――そう。俺たち一家はキリが退院してから家探しを本格化させていた。
でも理想と現実が違い過ぎて、もはや自分たちがどんな家を買うべきなのか完全に見失ってもいた。
小さな敷地にぎゅうぎゅうに戸建てが5つ建てられた建売を見に行った時は、ベランダからベランダへ、窓から窓へ飛び移れる距離に驚愕した。
奏太 「パパ~! このおうち、階段があるよ~! ぼく、階段のおうちがいい~!」
満 「…そっか~。パパも戸建てはいいと思うんだけど…これはなぁ」
キリも俺も田舎育ちだから、戸建てを買うイコール庭付きという気持ちがあったけど、庭どころか駐車スペースもぎりぎりビルトインで1台停められるという感じ。
これならマンションの方がいいのでは? と思っても、これまた新築は高い。
いっそ古い物件を買ってリノベするか! とキリが言い出し、中古マンションを内見してみたけどやはりしっくりこなかった。
結局また到底買えそうにない新築の戸建てまで見に行くことになった。
大切な休日の数時間を使って…という俺の疑問は置き去りで。
あぁ、もう家なんて見に行きたくない。今住んでいる家で休みの日はゴロゴロしていたい。
本音がポロポロ出そうになるほど、ほとほと疲れた時、ある戸建てに出会った。キリ曰く、運命らしい。
それは屋上庭園のある家だった。
キリコ 「ここ何気にいいかも。屋上に出れば空が見えるし…。私がしっかり働けば買えなくはないよね?」
満 「うーん…4500万だよ? 厳しいんじゃない?」
奏太 「このおうちは買えるの? 高くないの?」
キリコ 「高いけど、頑張れば買えるかも?」
奏太 「やったー! じゃあ買っちゃお」
満 「そんな簡単に買えないの…。ちょっと落ち着いて計算してみたりしようよ。色々見過ぎて感覚がおかしくなってるよ、キリ」
奏太 「なんで? ママー、パパが買えないって言ってるよ 」
キリコ 「今日は買わないけど、いつかね」
奏太 「やーだ! 今日かうの!」
キリは俺の話が聞こえてないのか、目をキラキラさせて空を見ている。
公開 2018年02月09日
こんなに涙が出るほど笑ったの、いつぶりだろう。 / 第2話 side満(2ページ目)
60,012 View12月のある土曜日。満の両親がラーメン店『おぼろさん』を引退する日、満・キリコそして息子の奏太は新幹線に乗り、満の実家のある岐阜へ来ていた。実家でお昼ごはんを食べながら、満は兄ツヨシから「地元に家を買え」と熱く語られる。
そして夜、満は地元の友人である江原とタカヒロの3人で飲みに出かける。
※ この記事は2024年09月02日に再公開された記事です。
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連載「家族の選択」
#2
さいとう美如
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