飲む点滴と呼ばれるのは「米麹甘酒」
近年「飲む点滴」として脚光を浴びているのは「米麹」を原料にしている甘酒だが、甘酒は大きく分けて2種類存在していることを知っているだろうか。
種類1:酒粕甘酒
材料は米を発酵させたあとのしぼりかすである酒粕と砂糖。酒粕を加熱して溶かし、砂糖で甘みを加える。アルコールは1%未満に抑えているため、酒税法的に「ソフトドリンク」に分類される。とはいえアルコールは含まれているため、日本酒のような香りが多少する。子供やお酒が弱い方、妊娠中の方、車の運転をする前は注意が必要である。
(参考)酒税法
酒税法ではアルコール1%以上の飲料を「酒類(アルコール飲料)」と定義している。そのため1%以下の酒粕甘酒はソフトドリンクに分類される。酒粕甘酒は「アルコールが含まれるソフトドリンク」となるわけだ。
種類2:米麹甘酒
飲む点滴といわれるのはこの米麹甘酒である。米麹(米を蒸すことで発酵させたもの)を使って、米を(でんぷん)麹で分解して糖化(ブドウ糖化)する。アルコール分は完全に0%。米の形が残っているので、ドロドロでおかゆのような見た目をしている。酒粕甘酒と違ってアルコールを含まないので、子供から高齢者、お酒の耐性を全く持たない方でも飲むことができる。妊娠中の女性も摂取して問題なく、むしろ悪阻による栄養不足を補えるということでおすすめされている。
甘酒の歴史と海外の反応
甘酒は現在世界から注目を浴びている。麹は「RICE KOJI」として海外でも売られており、SNSでは健康に気遣う人が家庭で手作りする様子もUPされている。
甘酒の歴史
甘酒の歴史は古く、ルーツは古墳があった時代にまで遡る。はじめは貴族の飲み物であったが、甘酒は一晩で作ることができるため、当時貴族の間で好まれた「白酒」よりもいつしか主流となった。白酒の熟成には長い期間を要するのだ。江戸時代から甘酒は一般庶民にとってなじみのある飲み物となった。
甘酒と季語
万葉集の第5巻「貧窮問答歌」は、農民の悲哀を記した山上憶良の作品だが、ここに甘酒がと登場する。他の和歌でも「冬の季語」として使われている。神事のときの供物として作られていたが、江戸時代からは庶民にも手軽に飲めるものに。暑くなり、体力を消耗する夏に冷やして飲まれていた。そのためいつしか「甘酒」は夏の季語に変化する。桃の節句には、白酒のかわりに甘酒が飲まれるようになっていった。嘉永6年(1853年、江戸時代後期)の書物「守貞漫稿」には夏に甘酒を売る商人の姿が描かれている。
武士が二日酔い防止のために愛飲
武士が二日酔い防止のために甘酒を愛飲していたという記録も残っている。ビタミンB群がアルコールを分解する肝臓の働きを補助してくれるため、確かに理にかなっているのだ。
現在は行事ごとに出される
甘酒のシーズンといえばひなまつり。厄払いの儀式と女の子の人形遊びが結びついた行事だといわれており、厄祓いの意味で汚れ(けがれ)を洗い流すために白酒を飲んだという説がある。もともと中国に根付いていた儀式で、不老長寿を願って桃香酒という桃の香りのする酒が飲まれていたが、いつしか白酒になり、最終的に甘酒になった。甘酒が採用された理由は子どもも飲むことができるからであろう。
海外の反応
「ジャパニーズヨーグルト」や「アマザケ」で通じるほど、健康食品ブームな海外の人々からも大注目の日本の甘酒。コクがあるがさわやかな甘みは海外の人にも飲みやすく受けがいいようだ。
米麹甘酒はなぜ飲む点滴とよばれるのか
医療で用いられる点滴には「水分・栄養の補給」と「薬剤の投与」の2つの目的があるが、甘酒が飲む点滴と呼ばれるのは、そのうち「栄養補給」の面で点滴に似ているからであろう。もちろん点滴のほうが栄養補給には優れており、完全に代替できるものではないということは明らかである。
含まれる栄養成分
ビタミンB群(B1,B2,B6,葉酸)、オリゴ糖、システイン、アルギニン、グルタミンをはじめ必須アミノ酸、ブドウ糖(甘酒に含まれる糖質のうち約80%)、コウジ酸、フェルラ酸、食物繊維などが豊富。さらに麹菌がアミラーゼ、プロテアーゼ、リパーゼ、ペクチナーゼなど30種類以上の酵素を生成してくれる。これらを1杯で摂取することができる。ただ麹菌には弱点があり、高温に弱く、60℃以上の高熱で死滅(失活)して効果を失ってしまう。市販の甘酒は高熱殺菌をしているものが多いため、米麹甘酒本来の栄養素は含まれていないことが事実だ。
「飲む点滴」米麹甘酒に期待される効果効能
日本が世界に誇る「米」から自然の力で作られる甘酒は、一度にたくさんの栄養を摂ることができる。
消化吸収を助ける
麹菌に含まれる各種の酵素が、栄養分の消化吸収をサポートする。胃腸を動かし、さらに腸内細菌を活発にするので健康な腸内環境を保つ役割を担う。
腸内環境を整える
乳酸菌のえさとなるオリゴ糖。甘酒にはオリゴ糖が豊富に含まれているため、腸内の善玉菌が活発に。腸内環境が整うことで、便通を改善する効果も期待できる。
アンチエイジング
抗酸化作用が期待できるのは甘酒に含まれるコウジ酸とフェルラ酸という成分。麹に多く含まれている成分である。シミの原因となるメラニンの生成を抑える効果も期待できる。フェルラ酸はポリフェノールの一種。抗酸化作用があり、新陳代謝の促進や活性酸素の抑制に役立つ。
血行促進と美肌効果
たっぷりと含まれたビタミンB群のうち、ビタミンB2は皮膚や粘膜の働きを整えてくれる。また、甘酒のビタミンB群の吸収率は90%と非常に良い。ビオチンはコラーゲンやタンパク質を作る栄養素で、きれいな肌を保つのに必須。また前述のとおり腸内環境が整うことで老廃物の排出が促される効果も期待できる。
美髪効果
甘酒は、髪の毛の主成分である「ケラチン」の元となるシステインが豊富に含まれる。毛髪の健康な発育に欠かせない成分であるため、飲み続けることで美髪・育毛効果が期待できる。
ダイエット
甘酒を習慣的に飲むことで、代謝がアップしてダイエット効果が現れやすい体に。脂肪燃焼効果のある酵素を活性化させると考えられている。豊富に含まれているビタミンB群のうち、ビタミンB1は糖の代謝を、ビタミンB2は脂質の代謝を促してくれる。
ただ米麹甘酒のカロリーは高めなので、飲む量はほどほどに。詳しくは後述している。
夏バテ、疲労防止
甘酒は人の脳を動かす原動力となるブドウ糖や、お腹を満足させる食物繊維の宝庫である。疲労回復にきくビタミンB群が豊富で、その効果は江戸時代から飲まれていたという歴史に裏付けられている。これからの季節も元気に過ごすための体づくりにぜひ取り入れたい。
集中力の向上
甘酒に含まれる糖質のうち約80%がブドウ糖なので、脳の働きをアップ。またビタミンB1は糖の代謝を向上させる。角砂糖やブドウ糖タブレットを食べながら受験勉強をすることと同じ感覚で、一緒にたっぷりの栄養も得られるのだからお子さまのおやつにもぜひおすすめしたい。
飲む点滴「米麹甘酒」のおすすめの飲み方
甘酒は栄養豊富で美味しいだけでなく、たくさんの楽しみ方があることも魅力的だ。以下では飲み方をいくつか紹介する。
そのまま(水で割る)
米麹本来の香りが楽しめるスタンダードな飲み方。甘酒は糖が含まれているのでカロリーが高めだが、何も加えずに飲めばカロリーも抑えられる。甘酒1に対して水1.5の割合で薄めると比較的誰でも飲みやすい。
アレンジを加える
甘酒の香りが苦手な場合はアレンジを加える手もある。例えば牛乳や豆乳を甘酒1に対して1の割合で割って飲んだり、ココア、ヨーグルト、生姜を加えてみたりすると味を少し変化が加わる。米の甘みが意外にもいろいろな食品にマッチするので、新しい発見があるかもしれない。白米を玄米に変えた、玄米甘酒も香ばしくまた違った味わいだ。
豆乳で割るメリット
豆乳を加えることでまろやかになり、飲んだ後に満足感も得られやすい。調製豆乳でも十分美味しく、栄養価をさらに上げたいなら、無調整豆乳で割るのがおすすめ。豆乳に含まれる栄養素(植物性タンパク質、大豆イソフラボン、サポニン、レシチンなど)も同時にとれる、スーパー栄養ドリンクが手軽に作れるのだ。
ココアで割るメリット
ココアを加える少しビターな味わいが加わることで飲みやすいスイーツドリンクに。甘酒自体に糖分が多く、カロリーもあるので砂糖不使用のココアに豆乳を少し加えて溶かすのが良いだろう。ココアには冷え性を改善する効果があるので、冬場は温めて飲むことがおすすめだ。
白米を玄米に変えるメリット
玄米甘酒は普通の白い甘酒よりも香ばしいかおりが特徴。玄米は米を精製していない胚芽が付いているので、食物繊維がより豊富に。また胚芽に含まれるビタミンEで抗酸化作用がさらに強化される。
甘酒を使ったアレンジ料理
甘酒を使ったアレンジ料理もたくさん存在する。「甘酒ゼリー」は米麹甘酒に牛乳とゼラチンを加えて、冷蔵庫で固めた一品だ。「フルーツスムージー」にして頂く方法もある。バナナやキウイとの相性が抜群だ。また豆乳をまぜてヘルシーな「甘酒アイス」を作ることもできる。
調味料として使う
甘酒の力は飲み物やデザートだけに留まらない。味噌や醤油と一緒に甘酒や米麹に肉や魚をつけこむことで、酵素の力で肉や魚のうまみを引き出し、さらに加熱してもやわらかくなる。味噌汁に加えれば、優しい甘さがアクセントになる。サラダのドレッシングに入れてコクを出し、和風ドレッシングとしてもよい。使い方は自由自在である。
飲む点滴「米麹甘酒」を飲む量と時間帯
基本的に甘酒はいつのんでもその恩恵を受けられるが、期待する効果によって飲む時間を変えるとより効果的。甘酒を取り入れて手軽に健康な身体を手に入れよう。
飲む量
1回あたりコップ1杯程度が飲む量としては適切だ。米麹で作られている甘酒の糖質は吸収されやすいため、たくさん飲むと摂取過多となってしまう可能性がある。コップ1杯の量が少し多いと感じる方は1杯分を1日2回にわけるなど工夫してみても良い。
飲む時間帯
飲む時間は基本的にいつでもOK。時間別に期待できる効果を紹介する。
朝
短時間でエネルギーを賄えるので、時間がない人におすすめ。甘酒に含まれるブドウ糖で脳を目覚めさせよう。体温も上昇するので、身体も目覚め、代謝が活性化する。朝に高まった代謝は1日中維持されるので、ダイエットにも効果的だ。
昼
昼に飲むと午後の仕事の集中力・活力UPに効果的だ。吸収率のいい甘酒は糖類や疲労回復のビタミンB群を効率よくとることができる。
寝る前
眠る前に飲めば疲労回復に。優しい甘さと香り、身体を温めることで安眠の役割も果たしてくれる。
「飲む点滴」米麹甘酒の作り方
一見難しそうな甘酒だが、意外にも家にあるもので簡単に作ることができる。ただし、気温の変化によって発酵しやすさが変わるので、夏場は発酵時間を短めに。麹菌が活発になる50~60℃を保つのがポイントだが、温度は正確でなくとも甘くはなる。
用意するもの
米麹甘酒を作るときに必要となるのが、「炊飯器or鍋or甘酒メーカー」「ミキサー」「布巾」「米」「米麹」「水(米1合(1カップ)に対して麹150g、水は3カップ)」。
作り方
以下の項目では炊飯器、鍋を使った作り方についてそれぞれ紹介する。
炊飯器での作り方
米を洗って炊飯器にいれ、お水をひたひたになるくらいまで入れる。冷蔵庫に入れ、一晩つける。炊飯器にお米を入れて、おかゆを作る。粗熱を取ってからおかゆをミキサーにいれ、細かく粒が残る程度に混ぜる。炊飯器におかゆをいれ、米麹150gをいれてまぜる。炊飯器の蓋を開けたまま布巾をかぶせて10時間保温する(2~3時間おきにまぜると発酵しやすいのでおすすめ)。
鍋での作り方
米を洗って、水と一緒に鍋に入れる(米1カップに対して水3カップ)。1時間ほど放置して吸水させる。強火にかけて鍋底にくっつかないように混ぜながら加熱する。沸騰したら弱火にして蓋をし、おかゆをたく。炊きあがったおかゆに米麹をいれて混ぜる。タオルや布巾で鍋を包み、60度前後で10時間保温する。
飲む点滴「米麹甘酒」の保存方法
手作りの甘酒は保存料が入っていないので、保存期間は短めだ。ここではおすすめの保存方法を紹介する。
冷蔵保存
一般的な保存法は冷蔵保存だ。粗熱がなくなってからタッパーなど保存容器にいれる。発酵でガスが発生するので、1日1回は蓋を開けてガスを逃がすと良い。保存できる期間は5日〜長くても1週間ほど。
注意点
アルミ製は酵素が分解してしまうので保存容器としてNGだ。冷蔵庫、冷凍庫内に匂いが残りやすいので、タッパーなどしっかり蓋ができるものがおすすめ。水分が多いので漏れにも気をつけたい。
冷凍保存
冷凍して保存する手もある。甘酒を1回に飲む量ずつ分けて保存することや、製氷皿を利用して小さいアイスキューブ状に冷凍することも可能だ。保存袋に入れ、なるべく空気を抜いた真空状態で保管する。賞味期限は2ヶ月ほどなので、作り過ぎてしまった時は「甘酒キューブ」がおすすめ。飲むときは自然解凍か、冷蔵庫でゆっくり解凍させると本来のおいしさをなるべく損なうことなく楽しめる。
注意点
冷蔵庫、冷凍庫内のにおいを吸収しやすいので密閉性の高い保存容器に移そう。保存料も使われていないので、早めに飲みきること。乳酸菌の影響で味に変化が起こりやすい。
甘酒以外の「飲む点滴」を紹介
飲む点滴といえば米麹甘酒が一般的な解釈。だが、甘酒以外にも飲む点滴は存在する。
栄養ドリンク
眠たい時。二日酔いの時。気合いを入れなければならない日。社会と戦う40代の男のアイテム栄養ドリンクも、吸収や即効性が考えられた優れものである。
ポカリスエットなどのスポーツドリンク
人の体液に近い電解質のバランスで、すばやく水分を補給できる。甘く感じる人も多いが、ポカリスエットなどのスポーツドリンクには5.7%程度の糖質が含まれている。これは腸から身体の中へ、すみやかに水分を吸収するのに適した糖質濃度であり「スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック」にも記載されている。ナトリウムなどの電解質、水分、糖分を補給できる。熱中症対策にもおすすめの飲み物だ。
OS-1®(経口補水液)
電解質と糖分の維持・補給に適している点は似ているが、スポーツドリンクに比べ、塩分濃度が高く、糖分濃度を低くして、水分の吸収スピードを高める病者用食品である。医療機関では、脱水症状態に対して点滴で対応することが一般的であったが、OS-1®などの経口補水液が導入されてからは、軽度から中等度くらいの脱水症治療にも使用されている。最近はドラッグストアでも購入することができ、下痢や嘔吐といった、体に負担がかかっている際にも水分や電解質などを補給できる。水分不足でない時に飲むと美味しくないが、具合が悪い時や脱水のときに飲むと美味しく感じる。1日に摂取する目安量があり、大量に飲めば良い訳ではない。持病がある方は、医師や薬剤師に事前に相談することをおすすめする。
プラセンタドリンク
プラセンタとは胎盤のことだ。胎盤は、赤ちゃんができると栄養を母体から送り出すために形成される。プラセンタはそこから抽出された、疲労回復や細胞修復・再生など今注目の成分だ。化粧品や栄養ドリンクには、馬や豚などから抽出されたプラセンタが配合されている。
医薬品
ビタミン剤ともよばれるが、市販の食品やサプリメントに比べて効率よくビタミンを得られるのが特徴的だ。
飲む点滴ならぬ「食べる点滴」も存在する
飲む点滴があれば、食べる点滴もある。ここでは点滴並みの栄養素を含む食べ物を紹介する。
塩キウイ
熱中症対策におすすめされている塩キウイ。キウイには糖分、カリウム、マグネシウム、カルシウムなどの栄養素が豊富に含有されている。塩を一つまみ加えることで、1度にたっぷりのミネラルが取れる「食べる点滴」が完成する。
甘酒を「飲む点滴」と呼ぶのは間違いではないが、点滴の代わりになる訳ではない
甘酒には点滴に近い成分が含まれていると言っても、点滴の成分や栄養補給の項目をすべて満たしてはいない。点滴の代わりに甘酒を飲めば良いという訳ではない。しかし、甘酒は忙しい日常にも取り入れられる、非常に優れた栄養ドリンクといっても過言ではないだろう。私たちだけでなく、世界中の人々に伝える価値のある日本の文化なのである。