子どもの頃は、とにかく明るくて、とても好奇心が強い子でした。いろんなことにギモンを抱いていて、例えば「1+1は直線ばかりで硬いのに、なんで曲線の2とイコールなんですか?」など、先生や両親に質問ばかりしていましたね。それと、一つのことが気になると、それだけに集中してしまうタイプ。先生が話をしていたら、目の形や色ばかり気になって全く話を聞いてなかったり。
人が書く字にも興味があって、いろんな人の字をよく見ていました。授業中、周りからは集中しているように見えたらしいのですが、じつは先生が黒板に書く“しんにょう”が気になって、真似して書いていただけ(笑)。同じ字でも、丸かったり、角ばったり、人によって書き方が違う、字に表れる個性がおもしろかったんです。
《Vol.1武田双雲氏インタビュー》質問ばかりしていた僕を両親はいつも「天才だ!」と褒めてくれました
9,465 View今をときめく「気になるあの人」が、どのような環境で育ち、どのように親が関わったことによってその個性が磨かれたのでしょうか。その"原石の磨き方"を明らかにしていく当インタビュー特集。記念すべき第1回目は、書道家としてご活躍される武田双雲さんにお話しを伺いました。
好奇心が強く、質問ばかりしていた
何をしても「天才!」と褒めてくれた両親
両親も飛び抜けて明るいから、家庭も賑やかで、静かな時間はなかったです。2人は超ラブラブかと思えば、すごい勢いで喧嘩をしていたり、マグマみたいな家(笑)。
僕に対しては、何をしても「天才だ!」と褒めてくれました。普通、質問ばかりすると、変わってる子だと思うだろうけど、僕が質問をする度に両親は「あー天才だわ」って。どんなこともマイナスに捉えずに、すべて“天才”という箱の中に入れてくれたんです。だから、僕は今でも自分のことを天才だと思ってるんです。でもそれは、人より優れているというのではなく、“天から才能をもらった子”だということ。だからこそ自己肯定感がすごく高いし、自分自身のことも大切にできるんです。
嫌なことがあった時に、いつも母が言ってくれた「大丈夫、大丈夫」も、励みになった言葉の一つ。今では僕の口癖にもなっています。
「やりなさい」と言われたことは、一度もない
母が書道家だったこともあり、書道を始めたのは3歳のころ。他にも、水泳、ピアノ、公文などいろいろな習い事をしました。どれも「習う?」と聞かれるので、「うん」と素直に受け入れただけで、両親から「やりなさい」と言われたことは一度もないんです。だから、僕には「ノー」という概念がない。それは、中学生になっても変わらなかったので、反抗期もなかったですね。
他の友達と比較されたこともないので、人と比べて落ち込むこともないし、負けて悔しいとも思わない。もちろん、勝ち誇ることもないですしね。
書道は、究極の暇つぶしゲーム
小学生の頃から書道は好きで、暇さえあれば書いていました。書を書けば、究極のひまつぶしになるので、僕にとっては、クロスワードパズルやゲームと同じようなものだったんです。当時、母の書く「た」という字があまりにも美しくて、じっと眺めていたのを覚えています。今でも、母の書ほど個性のある作品は見たことがないですね。
書道は途切れながらもずっと続けてはいましたが、書道家になるつもりはなく、なんとなく大学に入り、流されるままにIT関連の会社に就職しました。
母の作品に感動したことで書の道へ
転機になったのは、母の作品です。熊本の実家が建て直しをしたので、久々に帰省すると、家のあちこちに母の書が飾ってあって。小さいころから慣れ親しんだ母の字なのに「なんてかっこいい字だ」と、鳥肌が立つほど感動しました。
その頃は、丁度インターネット全盛期。母の美しい字でホームページを作りたい――。そんな思いから、母と僕の字をサイトにアップして、筆文字で名刺を作るサービスを始めました。すると、どんどんハマっていき、会社でも僕の書いた名刺が評判になったりして、結局、3年で会社を退職。この時も母は「やっぱり天才だ!」と褒めてくれました。でも、後から知ったのですが、実は会社を辞めて欲しくはなかったそうです。書道の厳しさを知っている母だからこそ、そうは言っても心配だったんでしょうね。ただ、書に目覚めた僕が、これからの夢をあまりに興奮して語るので、止めることはできなかったみたいです(笑)。
すべては、根っこを作ってくれた両親のおかげ
書道教室を開いたのも母の影響です。母がやっていた教室がとても楽しそうだったから。今の子どもたちに、ほっとできる居場所を作ってあげたいという想いもありました。現在、生徒さんが300人ほどいるのですが、僕は全員の天才性を見つけてます。それは、他でもない、両親がいつも僕のいい所ばかりを見つけてくれたから。僕がこういう人生を選択し、書道家として活躍できているのも、すべて両親が根っこを作ってくれたおかげだと思っています。
楽しい毎日を過ごせば、未来につながる
今、僕自身が親になって思うのは、子育ては、どんな複雑な仕事よりも難しいということ。そんな中で、お母さんたちは、子どもにやらせたいタスクがたくさんあるから、イライラして当然だと思います。でも「勉強しなさい」「歯磨きしなさい」と言う前に、子どもと一緒にくすぐりあったり、ふざけあってほしい。今の僕があるのも、両親が毎日を楽しく過ごしてくれたおかげだし、未来のために今日を犠牲にするのではなく、楽しい日々の連続が未来につながると思うからです。
子育てはらくで楽しいほうがいい。そんなゆるさを持って子どもとの瞬間瞬間を楽しんでほしいと思います。
(武田 双雲 プロフィール)
書道家。1975年、熊本県生まれ。東京理科大学理工学部卒業。3歳より書家である母・武田双葉に師事し、書の道を歩む。大学卒業後、IT関連の民間企業に入社するも、約3年間の勤務を経て書道家として独立。音楽家、彫刻家などさまざまなアーティストとのコラボレーション、斬新な個展など、独自の創作活動で注目を集める。3児の父。
(取材・文:山本初美 / 写真:奈良英雄)
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