法的にはバツイチシングルマザー。しかし、同じく子連れの同性パートナーと出会い、現在LGBTのステップファミリー(※1)として生活をしている、小野春さん。
LGBT家族(※2)のためのコミュニティ「にじいろかぞく」の代表も務めています。
春さんの言葉でいうと、LGBTとは「多数派ではない性のありようを生きる人たち」のこと。
そして、そんなLGBTの人たちのなかには、「親」として生きている人たちもいます。
LGBTの人たちが子どもを育てるって、どういうことなんだろう。どうやって家族になっていったんだろう。
なかなか直接聞く機会のない話題ですが、春さんに話を伺っていると、多様な「家族のカタチ」が浮かんできました。
これは、どこか遠くにいる特別な家族の話ではなく、あなたのすぐそばにいるかもしれない家族の話。
※1「ステップファミリー」とは:子どものいる人の離婚や再婚などにより生じる、血縁関係のない親子関係や兄弟・姉妹関係のこと
※2「LGBT家族」とは:この文中では、子どもを養育するLGBTのファミリーを指しています
「好きだから、家族になった」ママがふたりの“LGBT家族”ができるまで [前編]
26,949 View籍をいれたら、家族になるのか。子どもができたら、家族になるのか。「家族になる」ってどういうことだろう。
元々、“普通の家族”の“普通のママ”だった
―― 春さん、日が落ちる前にちょっと撮影してもいいですか?
あっ、カメラマンがいる。そんなちゃんと撮るとは思わなくて、すごい適当な格好しちゃってた。すぐ着替えますね!
―― この階段の踊り場のところで撮りましょうか。
はあ、ドキドキする。こんなモデルさんみたいに撮ってもらうの初めて(笑)。
―― 撮影おつかれさまでした。写真楽しみにしていてくださいね。それでは、改めてよろしくお願いします。
こちらこそよろしくお願いします。
―― まずは、春さんご家族が今のカタチになるまでのことを伺えますか。
今は、法的には結婚していませんが、実は私、これが2回目の「結婚生活」なんです。
最初の結婚は男性としていました。息子を2人産んで、本当にいわゆる“普通”の家族のなかで、ママをしていたんです。
でも、母親はこうじゃなきゃいけない、家族ってこうあるべきだみたいなイメージに縛られていって、夫婦関係が破綻して。離婚することになりました。
―― 2人のお子さんを持つ、シングルマザーになったんですね。
そうです。そうしたら、ひとりで子ども2人育てるのって思ったよりも大変で。もしかしたら、わたしが生活を回すのがあまりにも下手過ぎたのかもしれないけど、すごい悲惨な状況になってしまって(笑)。
そんな私たちをほっとけずに手伝ってくれたのが、元々友人だった今のパートナーだったんです。
普通ってなんだろう
―― ご友人だった今のパートナーを、恋愛対象として意識するようになったんですか。
そうですね。でもわたし、同性を好きになったのも付き合ったのも今のパートナーが初めてだったので、「え、なに、自分キモイ」って、最初は自分の感情を受け入れることにすごく抵抗があったし、戸惑いました。
当時(13年前)は、LGBTという言葉もまだなかったので、自分自身の気持ちをどう説明すればいいのか分からない状況だったんだと思います。
でも、LGBTの人っていうのは全人口の6~8%程度の割合でいるんだとか、特に珍しいことでもないということがだんだんわかってきて、少しずつ「こんな世界もあるんだ」みたいに思えるようになってきました。
そのなかで、わたしたち以外のLGBT家族にもたくさん会って。
性のありかたや、パートナーシップのカタチもそうなんですけど、家族のカタチも、「こんなカタチもあるの!思いつかなかった」って、自分が今まで持っていた“普通の家族”っていう概念みたいなものを、次々にひっくり返されていきました。
本当に、想像以上に色んな家族がいるんですよ。
―― 具体的に、LGBT家族には、どんなカタチがあるんでしょうか。
んー、ひと言では説明できないかもなぁ。
もちろん類型みたいなのもあるんですけど、私も新しいLGBT家族に会うたびに「おお、こんなタイプもあったのか」と気づかされるくらいで。どこまで、どんな家族がいるのかって正直わからないんです。
―― 春さんご家族の場合は?
私たちの場合は、ふたりとも最初は男性パートナーと結婚して、子どもを産みました。その結婚がうまくいかなくて離婚して、その後に今のパートナーと出会って付き合うようになった感じですね。
家族構成としては、私と私の2人の息子と、パートナーとその娘1人の5人家族。
タイプでいうと、「バイセクシャル同士のステップファミリー家族」っていうことになります。自分がバイセクシャルだと自覚したのは、パートナーを好きになってからですけど(笑)。
他にも、人工授精で子どもを妊娠中のレズビアンカップルもいれば、ママがふたりの家族でも、片方がレズビアン、もう片方はトランスジェンダーのMTF(身体的には男性だが、性自認が女性)というパターンもあります。
パパふたりの家族だっているし、一見普通のシングルファザーに見えるけど、ゲイのシングルってこともある。
本当、「普通って何だろう、そんなものないんじゃないか」って、LGBT家族の多様なカタチに出会うたびに感じます。
―― LGBTに限らず、シングルマザーや養子を迎える家族などは、まだまだ“普通ではない家族”と見られがちかもしれないですよね。
たしかに、家族のカタチって、多様性っていう考えかたと結びつきにくいかもしれない。
正直、子どもが学校に通うなかで、家族は、「お父さん、お母さん、子ども」というカタチしかない、みたいな気持ちにさせられることって結構あります。
実際にそれに当てはまる、いわゆる“普通の家族”と思われているカタチは、全世帯の3割に満たないのに。
結婚って、家族って、習わない
―― 全世帯数の3割にしか満たないカタチが「普通」として捉えられてしまうのはなぜなんですかね。
私も離婚するまで、家族になるとか、結婚するということが何なのか、ちゃんと考えたことがなかったんです。
なんでかなって思ったら、「家族」って学校で習わないんですよ。
―― 確かに、家族って習ったことないですね。
でしょう!だから、なんとなく結婚する年がきたら結婚するし、結婚したら当然子どももつくるんだって、疑うこともなくあたり前のように思ってたんですよね。
でも、前の家族がうまくいかなくなって初めて、家族ってそんなに簡単なものじゃないって身をもって感じたし、今、色んなLGBT家族に出会っていくなかで、あたり前だと思っていた家族のカタチだけが家族のカタチじゃないって、今までの考えかたって不自然だったかもって気づいたんです。
好きだから、家族になる
―― いわゆる普通の男女カップルの場合って、入籍したら「結婚」したってなるし、子どもが生まれたら「家族」になったと感じる方が多いのかなと思うんです。ある意味ひとつひとつステップが分かりやすくてはっきりしています。
でもLGBT家族の場合は、日本では同性パートナーと籍をいれることは残念ながらまだできないなかで、どうやって「自分たちは家族になった」と感じるのでしょうか。
LGBTカップルの場合は、法的には結婚することはできないし、社会や周りの人から「そろそろ結婚したら?」「子どももつくるんでしょ」みたいな圧力とか後押しみたいなものってないんです。
でもだからこそ、同棲するのか、結婚式をするのか、周りへのカミングアウトはどうするのかっていうことをひとつひとつ、お互いに話し合って選択していかないと、家族になれないんですよね。
つまり、そこに「好きだから家族になろう、一緒にいよう」っていう強い意志と明確な選択がないと、家族っていうカタチにならないわけです。
それは子どもを迎えるっていう時もそうなんですけど、この前、レズビアンカップルの友人が、全力で「子どもを迎える」っていうことを考えていたんですよ。
LGBTの家庭で子どもを育てるっていうと、「子どもがかわいそう」っていう意見もよく聞くんですけど、彼女たちを見ていると、すごく本質的に子どもを迎えるということに向き合っているし、その子どもは幸せになるんじゃないかと思いました。
―― 春さんの場合、両方の家族のカタチを経験されているじゃないですか。ふたつのカタチを経験してみてどう感じていますか。
ある意味、今のほうが自然かもしれない。
法的に家族になることを保障されていないから、まあ、いろいろ大変なこともありますが、でもだからこそ、大切にしたいことを、大切にしやすいってことはあると思います。
自分たちで決めたというか、「これが自然だから、好きだから一緒に暮らしているんです」とか、そういうのがすごくシンプルで分かりやすいです。
小野春:
東京在住。法的にはバツイチのシングルマザーながら、同じく子連れの同性パートナーと出会い、現在LGBTのステップファミリーとして生活中。
同じく、子どもを養育するLGBTカップルのためのコミュニティ「にじいろかぞく」の代表を務める。
(取材・編集:三輪ひかり / 文:廣畑七絵 / 写真:三浦咲恵)
後編はこちらからお読みいただけます。
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