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公開 2018年02月23日  

今週末は子どもと遊ぼう。そう思ってたんだよ、俺だって。 / 第6話 side満

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スタイリストの派遣会社・フリープランに務める満は、週明けの月曜日、出社すると社長に呼び出される。
高級クリーニング店として名が売れているララウのお直し業務をフリープランで請けるという新規事業を始めると語る社長からの話を聞き、断れないままマネージャー業務に加えて新規事業の担当をすることになった満は残業が続く日々になってしまう…。


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第6話 side 満



はぁ、奏太に思い切り「パパきらい!」と言われてしまった。

いや、俺だってさ、興味のない新規事業をがんばってこなしてさ、やっと奏太と遊べる土曜になったって思ってたんだよ。キリの〆切も今日の夕方みたいだし、本当は俺だって家にいたかったんだよ。

それなのに休日出勤になったこの悲しさ、誰か分かってもらえますか?

心の中でぶつくさ言いながら会社に向かうと、会社のマンション前でアシスタント三人が立ち話をしていた。



   「…あー、ごめんね。待たせちゃったね」



俺は急いでオートロックを開けた。

「株式会社フリープラン」の表札が貼られた603号室のドアを開けると、中は温かかった。社長は出たばかりか?



   「北野たちのグループは?」

アシスタント  「今、こっちに向かってるみたいです」

   「あー、そう。じゃあ…順番に話するから、呼ばれたら会議室に来て」

アシスタント  「はい」



――面談をした三人のアシスタントたちは「今の仕事を続けたい」と言い、30分程度で帰って行った。

このままいけば午後イチくらいに終わって、奏太と遊ぶことが出来るかもしれない! 

ずるい手だと分かっているけど、一緒におもちゃ屋さんにでも行って、「だいすきだよ、パパ!」と最高にカワイイ笑顔で言ってもらいたい…! じゃないと、俺、仕事がんばれない…。


…と、思っていたのに、北野グループがなかなか来い。



北野  「遅くなってすみません! 渋滞にはまっちゃって」



たまっていたマネージャー業務をしていたら北野たち3人のアシスタントが事務所に入って来た。



   「大変だったね。千葉の方に向かってたのに折り返しになっちゃって」

アシスタント  「どう考えても強風で撮影が無理だって思ったんだけど、北野が先方に、現場の様子を見てきます、なんて言うから」

北野  「だって、行ってみなきゃ分かんないだろ? 今日には今日しか撮れない絵があるんだよ」



あー、そうそう。「千葉」「正義感」で思い出したけど、あのガーランドを忘れた撮影の時も北野は一直線な正義感を振りかざして、自己判断で布屋に行ってたんだよな。

やる気があるのはいいけど、人に迷惑を掛け…。そんなことより今は「面談」。


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   「じゃあ…まずは」


初めの二人は良かった。アシスタント業務を続けたいという意思がはっきりしていた。北野もおそらくそうだろうと思っていたのに…。



北野  「それってリメイクってことですか?」

   「……ん?」

北野  「え、だってスタイリストがお直しします、って売り出すんですよね?」



意外と新規事業に興味津々だった…。いや、いいことなんだけどさ、お腹空いてない?気づけばもう13時だ。俺はさ、朝ごはんも食べてないところに、コーヒー5杯目でなんかもう気持ち悪い…。



北野  「まさかただのボタン付けじゃないのかなぁって思ったんですけど」

   「…あぁ。先方もアイディアは欲しいみたいだから、聞かせて。たとえばどんなリメイク?」



どっちにしても今日は北野が終わったら終わりだ。がんばろう。俺はこみ上げるゲップを押さえ、パソコンのキーボードを打つ。



北野  「そうですねー!たとえば、たとえばですよ。服の雰囲気を変えたいってリクエストがあって、襟だけ替えるとか、スタッズやレース付けるとか、袖の長さを替えるとか。スタイリストにおまかせで」

   「……おまかせねぇ。そういう依頼は、あんまりなさそうだけどね」


キーボードを打ちつつ、本音を返すと、ピタッと北野がしゃべらなくなった。


不思議に思って顔を上げると、北野が不満そうな表情で俺を見ていた。あ、せっかくの意見ごめんね…。そう言おうかなと口を開くと同時に、北野の反撃スイッチが入ってしまう。


北野  「じゃあ、聞きたいんですけど、これうちの会社がやる意味あります?」

   「あー…」

北野  「俺、ボタン付けやるためにこの会社に入ったわけじゃないですよ?」

   「うん…」



待って熱がすごい。落ち着いて…。



北野  「売れっ子スタイリストになるためですよ? ボタン付けなんて素人でもできますよね?」



分かったからさ…。



北野  「服飾の学校に行かせてくれた親が泣きますよ!!」



北野がバーン! とデスクを叩き、目頭を押さえた。



   「………」

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   「…じゃあ、北野はアシスタント続行…」

北野  「待って下さい。リメイク…。うーん、他にもアイディア出そうなんで、付き合ってください」

   「………うん、ありがとう」



散々、話倒した北野が「リメイクが出来るならお直し業務をやります! お任せください」と宣言した時、時計はもう14時になっていた。はぁ、疲れた。熱にやられた。体温が上がってるんじゃないだろうか。


――プルルルル


くだらないことを考えていると俺のスマホが鳴る。社長だ。



   「…はい」

社長  「面談どうだ?」

   「今、終わりました。今日はとりあえず6人です」

社長  「お疲れさま。飯は?」

   「食べてないです」

社長  「だよな。今、エクランで食べてるから来いよ」


会社から白金台駅に向かう道にパスタ屋「カフェ・ラ・エクラン」はある。ちょうどよかった。腹ペコだし、美味いパスタ食べつつ、報告してそのまま駅に向かえる。


   「…分かりました。今から行きます」



エクランはまるで結婚式場か、というような外観で、男ふたりでランチするにはちょっと違和感があるけど、会社に入ってもう9年だもんな。おじさんと向き合って、この雰囲気の中でパスタを食べても何も感じない。



土曜日ということもあってカップルだらけの店の中から、社長が「おーい」と俺に手を振った。



   「お疲れ様です」



席に向かうと社長はペンネアラビアータを食べていた。俺はいつも決まって、これでもかと青ネギが乗った和風パスタを頼む。

少し甘みのある和風ソースと、青ネギの触感がたまらない。空腹に耐えた胃と喜びを分かち合いつつ、俺は面談のことを社長に報告した。



社長  「なるほどな。リメイクの件、ララウの担当者に話しておけよ」

   「はい」

社長  「あとは使えそうなアシスタントだれかいるか?」

   「そうですね、何人か。あー…黒沢だけ折り返しの電話もメッセの返信もなくて」

社長  「黒沢かー。あいつ全然仕事してないよな」

   「はい…」



黒沢は25歳の女性アシスタント。とても綺麗な顔立ちで、センスも良く、会社としては期待していた人物なのだけど、今年の秋くらいからまったく仕事を請けなくなってしまった。一度、ちゃんと話さないとと思いつつ、気づけば12月。これは年内にどうにか会わないと…。

パスタの最後のひと巻を口に入れようとすると、スマホにメッセが届く音がした。

おそらくキリ。そんな予感がして、俺はフォークを皿に置き、スマホを先に見ることにした。「これから帰りますよ」と返信するために。


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※ この記事は2024年11月23日に再公開された記事です。

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