── 今日はよろしくお願いします。研究室にお邪魔しました。
狭いところですみませんね。そこのソファーにどうぞ。
── ありがとうございます。大豆生田先生は、NHKの『すくすく子育て』や講演会などでは何度もお話を伺っているのですが、今日は直接お会いできるということで、楽しみにしてきました。
恐縮です。
── それではさっそくですが、まずは先生ご自身の子育ての経験談から伺っていこうと思います。
子育てに自信があった僕は、妻の一言で目がさめた
343,085 View元幼稚園教諭で、三人の子どもの父親でもある玉川大学大学教授の大豆生田啓友先生。
NHK教育テレビ『すくすく子育て』では、ママやパパへの温かいアドバイスが印象的な先生ですが、まだお子さんが幼かった頃には、「こんなはずじゃなかった」と落ち込むような経験をした時期もあったそうです。
いまの親世代に伝えたいこと。前編と後編に分けて、お届けします。
自分はイクメンだと思っていた
── 大豆生田先生は幼稚園教諭のご経験もありますが、実際に父親になってから、「子育て」に対するイメージの変化みたいなものはあったのでしょうか。
ありましたね。僕は大学院まで行って幼児教育のことを専門的に勉強して、その後幼稚園の現場の担任もしていましたから、どう考えたって「自分は誰よりも子育てができる」と思っていたんですよ。
<プロフィール>
大豆生田 啓友(おおまめうだ ひろとも)
1965年生まれ。
玉川大学大学院教育学研究科教授。
専門は乳幼児教育学、保育学、子育て支援。
著書に『子育てを元気にすることば』(エイデル研究所)、『マメ先生が伝える 幸せ子育てのコツ』(赤ちゃんとママ社)など多数。
NHK「すくすく子育て」に専門家として出演し、あたたかくも親にとって気づきのあるコメントが人気。2男1女の父。
── 自信があったのですね。
そうです。幼稚園で働いていた頃は、保護者に対して「お母さん、もっとこうやればいい」「お母さん次第で、子どもはいくらでも良く育ちます」なんて言ってましたから。
結婚して子どもが生まれてからも、しばらくは「僕はイクメンのはしりだ」ぐらいに思っていました。
ところがある日、妻から「あなた、言ってることとやってることが違うんじゃない?」と言われたんです。
「子育ては、ほとんどやっていないようなものよ」って。
── それはインパクトがありますね…。そこから考え方が変化していって…?
そうですね。うちは三人子どもがいるんですけど、この言葉を言われたのは二人目が生まれたあとです。
自分としては一人目の時から「他のパパたちと比べたらよく遊んでるじゃないか」と思ってましたから、言われた時は、まだ完全に腑に落ちてはいなかったんですけどね。でも、僕にとってはとにかく、衝撃的な出来事ではありました。
妻が「やってない」と思っていたということは、その段階ではまだ何かが噛み合ってなかったんでしょうね。
── うーん。
だから、歩み寄る意味でもいろいろ宣言したんです。「これからゴミ捨ては自分がしますよ」とか。まあ、逆に考えればゴミ捨てもしてなかったのかっていうレベルなんですけど(笑)。
── (笑)
赤ちゃんを怒鳴りつけた自分に、驚いた。
僕が忘れられないエピソードに、夜泣きの話があります。
当時妻にした宣言の一つに「夜中、赤ちゃんが泣いたら、できる範囲で僕が見ましょう」というのもありました。
── 着実に、変化しようとされていたんですね。
まあ、言うのは簡単。
二人目の子が1時間に1回泣く赤ちゃんだったんです。1時間に1回泣かれたら、本当にもうつらい。心も体も死にかけるというか。
それで妻に「二番目の子、大変だね」って言ったら、「長男も同じだったよ」って(笑)。
── アイタタタタ。
で、ここからの話が本当に忘れられないんですけど。
当時、僕は3年遅れの原稿を抱えていて、日中の仕事が終わった後、夜中に原稿を書くのが日課になっていました。
当然、そんなこととは関係なく赤ちゃんは泣くわけです。
妻は疲れ果てて寝ちゃってます。でも僕、宣言しちゃいましたからね。やるしかない。
赤ちゃんを片手で抱っこしながら原稿を打ち続けるわけですよ。
おかげで片手で打つのは速くなりましたけど(笑)、打っている間も赤ちゃんはのけぞるようにして泣くんですよね。
── はい。
そのときに僕、赤ちゃんに何て思ったかというと、「なんでこいつは俺の仕事の邪魔をするのか?」って、真面目に思ったんです。
もう冷静じゃないんですよね、すでにその状況が。
しかもその後は、これは自分でもビックリしたのですが。赤ちゃんに大きな声で「うるさい!」って怒鳴ったんですよね。
── ああ……。
でもね、それでも気持ちがおさまらなかった。最終的に僕は、子どもを床にドンっと叩きつけたいような衝動に駆られたんです。
そこは理性が働いて、妻のところに駆け寄ったことで事なきを得たんですけど。
「僕は誰よりも子ども側に立つ人で、僕は誰よりも育児を上手にできる」と思っていた自分自身が、もうボロボロでしたね。
── 先生にも、そんなことがあったんですね。
あの頃はずっと、頭にモヤモヤがかかっていた
夜泣きだけじゃなくて、この二人目の子は、その後も本当におもしろいくらい僕を困らせてくれる子でした。
たとえば、お風呂に入りたがらない時期が1歳後半から2歳後半ぐらいにあったんです。
でも、これでも僕は「子どもの心に寄り添う保育」を唱えてる人間ですから、一応頑張るんですよ。
── 例えばどんな風に?
僕がまずパンツ一丁になって、「パンツマン」に変身します。二人目の子どももパンツマンに変身します。その状態で、心を通わせながらどんどんお風呂場に誘導するわけですよね。
ところが、いざ「お風呂に入る」っていうところまでくると、彼は冷静に「お風呂はヤダよ」と言うんです。
── あと一歩のところで、ふりだしに戻るわけですね(笑)。
次の一手を失った私は、彼を無理矢理脱がせますよね。
そんな日が続いたある日、いつもどおり脱がそうとした瞬間に、彼が「誰か助けてー!」って大声をあげたんです。
たしかあれは、夕方から夜の間だったと思います。今度は近所の目が気になりました。
僕自身、なんかあの時期って頭にずっとモヤモヤがかかってる感じでした。子どもと二人で、駅にぼんやり立っていた記憶もありますし。
── モヤモヤですか。
「なんだかよくわからない。けど、なんかうまくいかない感じがする」。つまり、「こんなはずじゃなかった」の連続だったと思います。
僕は保育のプロで、幼稚園の担任をしていたときを振り返っても、子どものことに関しては「まあまあだったかな、頑張ったかな」と思っています。
ところが当時、保護者に対しては、「お母さん次第」「お母さん次第」「お母さん次第」って言ってきたんです。
しかも、お父さんとは言わずに、なんでも「お母さん」って、言ってたんですよね。
だから僕自身が夜泣きやお風呂のことを、ちゃんと経験したことは大きかった。
── やってみて、分かったことなんですね。
いろんなところでママ向けの講演に回っていると、孤独な育児に苦しんでいる方はやっぱり多い。「子育ては母親の責任で、私の問題ですから」って、何人もの方がおっしゃっていました。
それを聞いて「誰だ!母親を一人孤独にしているのは」と思ったのだけど、その犯人は、僕を含めた「僕たち」なんじゃないかと考えるようになりました。
かつての自分が、妻にそうしてきたように。
── 無意識に、追い込んでしまっているかもしれない。
僕の中では「こんなはずじゃなかった」と思ったと同時に、「子育ては誰がやっても素人」だと、つくづく思ったんです。
── なるほどなあ。
幼稚園や保育園の先生たちは保育のプロです。でも、子育てにその専門性が通用するとは限らない。むしろ、通用しないことのほうが多い。
そのことに気づけたことが、僕の中で、一つの大きな転換点になったかなと思っています。
《後編はこちら》
(取材・編集:コノビー編集部 渡辺龍彦 / ライティング協力:たかなしまき / 写真:中野亜沙美)
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