── 大豆生田先生は著書の中で、ご自身の経験からも「正しい子育てよりも、自分らしい子育てをすることが大切」だと書かれていました。
はい。
正しさというのは、本来、親と赤ちゃんとの関係の中で“つくられていくもの”だと思うんです。
それなのに、何かその外側の、どこかに正しさがあるようにみんな思ってしまっている。
例えば、番組や育児雑誌で「褒めることが大事」と言えば、みんなそれが正しいんだと思って、褒めて褒めて褒めて褒めるんです。一辺倒になってしまう。
『すくすく子育て』のコメントで、僕が伝えたいこと
138,365 View「子育ては、誰がやっても素人だと気づいた」。前回のインタビューでそう話してくださった、『すくすく子育て』コメンテーターの大豆生田先生。今回は、他人が決めた正しさにふりまわされないで、自分らしく子育てをしていくためのヒントを伺います。
「正しさ」よりも大切なこと
── わかる気がします。
だから、頑張りすぎないためにも大切なのは、「正しい子育て」より「私らしい子育て」をすることだと思っているんです。
「あなたのやり方から子育てを始めてみませんか?」という提案ですね。
── 本当にその通りだと思う反面、そうと分かっていてもどこかに「正しさ」を求めてしまうのが親の常ではないかとも思うんです。そことどう向き合うかを、もう一歩踏み込んでお聞きしたいです。
「できていないこと」と「すでにできていること」
「正しさ」から距離を置くには、まず、「今すでにできていること」に目を向けることが大切だと思います。
── すでにできていること、ですか。
僕は、NHK教育テレビ『すくすく子育て』に出演する時、なるべく実際の映像を見ながらコメントさせてもらうようにしています。
そのきっかけとなったのは、妻とのこんなやりとりからでした。
あるママが、子どもにごはんをあげる映像をふたりで観ていた時のことです。
そのママは「子どもがちゃんとごはんを食べてくれない」という悩みを持っていました。
ところが僕にはそれよりも、子どもにご飯を無理やり食べさせているように見えたことが気になったんですね。
「ああ、最後のここ。このあげ方だと子どもは荒れちゃうよね」って。
── お母さんのやり方に、改善の余地があると思ったのですね。
そうです。でも、それに対して妻は「あなたには何も見えていないのね」って言ったんです。
── 見えてない。
「このママはちゃんとごはんを作ってあげてるじゃない。それを子どもに食べてもらえない、このママの気持ちは?このママが子どものためにどんなに丁寧に工夫して、料理をしているか、想像できる?」って。
──(なんとなく座り直す)
この経験は、僕にとって衝撃的でした。
このことがあってから、「親がどういう思いでこの子と今関わっているのか。そして、それが子どもにどんな良い影響を与えているのか」。
そこをちゃんと意識して、コメントをするようになりました。
「親としてどうあるべき」ではなくて、「あなたがやっていること自体に、こんなにたくさん意味がありますよ」と。
──減点方式じゃなくて。
そうです。足りなくない。すでにやっている。
自分らしさが、その人のポジティブな面を引き出す
『すくすく子育て』では、出演してくれるたいていのママとパパが、その後、「ホッとしました」と言って帰っていきます。
そして番組では、目の前のママとパパだけじゃなくて、画面を通して、「全国の親に伝わればいいな」という思いで言葉を発信しています。
「一生懸命やろう」と子育てをしている多くの親たちは、もうすでにかなり良い関わりをしているということを伝えたい。
「正しさはあなたたちの外にあるのではなくて、あなたが子どものために頑張ろうとしているその中にある」ということを、すごく大事にしたいと思っています。
── すごい。
そうすると一方で、「そんなに認めてばかりいたら、その親が反省しなくなる」とか言う人がいるんだけど、いやいや、それは違う。
「わたしはわたしでいいんだ」と思えるときに、人はその人の一番良いところが出てくると思うんです。
一番、ポジティブな自分が出てくる。
──「本来したかった関わりかた」ができるようになる?
そうです。いつも何か正しいものが自分たちの外にあるという意識で、その正しさと照らし合わせながら子育てをしてると、どこかで「自分ってダメなんじゃないか」って思ってしまう。
全然ダメじゃないんです。
「あなたは結構、頑張ってるよ」と言いたい。
僕はそのことを妻から学びましたね。「足りないことを言うのは、素人でも言えます」って言われましたから。
── すごく刺さるなあ。
でしょう。あ、ちなみにもう少し優しい言い方でしたからね。
怖い妻だと思われちゃうとちょっとアレなんで(笑)。
── ここ、ちゃんとカットせず入れときます(笑)。
でも、その時のやりとりが、僕の最大の糧になっているのは事実です。
ダメなところを言うのは本当に簡単ですから。
繰り返しになりますが、みんな何か足りないって思っているでしょうけれど、親がそうやって毎日一生懸命頑張ろうとしていることの中に、実は良さがいっぱい隠れている。
その前提に立って、自分や家族のことを見つめ直してみると、また違って見えてくるものがあるんじゃないかと思うんです。
<おわり>
<プロフィール>
大豆生田 啓友(おおまめうだ ひろとも)
1965年生まれ。
玉川大学大学院教育学研究科教授。
専門は乳幼児教育学、保育学、子育て支援。
著書に『子育てを元気にすることば』(エイデル研究所)、『マメ先生が伝える 幸せ子育てのコツ』(赤ちゃんとママ社)など多数。
NHK「すくすく子育て」に専門家として出演し、あたたかくも親にとって気づきのあるコメントが人気。2男1女の父。
(取材・編集:コノビー編集部 渡辺龍彦 / ライティング協力:たかなしまき / 写真:中野亜沙美)
《前編のインタビューはこちら》
《大豆生田先生の書籍はこちら》
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