しかしここはチョコレート王国。
夫はその王国の人間である。
チョコレートは薬。
チョコレートは正義。
チョコレートは絶対、なのである。
そのチョコレートを否定するということは彼自身を否定することにもなりうるのだ。
キラキラした目をしながらチョコレートの無罪(?)を訴える彼を見ながら、
それでも幼児にチョコレートをあげるのが嫌な私は
「とにかくアカンねん!」
「歯にもよくないねん!」
「アカンってゆったらアカンねん!」
と訴え返した。
キラキラ目にはキラキラ目である。
努力の甲斐あって、
チョコペーストのサンドウィッチは
ハムやチーズのサンドウィッチに変更になった。
あとは私が気をつけていれば問題無し!
なぁに、チョコを禁止にするのは幼児期だけ!
もっと大きくなったら、チョコレート王国の王国たるゆえんのチョコレートを食べるがよ〜〜〜い〜〜〜!!
ヒャーハハハハハハ!などと高笑いをあげていた。
そうは問屋が、ベルギーがおろさなかった。
もうこれは国家による陰謀である。
チョコレート王国がチョコレートを食べさせない母親にこれでもかと仕掛けてくる大いなるワナである!
ベルギーのチョコレートはベルギーではとても安く売っている。
カフェでコーヒーを頼んだら、小さな板チョコがついてくる国である。
イベントは必ずチョコレートがからんで来る国である。
クリスマスにはサンタの形をしたチョコレート、バレンタインはいわずもがな、
イースターでは卵の形をしたチョコレートがこれでもかと店に並ぶようになる国である。
罠は「こちら側」だと思っていた学校(幼稚園)に仕掛けられていた。
学校ではイースターで行われた「エッグハント」という文字どおり隠された卵を探し出すゲームで、
学校の庭や教室のそこかしこに卵が隠されていたが、
そのイベントではチョコレートの卵が使われていた。
キラキラした目でチョコレートの卵を探す子どもたち…。
探した卵を同じキラキラした目で親に見せる子どもたち…。
その流れで「せっかく探した卵、食べてもいい?」と聞かれたら?
匂いから卵がチョコレートでないことは否定しようもない。
「くっ、これがチョコレート王国の実力か…っ」
私はなすすべもなく膝から崩れ落ちた。