やりたい仕事と家族の時間。両方はやっぱり高望みなんだろうか。 / 第10話 side満のタイトル画像
公開 2018年03月09日  

やりたい仕事と家族の時間。両方はやっぱり高望みなんだろうか。 / 第10話 side満(2ページ目)

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スタイリストの派遣会社・フリープランでマネージャーをしていた満は、社長の頼みを断ることができないまま、高級クリーニング店ララウと共同で始める「服のお直し」の新規事業の担当になってしまった。服を作るのが大好きだったはずなのに、やっているのはお直し業務の依頼をメールや電話で受け付ける仕事…。やりたかった仕事とどんどん離れていくことに悩む満に1本のメッセが届く―。


猛烈にモヤモヤしながら帰宅すると、夕飯の用意が出来ていた。

今夜は母ちゃんが野菜中心の料理をたくさん作ったようで、一品一品は普通の家庭料理だけど、なんだか豪華に見える。



「ただいまー」

真由美 「おかえり」

キリコ 「おかえりなさーい」

   「奏太、ただいま」

奏太  「………」



ぜんぜん楽しくない俺の気持ちとは裏腹に、お直し業務は順調で、ララウ全会員にサービスを始めることになり、俺は今でもときどき休日出勤されられている。

だから奏太は再び「パパきらい」モード発令中。大好きなわが子に無視されてまで仕事する俺…。



真由美 「さ、たべよ、たべよ」

奏太  「いっただきまーす!」



定時で帰れるようになって、こうして夕飯を一緒に食べられるのはすごくいいんだけどなぁ。

これにプラス「俺のやる気」「奏太と遊ぶ時間」も確保できたら最高だけど、それは望み過ぎなんだろうか。さっきのフォトスタジオなら全部叶ったりして…。

副菜をちょこちょこ挟みつつ食べていると、奏太が眠くなってしまって、キリが奏太を抱えて寝室に向かった。眠いなら寝たらいいのに、寝付けずにグズっている奏太の声が聞こえる。

キリと替わってあげたいけど、奏太、俺だとさらにグズるだろうな…。



   「…はぁ」



思わずため息を吐くと、母ちゃんと目があった。



真由美 「仕事はどうなの?」

   「…ん、別に、フツー」



楽しくない仕事のことを母ちゃんに話したくなんかありませんよ…。



真由美 「フツーって…。たまにしか聞けないんだから聞かせてよ」

   「別に…話すようなことはないよ。…疲れてるんだからゆっくりテレビ見させてよ」

真由美 「…ふふふ」

   「…なんだよ?」


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真由美 「昔はお母さんがよく満に言ってたなぁと思って。疲れてるんだから、って。あの頃はお前も甘えたくて、いっつもお母さんに引っ付いて、色んな話をしたがったのにね」

   「そりゃ…子どもだったしね。こんなおっさんになっても変わらなかったら怖いだろ」

真由美 「そうだね。満さ、奏ちゃんに嫌われてるの? パパきらいって言ってたけど」



…う。俺のいないところでも言ってるのか。泣きそう。



   「……最近、あんまり遊んでやれてなかったからね」

真由美 「子どものために仕事いくら頑張っても、嫌われたら本末転倒だよ」

   「い…言われなくても分かってるよ。食べ終わったなら風呂に入ってきなよ。一番風呂、どうぞ」

真由美 「お母さんもお兄ちゃんとお前のために一生懸命がんばってる間に、お前たちのカワイイ時期はあっと言う間に過ぎちゃって、こーんな風に可愛くなくなっちゃったんだから。あー、奏ちゃんはカワイイ。お風呂入ります」



母ちゃんは笑いながら食器を持って席を立った。言い返す言葉もなく、ぼんやりテレビを見ていると、風呂に入った母ちゃんと交代でキリがリビングにやってきた。



キリコ 「奏太、寝たよ。…お義母さんに仕事のこと話してあげればいいのに」



キリは席に着くと、まだ途中だった夕食を食べ始める。



   「…聞いてたの?」

キリコ 「聞こえてたの。こっちに来ようと思ったら2人が話し出したから、行くタイミングを見計らってたんだよ。母と息子の会話を聞いてて悲しくなってきたよ。奏太もこうなるのかなー、寂しい」

   「…疲れてるんだからしょうがないでしょ」

キリコ 「まったく母の気持ちをなーんにもわからない息子だわ。子どものころから変わらないのね」

   「…なんだよ。やけに突っかかるじゃん」

キリコ 「なんか本当、奏ちゃんもいつかパパみたいになるのかと思うと…」

   「パパみたいって…」

キリコ 「昼間さ、お義母さんからパパの子どもの頃の話を聞いたのよー。いやー、かわいかった」



…何を聞いたわけ?大きめの茹でブロッコリーを口に入れてもぐもぐ口を動かしているキリの次の言葉を待つ。



キリコ 「予想外に、野球がうまかったようで」

   「え?」

キリコ 「聞いたよ。逆転ホームランを打った最後の試合。ヒーローじゃん、パパ。そこで運を使い切ったね」



それって…小学校最後の試合のことだよな?



   「…待って。なんで知ってるの?」

キリコ 「だーかーらー、お義母さんにー」

   「いや、だからなんで母ちゃんが知ってんのって聞いてんの。仕事だったから応援にも来てなかったはずだよ」


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俺の返しにキリが「ふふふ」と笑いながら味噌汁を飲む。

何がおかしいって言うんだ?あの日、母ちゃんは試合を見にきてないぞ。というか、そもそも練習も試合も一度も来た事なんてない。いつだって子どもより「おぼろさん」が優先された家なんだから。



キリコ 「お義母さんね、時々こっそり見に行ってたんだって。お義父さんに怒られないように買い出しに行くふりして」



…マジか。まさか20年以上経ってから知らされる事実。



キリコ 「わかったらお義母さんに仕事の話をしてあげないさい」

   「………はい」

キリコ 「よし。あー、お腹いっぱい。そうだ、きんつばがあるよ? デザートに食べよう」



え、まだ食べるの? と突っ込もうとしたら、キリのスマホが鳴った。



キリコ 「わーーーー」



スマホを見るなり、キリが机に突っ伏したまま固まってしまう。



「……え? なに? どうした?」



――円田家の新しい選択。それはこの夜から始まったのだった。


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▶︎▶︎ 次回、11話は、3/16(金)公開予定!

※来週3/13(火)は1話から10話のあらすじまとめを公開予定です◎

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※ この記事は2024年10月05日に再公開された記事です。

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