“子どものため”と考えすぎない、ツペラツペラ絵本の世界
9,055 View現在絵本作家やアートクリエイターとしてご活躍されているユニットtupera tupera(ツペラ ツペラ)の亀山達矢さんと中川敦子さん。小学校と保育園に通うお子さんを育てる夫婦でもあります。絵本「しろくまのパンツ」「かおノート」等の著作があり、全国でワークショップも開催するなど、今を輝くお二人に、絵本やアートを通した子どもとの関わりについてお聞きしました。
雑貨販売から絵本作家へ。ある父親の感想がきっかけに
絵本作家として活動されているお二人ですが、もともとは絵本ではなく雑貨を作って販売されていたそう。雑貨の延長線上で絵本を作成してみたところ、予想以上に大反響。幅広い世代の方に楽しんでいただける絵本の面白さに気付いたそうです。
中川さん「それまで雑貨を作っていた時の反応は女性の方が多かったんですね。でも、絵本の原画展の際の反応は違いました。おじさんが会社帰りにふらっと寄ってくれるなど、幅広い世代の方が訪れてくれて、それぞれに多様な反応があって。その時から絵本って面白いなと思うようになりました」
中川さんが最も印象に残っているのが、ツペラ ツペラさんの絵本を子どもに読み聞かせているというこちらのお父さんの言葉だそう。
「どうしても絵本というと、わざと子どもらしくアレンジされたものが多いと思っていました。でも、ツペラ ツペラさんの絵本は、子どもも大人も同じ目線で共感し、同じタイミングで笑ったり喜んだりすることができて、それが嬉しかった」
その裏には、「子どものため、と考えすぎるのではなく、大人も一緒に楽しめる絵本をつくりたい」というツペラツペラさんの思いがあります。世の中には子どもの発達や教育に役立つ絵本も多く存在しています。でも、それらを意識して作るのではなくその瞬間を親子で楽しめる絵本があってもよいのでは、とツペラ ツペラさんは問いかけます。
亀山さん「どんな絵本があってもよいと思うんですよね。表現において正解不正解はないですから。いろいろなものがないと面白くないですし。だから読者の方から『ツペラ ツペラさんの絵本ってくだらないですよね』と言われても嬉しいんです(笑)」
「どんな形であってもよい」「いろいろな形があるからこそ面白い」といった自然体の姿勢こそが、ツペラ ツペラさんの本が幅広い方に愛される秘密なのかもしれません。
干渉しすぎに見えても、それはひとつの親子の形
ツペラ ツペラさんは、絵本作成以外にも、定期的にアートワークショップを開催されています。「大人から子どもまでだれでも参加可能」と、年齢制限をしていないのが特徴の一つ。その理由について亀山さんはこう話します。
亀山さん「一緒に行うことで、大人が楽しんでいる姿を子どもに見せることも大切だと思っています。大人もエンターテイナーになる必要があるんです。例えば、寝かしつけのために絵本を読もうと思うと、ついつい面倒くさくなることもありますよね。でも親も『この絵本楽しい!』と思うことができれば、自然と子どもも楽しくなると思うんです」
また、中川さんはワークショップで見かけたこんな親子の姿が印象に残っていると言います。
中川さん「親が子どもに、『ここはこうしなさい!』と、指示している場面を見かけました。それでは子どもが自由にできないのではと、最初は気になったのですが、少し見守ってみることにしたんです。そうして出来上がった作品はとても完成度が高くて。その出来栄えに、指示していた親も子どももそろって満足していたんですね。それはそれでその親子の形なのかなあって」
「『自由にやってみて』と子どもにやらせるのが良いこともあれば、『こうやって塗ってみれば?』と言って、きれいに出来上がって満足感がある方が良いこともあります。親も子もそれぞれが無理をしていなければ、きっとどちらでも良いと思うんです」
「子どもとの関わりはどうしても「正解」を求めてしまうもの。でも、実際は親も子どもも満足できる、それぞれの親子なりの関わりの形があるはず。」
ワークショップには様々なお子さんが参加するため、それぞれの子どもの個性がよく見えて、とても面白いそうです。
中川さん「ぱぱっとはやく大量に作品をつくることを目標にしている子がいたんです。でも、とにかく雑で(笑)初めはどうかなあと思っていたんですが、最終的には、すごいボリュームの作品になって、それはそれで迫力のあるものになりました。それを見て、それがその子の個性なんだと思いました」
ワークショップでは、「上手だね」「発想が面白いね」と褒めることも。単に「上手く」塗れば良いというわけではなく、その子なりに面白かった点を認めてあげることが大切だと言います。
亀山さん「もしかするとその子は大量生産型の仕事とか向いているのかもね(笑)親は、結果ではなくプロセスを見ながら、自分の子と周囲の子が違うことを楽んでみてはどうでしょうか。作っている最中の子どもは本当にいきいきしているんですよ」
こうした子どもの個性を発見できるのは、ワークショップなどの他の子どもと一緒に作業する場所だからこそ。
自分の子どもの行動だけ見ていると偏った見方になってしまいがちですが、こういった場に参加して、いつもとは違った角度からお子さんを見てあげるのも良いかもしれないですね。
無理をすると、親も子もしんどい。
しかし、ツペラ ツペラのお二人も、最初から子どもの個性や周囲との違いを認めてあげられたわけではありませんでした。
中川さん「いざ子どもができてみると、正解はなんだろうと育児本に目を通したり、よい母親になろうと頭がカチカチになったりした時もありました。そんなときに亀山から『深く考えなくていいじゃん』と言われ、『何も分かってない!』と喧嘩になったこともあります (笑)」
そんなとき中川さんが出会ったのが、『育育児典(岩波書店)』。
「育児書なのですが、こうしなさい!という押しつけが全くないんです。」と中川さん。
――例えば、離乳食でも特別なことではなく、ただ食べさせることにすぎない。赤ちゃんは人間の子。人間の食べるものは自然に食べだすから大丈夫。やり方よりも、食べることの楽しさを感じさせてあげるほうがいい…。という具合に。――
中川さん「それを見て、気負ってしまっていた自分に気づき、もう少し気楽に考えてみようと思うようになったんですね。何が正解なのかは今でも分からないですが、自分なりのやり方でいいと思えることで、少しずつ育児を楽しむことができるようになっていきました」
人との付き合いがうまくいけば、どんな仕事でも幸せにやっていける
現在も子育て真っ最中のお二人にが大切にされているのは、「しっかりと挨拶をする、お礼をする」ということ。
これは、ご自身の今があるのは、支えてくれている多くの人の力があると感じているからだそうです。
中川さん「自分たちは色々な方と関わって、きっかけをいただき、今好きな仕事ができています。子どもは何が好きで、何が得意になるかはまだ分からないですが、人との関わりはどんなところでも必要ですし、それがうまくいけばどんな仕事でも幸せにやっていけるかなと」
亀山さん「人と人との関係によって社会ができていると思っています。人との出会いを楽しんで、自分と気の合う、新しい引き出しを開けてくれる人たちと付き合えるのが大切。そのために、人に対する正しい接し方を知っておくことは重要だと思います」
最後に、お二人からのメッセージ。
「あんまり偉そうなことは言えなくて、私たちも普通に日々育児に格闘している親なんです。『はやく食べなさい』『宿題やりなさい』とついつい口うるさくも言ってしまう。雑誌で、いい子育ての仕方を読んでトライしてみて、うまくいかないこともたくさんあります。でもやっぱり、子どもや子育てって本当に日々新鮮で楽しいと感じています」
「今回は、私たちが活動している中で感じていることをお話しましたが、これからも絵本やワークショップなどの活動を通して、みなさんに楽しい時間を届けられたらと思っています」
tupera tupera(亀山達矢・中川敦子)
2002年に活動を開始。絵本、イラスト、工作、ワークショップ、アニメーション、舞台美術、雑貨など様々な分野で活躍。絵本に「かおノート」「やさいさん」「しろくまのパンツ」「パンダ銭湯」など著書多数。NHK Eテレの工作番組「ノージーのひらめき工房」のアートディレクションも担当している。京都造形芸術大学こども芸術学科 客員教授
(取材・文:高寺雄二、長﨑優美、齋藤綾香 / 写真:山口奈緒子)
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