitterでレシピを無償で提供することにも躊躇がないんですよね。
葛城:なるほど。確かに人に食べてもらう上で、どんな素材でどんなふうに調理されたのか、料理が持つ“ストーリー”は、おいしさのエッセンスとして欠かせないですね。ただ食べるよりも、その背景を知ってから食べる方が何倍もおいしい。人は、料理だけでなく、その“ストーリー”までもを食べていると思います。
■料理を楽しむ人とそれを応援する人。料理を通じて二人が目指す姿
―2人にとって料理とは? 一言でお願いします。
リュウジ:「生活」。今、僕はいろんな意味で「料理=生活」になっています。もともとは趣味だったものが、今は仕事として成り立っているし。
僕は「世界一」料理を楽しんでいる自信がある。基本スタンスは、僕も楽しむからあなたも楽しみましょう。Twitterで質問のリプライが来たら、アドバイスをして「頑張って」と付け加えるのではなく、「一緒に楽しみましょうね!」という同じ目線で返事をすることを心掛けています。
葛城:僕は、料理は「人と人をつなぐもの」かな。「Nadia」を通して、リュウジさんのような「世界一」料理を楽しむ人を応援できる人になりたいです。
(まにゃむ+アリシー編集部)