優柔不断な俺は、いつも社長に振り回される。 / 第4話 side満のタイトル画像
公開 2018年02月16日  

優柔不断な俺は、いつも社長に振り回される。 / 第4話 side満(2ページ目)

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家族で岐阜の実家へ帰省した夜、満は地元の友人たちと飲みに行き、久しぶりに酔っ払ってバッティングセンターに行く。ストレスが飛んでいくほとはしゃぎながらも、自分たちが年をとったことを感じる。
週明けの月曜日、岐阜での楽しかった夜を思い出しならがら満が会社に向かうと…。





――「飯行きましょ」。昼時、ケンゾーにそう声を掛けられ、俺とケンゾーは近くの中華料理店に向かった。



ぐつぐつと土鍋の中で踊る豆腐をレンゲで救い、口に運ぶ。

熱い! というか辛い! さすが四川麻婆豆腐。


俺がハフハフと口を動かしている横で、ケンゾーが大きなため息を吐く。今日、何度目?



ケンゾー「お直しとかやってる場合なんですかね」

   「うーん。まぁ、アシスタントの育成に力を入れるための、お金集めみたいだから、一概にダメとは言えないかもね」

ケンゾー「そうですけど…。急すぎませんか? いや、一方的というか。もう決定事項みたいなもんだったじゃないですか?」


うん、それ俺も思ってた。


   「そうだねー。社長はやると言ったらやる人だからね。人の意見はあんまり気にしないよね。すごいよね。失敗とか怖くないのかな。怖い人は会社なんか作らないのか。俺には無理だな」

店員  「烏龍小籠包です」

   「あー、どうも」

ケンゾー「お直しって扱うのは服ですけど、スタイリングとは全然別物だし、そんなことの担当までやるのイヤじゃないんですか?」



ケンゾーは運ばれてきた綺麗な抹茶色の小籠包も見ずに険しい顔を続けている。

そんな風に怒れるっていいことだと思うよ。俺はもう熱いことに気づけないカエルになってしまったのかもしれない…。



   「あー…、なーんかもう社長の無茶ぶりに慣れすぎちゃって」



へへへっと笑ってケンゾーを見ると、ケンゾーもつられて少し笑顔になる。



ケンゾー「満さん、理解ありすぎですよ。あー、もうお腹空きました」

   「うん、食べよ」


ケンゾーがやっと食べ始めたから、俺も再びアツアツを味わう。

おいしい。ふぅ、と額の汗をおしぼりで拭い、再びケンゾーを見る。



   「まぁ…、やりたいかやりたくないかって言われるとやりたいわけじゃないけどさ。今まで通りマネージャーの仕事もするし、社長の意見を突っぱねるほどの意見なんて持ってないしね、俺」

ケンゾー「でもお直しやりたいやついるのかな、アシスタントの中に。…あっっつ!」


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――それからララウとの打ち合わせの日々が続いた。

ララウ本社は運河からの強風が吹き抜ける新豊洲駅近くにある。



今日は俺1人、ララウの担当者・住田と打ち合わせしていた。

住田は俺と同世代だけど、なんだかキラキラ生き生きして見える。

いつもワイシャツがパリッとしているからだろうか。さすがララウ社員。



住田  「お直しの依頼はララウ側で宅配依頼と一緒に受けます。でも、詳細なお直し内容はフリープランで受けてほしいのでお願いします」

   「あ…はい」



住田のシャツばかり見ていたことにハッとして、俺はノートパソコンに言われたことを打ち込む。



住田  「ララウはお客様の個人情報をすべて番号で管理しているので、回収された服にはその番号の札が付いた状態でフリープラン側に渡す流れになります」

   「…はい」

住田  「今回プレ営業対象となるのは、会員様の中でもゴールド・プラチナのお客様です。クリーニングに出される服も高級品ばかりなので、きちんと技術を持ったスタッフを選定してください」

   「…分かりました」

住田  「あと他にフリープラン側で良いアイディアがあればぜひほしいです。こちらとしては年内にはプレ営業を始めて、利益が期待できそうであれば、春くらいから全会員向けに営業したいと考えてますので」



住田のハキハキとした感じに押されつつ平日が過ぎ、やっと土曜日になった――。

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今週はほぼ終電で、奏太の寝顔しか見れなかった。


きっと奏太は俺と遊べず寂しい思いをしたはずだ。今日は思い切り遊んであげないと。

あげないと。あげないと………。でも寒さと眠さで布団から出られない。体が動かない。瞼が開かない。



そう思っていた次の瞬間――。



   「……うっ!」



奏太が俺の上に飛び乗り、「起きろ~!」と大声をあげた。

内臓の何かがつぶれたんじゃないだろうか。



   「…起きる…起きるから…痛い…。パパの上で暴れないで…」

キリコ 「ちょっと私も仕事あるんだけど。何時まで寝てる気? 9時過ぎてんだけど」

   「……っ!」



キリのどすの効いた声が聞こえ、俺の目がパッと開く。



キリコ 「はぁ…。仕事終わらないし、洗濯物が溜まってるし、それなのに曇ってて乾かなそうだし、風はバカみたいに強いし、布団干せないし」



キリのグチを聞きながら起き上がろうとすると、俺のスマホが鳴った。

表示を見ると「会社」。

嫌な予感。出たくない。出てはいけない気がする。カエルの勘。



   「……もしもし。…はい…あー…はい」



電話に出た俺は静かに電話を切った。



キリコ 「とりあえずさ、奏太を連れてどこかで遊ばせてきてよ。外が厳しいなら、室内遊び場とかさ。それか私が図書館に行ってもいいけど。朝ごはんはもう食べさせたから」

奏太  「ぼくね、でんしゃにのりたいの」

キリコ 「あー、いいじゃん。パパと乗ってきな」

   「………ごめん。あのさ」



その日、強風じゃなければ未来は違っていたかもしれない。

この運命は「幸運になる運命」と「転落する運命」。

どちらだろうか――。

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▶︎▶︎ 次回、第5話は、2/20(火)公開予定!

※ この記事は2024年11月17日に再公開された記事です。

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