――「飯行きましょ」。昼時、ケンゾーにそう声を掛けられ、俺とケンゾーは近くの中華料理店に向かった。
ぐつぐつと土鍋の中で踊る豆腐をレンゲで救い、口に運ぶ。
熱い! というか辛い! さすが四川麻婆豆腐。
俺がハフハフと口を動かしている横で、ケンゾーが大きなため息を吐く。今日、何度目?
ケンゾー「お直しとかやってる場合なんですかね」
満 「うーん。まぁ、アシスタントの育成に力を入れるための、お金集めみたいだから、一概にダメとは言えないかもね」
ケンゾー「そうですけど…。急すぎませんか? いや、一方的というか。もう決定事項みたいなもんだったじゃないですか?」
うん、それ俺も思ってた。
満 「そうだねー。社長はやると言ったらやる人だからね。人の意見はあんまり気にしないよね。すごいよね。失敗とか怖くないのかな。怖い人は会社なんか作らないのか。俺には無理だな」
店員 「烏龍小籠包です」
満 「あー、どうも」
ケンゾー「お直しって扱うのは服ですけど、スタイリングとは全然別物だし、そんなことの担当までやるのイヤじゃないんですか?」
ケンゾーは運ばれてきた綺麗な抹茶色の小籠包も見ずに険しい顔を続けている。
そんな風に怒れるっていいことだと思うよ。俺はもう熱いことに気づけないカエルになってしまったのかもしれない…。
満 「あー…、なーんかもう社長の無茶ぶりに慣れすぎちゃって」
へへへっと笑ってケンゾーを見ると、ケンゾーもつられて少し笑顔になる。
ケンゾー「満さん、理解ありすぎですよ。あー、もうお腹空きました」
満 「うん、食べよ」
ケンゾーがやっと食べ始めたから、俺も再びアツアツを味わう。
おいしい。ふぅ、と額の汗をおしぼりで拭い、再びケンゾーを見る。
満 「まぁ…、やりたいかやりたくないかって言われるとやりたいわけじゃないけどさ。今まで通りマネージャーの仕事もするし、社長の意見を突っぱねるほどの意見なんて持ってないしね、俺」
ケンゾー「でもお直しやりたいやついるのかな、アシスタントの中に。…あっっつ!」
公開 2018年02月16日
優柔不断な俺は、いつも社長に振り回される。 / 第4話 side満(2ページ目)
34,793 View家族で岐阜の実家へ帰省した夜、満は地元の友人たちと飲みに行き、久しぶりに酔っ払ってバッティングセンターに行く。ストレスが飛んでいくほとはしゃぎながらも、自分たちが年をとったことを感じる。
週明けの月曜日、岐阜での楽しかった夜を思い出しならがら満が会社に向かうと…。
※ この記事は2024年11月17日に再公開された記事です。
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連載「家族の選択」
#4
さいとう美如
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